万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

予測されるデジタル増税

2024年09月30日 11時53分50秒 | 日本政治
 デジタル技術の主たる利便性は、情報のデータ化を伴う管理の合理的なシステム化にあります。個人レベルを見れば、パソコン等の普及により個々人も自らの‘記録’をデジタル情報として管理しやすくなりましたし、また、電子メールもコミュニケーションを格段に迅速且つ容易にした側面はあります。しかしながら、デジタル技術が人々の生活を豊かにしたのか、個々人に安らぎを与えたのか、さらには芸術的な感覚を研ぎ澄ましたのか、と問いますと、否定的な回答の方が多いかも知れません。

 第二次世界大戦後に急速に普及した家電製品といった個人が使用する製品は、家事労働の負担を軽減したり、娯楽の手段を得るなど、その影響はおよそ個人や家庭のレベルに留まり、社会全体の仕組みを変える程までには至りませんでした。機械製品が、人間の物理的な労力を代替する形態であれば、新たな技術がもたらす恩恵は、個々人に及びます。むしろ、消費者のニーズに応える形で新たな製品が登場しましたので、消費や牽引型の経済であったと言えましょう。その一方で、冒頭で述べたように、デジタル技術は管理向けの技術という特質があります。言い換えますと、同テクノロジーは、多数の被管理者や管理対象の広範性を前提としており、極めてシステマティックな包括志向の強い技術なのです。そして、‘ビッグデータ’という言葉が象徴するように、同技術が最も効率性を発揮するには大量のデータ収集を要します。

 この世は政治、経済、社会様々なシステムで成り立っていますので、デジタル化の影響は、人類の生存空間全体に広がります。デジタル技術の登場によって人類は産業革命以来の大転換機を迎えたとする説も、同テクノロジーの特質からすれば容易に理解されます。また、その先に潜むデジタル全体主義のリスクも、同技術の包括志向性からすれば当然の心配事と言えましょう。個人や家庭向けの電化製品の普及が消費者から歓迎された一方で、IoTと称される‘繋がる家電’に対する一種の警戒感や抵抗感が見られるのも、デジタル家電製品が個人や家庭に対するデータ収集の端末機器となり、自らが目に見えない組織に絡め取られてしまうリスクを消費者が感じ取っているからなのかもしれません。

 こうしたデジタル技術の特質を理解しますと、政治サイドが同技術の導入に躍起になる理由も分かってきます。デジタル技術は、支配欲に憑かれた者に、徹底した人類・国民管理の手段を与えるからです。おそらく、デジタル化を積極的に進めている日本国政府も然りであり、さらにその背後には、グローバルなレベルでのデジタル全体主義体制の構築を構想している世界権力が控えているのでしょう。両者の主従関係は、ダボス会議の常連出席者である河野太郎氏がデジタル相を務めたことにも現れています。

 そして、ここに一つの問題が持ち上がります。政府は、常々、国民に対してはデジタル化の利便性をもって説明していますが、上述したように、デジタル化がシステム化である限り、デジタル設備や機器等を調達して設置する必要があります。専門知識や技術を有する人材を雇用するだけでは足りず、公的機関において広範な基盤整備を伴うのです。言い換えますと、膨大なコスト、すなわち予算を要するのです。

 この点、総務省の令和6年度の予算を見ますと、驚くほどにデジタル関連の事項が並んでいます。地域デジタル(DX)の推進に458.0億円、デジタル基盤整備に507.3億円、デジタル実装による課題解決に16.5億円、誰一人取り残さないための取組に17.8億円、国際競争力強化に向けたAIなどの科学技術・イノベーションの推進に502.2億円、サイバーセキュリティーの確保に54.9億円・・・と言うように。因みに、主権者教育の推進と投票しやすい環境の一層の整備の予算は、僅か1.7億円でしかありません。総務省一省、しかもDXやGXへの取り組みが始まったばかりの段階でこの予算額ですので、今後、マイナンバーの本格的な運用や利用拡大等が進みますと、さらにデジタル予算は膨れ上がることでしょう。しかも、保険証の廃止問題で持ち上がったように、政府による新たなシステム導入や変更は、民間事業者や個人にも出費を強いるのです。

 慢性的な赤字体質の改善に向けて、財政再建の文脈から予算のスリム化が叫ばれてきましたが、毎年、予算が‘過去最高’を更新しているのも、少子高齢化による社会保障費の伸びならず、デジタル予算が増え続けているからかも知れません。そして、日本国政府が、一種の‘上からの革命’とも言える‘グレート・リセット(日本語ではムーンショット計画・・・)’の実現を目標としてデジタル化社会を上から急速、かつ、強力に押し進めるとしますと、日本国民の肩にのしかかっている税がさらに重くなるものと予測されるのです(つづく)。

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