「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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知っておくべき刑法:どんな時に正当防衛で許されるか。過剰防衛・誤想防衛・自招防衛・偶然防衛・緊急避難

2012-06-08 10:09:39 | シチズンシップ教育


Q: 子どもの頃、よく「正当防衛」とかいいながら、小突きあったものです。私も、最も早く口にした法律用語のひとつじゃないかなって思っています。
  正当防衛ってなにですか?


A:正当防衛の規定は、刑法36条にあります。

****刑法*****
(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

***********

 とくに、正当防衛が成立するかどうかの「要件」は,刑法36条1項にいうところです。



Q: 正当防衛の場合、罰することがないわけですね。

  なぜ、そのように考えられるのですか?

A: 正当防衛の根拠ですが、

 *自らを守ろうとするのは人間だれしも持っています。(自己保存の本能)

 *また、法を守るためには、戦うとするその意思を表し、その意思を後押しすることを法が認めたということです。(法確証の利益)

 *そして、後で詳しく述べますが、なんらかの侵害を加えてくるものの利益の保護よりも、そのような違法なことから、守られるべき身体生命の利益の保護のほうがずっと重要であることが明らかであります。(優越的利益)

 これらの理由から、正当防衛が正当化され、無罪とされるのです。


Q: どのような要件がそろうと、正当防衛といえるのでしょうか。


A: 主に、1「急迫」「不正」の侵害、2防衛の意思、3手段の相当性 の三つがそろうことが必要と考えられています。


Q: 急迫とは?


A:過去の侵害でも、将来の侵害でもなく、そのたった今の差し迫った侵害をいいます。

 最判昭和46年11月16日(刑集25巻8号996頁)では、「刑法36条にいう「急迫」とは,法益の侵害が現に存在しているか,または間近に押し迫っていることを意味し,その侵害があらかじめ予期されていたものであるとしても,そのことからただちに急迫性を失うものと解すべきではない。」と述べられています。


Q: 予期していた場合、急迫ではなくなり、正当防衛が成り立たなくなりますか?

 例えば、夜道を歩くとき、痴漢撃退スプレーを持っているようなとき。そして、痴漢が来て、実際それで、撃退したようなとき。

A:そんなことはありません。予期をしていても、その場合、急迫不正の侵害があったとして、当然に、正当防衛は成り立ちます。

 この裁判例は、予期しても正当防衛が成り立つ趣旨をのべています。(合わせて、積極的加害意思がある場合は、成り立たないとも述べています。)

 最決昭和52年7月21日(刑集31巻4号747頁)

「刑法36条が正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは,予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないから,当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても,そのことからただちに侵害の急迫性が失われるわけではないと解するのが相当であり,これと異なる原判断は,その限度において違法というほかはない。しかし,同条が侵害の急迫性を要件としている趣旨から考えて,単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず,その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは,もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。そうして,原判決によると,被告人は,相手の攻撃を当然に予想しながら,単なる防衛の意図ではなく,積極的攻撃,闘争,加害の意図をもって臨んだというのであるから,これを前提とする限り,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきであって,その旨の原判断は,結論において正当である。」


A:「不正」の侵害とは?


Q:「不正」=「違法」な侵害であることを言います。

 とくに、動物による侵害に対する正当防衛(対物防衛)で問題になることがあります。

 「犬にかまれた」ケースです。

 そのようなとき、もし、犬の所有者の故意又は過失がある場合、正当防衛が成立します。

 他人の飼犬が突然襲ってきて、所有者の故意又は過失がない場合が問題になります。

 犬は、法律上は物です。その犬に危害が加えられそうになって、その犬を殺すと、器物損壊罪の罪を、こちらが、着せられることになります。

 ただ、普通に考えてそれは、妥当ではないと誰もが感じます。

 よって、動物からの攻撃は「不正」の侵害であるとして正当防衛を肯定する考え方が有力になってきています。



Q:防衛の意思とは?


A:刑法理論上、二つの考え方があります。

 ただ、裁判例で理解することとして、防衛の意思は必要とされています。


 *違法性論 行為無価値論と結果無価値論が対立する場面
  行為無価値論 : 防衛の意思が必要(主観的正当化要素)
  結果無価値論 : 防衛の意思は不要(違法性は客観的要素)

 
 どのように裁判例がいっているかというと(最判昭和50年11月28日(刑集29巻10号983頁)【百選Ⅰ・24事件】

 「急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為と認められる限り,その行為は,同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであっても,正当防衛のためにした行為にあたると判断するのが,相当である。すなわち,防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は,防衛の意思を欠く結果,正当防衛のための行為と認めることはできないが,防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合の行為は,防衛の意思を欠くものではないので,これを正当防衛のための行為と評価することができるからである。
 しかるに,原判決は,他人の生命を救うために被告人が銃を持ち出すなどの行為に出たものと認定しながら,侵害者に対する攻撃の意思があったことを理由として,これを正当防衛のための行為にあたらないと判断し,ひいては被告人の本件行為を正当防衛のためのものにあたらないと評価して,過剰防衛行為にあたるとした第1審判決を破棄したものであって,刑法36条の解釈を誤ったものというべきである。」


 何が言われているか整理すると、

 *正当防衛には防衛の意思が必要

 *防衛に名を借りた積極的な攻撃行為 → 防衛の意思は認められない

 *防衛の意思と攻撃の意思が併存 → 防衛の意思は認められる

 ということです。


 急迫のところでいいましたが、行為前の段階での意思ではなく、まさにその侵害のときに、防衛の意思が必要であります。


Q:防衛の意思とは、どんな内容を指すのですか?

 防衛の意図・目的まで、必要だとしますか?


A:裁判例では、防衛の意図・目的まで、必要とはしていません。

 正当防衛は、「急迫」の場面であり、そのようなときに、確固たる防衛の意図・目的までもつことを要求すると、正当防衛の意味が限定され、正当防衛自体が成立しなくなることが多々出るやもしれません。

 よって、防衛の“認識”で足りるとされています。
 防衛状況を認識しながら、それに対応する心理状態でたります。自衛本能に基づいてほぼ無意識的・反射的になされた反撃行為にも、防衛の意思を認めることになります。



Q:手段の相当性とは?



A:刑法36条1項の「やむを得ずにした行為」に関しての考え方になりますが、その行為が、相当であれば、正当防衛、行き過ぎると「過剰防衛」となる判断の分かれ目です。

 相当性があれば、「正当防衛」となり無罪、相当でなければ、「過剰防衛」とされ、刑法36条の2項で処罰されるということです。
   

Q:相当性の判断基準は?


A:2つの面(要素)から判断します。

 一つ目は、「守ろうとした利益と反撃行為によって生じた侵害結果」の相対的な(ある程度の)法益均衡が保たれていることです。
 このある程度は、超えていても構いません。

 次のテーマ「緊急避難」との違いがここに出ています。「緊急避難」では、厳格な均衡が求められます。正当防衛は、ある程度の均衡で構いません。


 もうひとつは、「防衛手段としての相当性」です。


Q:逆の見方をして、では、相当性を欠いた反撃行為は、正当防衛ではなく、過剰防衛(刑法36条2項)とのことですが、どのような場合をいいますか?


A:過剰というとき、2つの類型で延べられます。
 「質的過剰」と「量的過剰」です。

 質的過剰とは、素手に対して凶器を使うことです。

 量的過剰とは、侵害終了後又は弱まった後でも、さらに反撃行為を加えることをいいます。



Q:正当防衛の三つの要素はわかりました。

 では、勘違いして、防衛行為をすることは、ありえませんか?


A: 「誤想防衛」の問題です。

 急迫不正の侵害が存在しないにもかかわらず,これがあると誤信して行った反撃行為です。

 「急迫不正」侵害が客観的に存在していれば、正当防衛ですが、客観的に存在していないため、正当防衛としては、扱われません。

 ただ、正当防衛を基礎付ける事情についての錯誤として考えられ、事実の錯誤ゆえ、「故意」なしとして無罪になります。(事実の錯誤とする説。一方、法律の錯誤とする説もあり。)


Q:「自招防衛」とは、なにですか?


A:まず、みずからがちょっかいを出して、相手の攻撃を誘発した場合です。


Q: 正当防衛となるのですか。

A: ケースバイケースです。

 刑法理論でも、いろいろな考え方、理論があります。
 (例、原因において違法な行為の理論、など)

 裁判例では、最決平成20年5月20日(刑集62巻6号1786頁)があります。

「被告人は,Aから攻撃されるに先立ち,Aに対して暴行を加えている
      のであって,Aの攻撃は,被告人の暴行に触発された,その直後におけ
      る近接した場所での一連,一体の事態ということができ,被告人は不正
      の行為により自ら侵害を招いたものといえるから,Aの攻撃が被告人の
      前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下に
      おいては,被告人の本件傷害行為は,被告人において何らかの反撃行為
      に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきで
      ある。そうすると,正当防衛の成立を否定した原判断は,結論において
      正当である。」


 判決要旨から、わかることは、


     *故意による自招侵害について正当防衛を否定しています。

     *最高裁が正当防衛を否定するための要件として示した事情が示されています。


Q:偶然防衛とは?

A:おこなった行為が、たまたま自らの身を守っていた場合です。

 例えば、Aさんは、Bさんをピストルで撃って殺したが、実は、Bさんは、Cさんを打ち殺そうとしているところであって、結果的にCさんが守られた。しかし、このことをAさんは知らずに撃っている。

Q: 正当防衛になりますか? 防衛の意思がないように思いますが。

A:おっしゃるように防衛の意思がないです。よって、殺人罪既遂と考える考え方があります。(行為無価値論より。他に、客観的に結果無価値ではないため、未遂を同理論から導かれるとする考え方もあり。)

 その一方で、たまたまであったとしても、Cさんの命を守っていたのであるから、よいとする考え方、すなわち、この点で、防衛の意思は不要としつつ、無罪を導く考え方があります。(結果無価値論より。他に、違法な結果が生じた可能性を鑑み、行為自体の危険性が残っているため、殺人未遂を同理論から導かれるとする考え方もあり。)



Q:正当防衛の36条の次に、緊急避難の37条があります。

 緊急避難とは、なにですか。


A:まず、条文を見ます。

 条文では、36条と37条、たいへんよく似ています。


*****刑法*****
(緊急避難)
第三十七条  自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2  前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。


Q:具体的にどんな場合が、緊急避難にあたりますか。

A:例えば、
 *自宅まで延焼してきたとき、逃げるため、隣の家のガラスを割って、侵入して逃げた。

 *殴りかかられるのをよけるため、避けようとしたら、隣の人に自分の体が当たって、突き飛ばしていた。



Q:正当防衛と緊急避難の、その違いとは?


A:最も異なる点は、正当防衛は、「不正」対「正」の関係ですが、緊急避難は、第三者に危難を転嫁するのであって、その第三者と避難者との関係は、「正」対「正」の関係にあるわけです。

 「正」の第三者への避難行為であるわけで、その行為が正当を認められる要件はとても厳しくなります。


Q:どんな要件が必要になりますか?

A:正当防衛と同様に、急迫性は必要である点は同じです。

 避難行為において、その行為以外に取るべき行為がなかったことが求められます。(このことを法律用語で、「補充性」といいます。)

 その上、厳格な法益の権衡が必要と言われています。

 正当防衛で言われた、ある程度の均衡とは、異なり、ここは、厳格に均衡が取れることが求められます。

 そのような場合、はじめて、刑が免除されます。

 以上、正当防衛に関連した論点を述べました。

 正当防衛の場面に遭遇しないことが一番良いのですが、万が一の場合に備え、念頭においてください。
 
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