万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

’日本が最下位論’から読む’資本主義’の行き詰まり

2022年01月04日 14時39分14秒 | 国際政治

 新たな年を迎えつつも、今日の世界情勢は、来し方を振り返る一瞬をも許さないような速さで既に走り始めているかのようです。ここ数年来、各国の政府もメディアも、何かに憑かれたかのように、コロナ、脱炭素、デジタルを軸として’前進’してきたのですが、今年も、この方向性は継続されそうな様子です。慌ただしく始まる2022年となりましたが、本年も、本音の記事を認めたいと思いますので、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

 

 さて、年明け早々、ネット上にありまして、新年らしからぬオンライン記事のタイトルを発見いたしました。それは、「「中国が急上昇し、日本が最下位に」年末に公表された"残念な世界ランキング"の中身」というものです(1月4日付PRESIDENNT Online)。例年ですと、年の初めに当たっては、どちらかと申しますと明るい未来を予感させるタイトルが大半を占めるのですが、今年は‘日本が最下位’という悲観論も登場する異例の年となったようです。

 

 それでは、日本国は、どのような事柄において’最下位’という不名誉な地位を得てしまったのでしょうか。それは、イギリスの慈善団体「Charities Aid Foundation」が毎年発表する「世界寄付指数(World Giving Index)」におけるランキングでのことです。同指数は、アメリカの市場調査会社ギャラップ社が114カ国、凡そ12万1000人の人々を対象として実施した電話インタビューの結果をベースとして作成されており、’見知らぬ人への支援’、’寄付’、’ボランティア’の3つの質問に対する回答を基準として算出されています。

 

 全114カ国中最下位という数字だけを見ますと、日本という国は他者に冷たく、人情に薄い酷薄国家という印象を受けるのですが、中国のランキング上昇は、習近平国家主席が唱える共同富裕の一環として実施されている国家主導型の寄付推進政策の結果ですので(2016年には「中国慈善法」が成立…)、同指数が、心の温かさを正確に反映しているとは言い難く、それ程に嘆く必要はないのかもしれません。そして、もう一つ、同記事において疑問を感じる点は、今日の’資本主義’が抱える最大の問題点は、現状にあっては富裕層による寄付が少ない、あるいは、格差是正の最良の方法は、富裕層による寄付の積極化である、とする結論に導いているように思えるところにあります。

 

 同記事は、「世界寄付指数」の紹介を以って全文が記されているわけではなく、前半部分にあっては、ステラのイーロン・マスク氏やGAFAMのCEOといった世界の大富豪に、年々富が集中してゆく現状を説明しています(おそらく、隠し財産などを合わせると習近平国家主席やプーチン大統領の方が上回るのでは…)。そして、こうした格差拡大の原因を、1980年代以降に全世界を席巻することとなった新自由主義の登場に求めているのです。

 

仮に、今後とも、規制緩和、インフラを含む民営化や公的資産の売却、市場の対外開放、非正規社員化、ジョブ型雇用の拡大、累進課税の緩和、独禁法の緩い適用といった同主義の政策を続けてゆくとなりますと、さらに格差は拡大してゆくことでしょう。しかも、ステラであれGAFAMであれ、ビリオネアとなれるのは、そのトップのみなのです。‘資本主義’の未来とは、1%どころか、極々少数の人々が、デジタル化をも手段としながら巨万の富、並びに、それを資金源として権力を掌握する世界なのです。そして、同記事は、その是正のために推奨されるべき解決方法こそ、これらの人々による自発的寄付ということなのでしょう。しかしながら、果たして、こうした経済システムは、人類にとりまして望ましいスタイルなのでしょうか。

 

 寄付とは、専ら’持てる者’の一方の意思に依拠するものですので、人と人との関係にあっては対等な合意を要しません。寄付を前提としたシステムは、経済システムの類型からしますと、もはや対等な関係における’交換’に基づく自由主義経済のシステムではなく、配分型のシステムに限りなく近づくことでしょう。ソ連邦といった社会・共産主義国では、経済を計画・統制する立場にある政府が配分者となりましたが、’資本主義国’では、寄付者となる民間の大富豪が配分者となるのです。そして、配分(寄付)の目的、対象、金額といった様々な条件や詳細は、寄付者の一存に任されますので、寄付者の個人的な好悪や気まぐれによって、人々の生活は不安定化することでしょう(あるいは、寄付者が破産した場合には路頭に迷うことに…)。

 

 ’資本主義’というシステムが経済システムの一類型に過ぎないとしますと(大富豪牽引型の経済?)、人類には、民主主義や個々人の自由とも調和する別の道もあるように思えます(もちろん、共産主義も失敗モデル・・・)。経済における人と人との関係が一方的となるシステムは搾取を生みますし、容易に支配・被支配の関係に転落してしまいましょう。今年は、多くの人々が、新たな道を探求し始める年となることを願っております。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする