波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋     第60回

2009-01-24 11:05:05 | Weblog
話には聞いていたが、自分がそんな経験をすることになるとは夢にも思っていなかった。恐ろしい気持ちと、好奇心が交錯して複雑な思いで、ぼんやりと部屋で待っていた。えらいさんもホテルの部屋で待っているに違いない。
30分ぐらいたった頃、部屋のドアをたたく音がした。出てみると、小柄な若い女の子が二人とボーイが立っていた。ボーイにチップを渡し、話をしてみる。
「一晩の契約で、一人三万円」たどたどしい日本語で話す。特別おどおどしたところも無く、ごく普通のようである。初めてではなく、アルバイト的な感覚なのだろうか、特別な感情はなさそうである。早速、二人を連れて高級ホテルのえらいさんのところへ行く。待ちかねていたように招かれて部屋へ入る。何かアルコールを飲んでいたようで、赤ら顔が電灯の明かりで光って見えた。「松山君、君はどちらがいいんだ。好きなほうをつれて帰りなさい。」唐突に言われて、また動揺した。二人を
置いて帰ればよいと思っていたら、自分も面倒を見ることになっている。つまり共犯としての縛りであった。ちらりと女の子の顔を横目で見た。一人は少し可愛げで美しかった。一人は色も黒く、目立たない子だった。「こちらの子を連れて帰ります。」「そうか。その子がいいのか、じゃあな。明日は9時ごろ迎えに来てくれ」可愛い子を置いて、その目立たない子を連れて部屋を出た。
これで何とか、業務が終わった。やれやれと言う気持ちで自分のホテルまで歩いて帰った。女の子が付いてくる。部屋に入って決まりの金を渡す。小姐は無表情に金を受け取るとバッグにしまう。そして決まりの様に服を脱ぎ始めた。
松山は慌てた。「ちょっと、待ってくれ。決まりだから金は渡したが、セックスはしなくて良い。帰っても良いよ。」と言うと、「私は仕事で来ているから、帰れない。今日はここにいる」と言う。「ここに君がいると、私は寝られないから、帰ってくれ。」と繰り返した。そう繰り返していると、急に彼女は電話をかけ始めた。何を言っているかさっぱり分らないで早く帰ってくれないかと待っていると、ちょっと出かけたい所があるから一緒に来てくれと手を引っ張られた。
ここにいるより良いかと覚悟を決めて、ホテルを出た。小姐はタクシーを拾うと、行き先を告げた。松山は開き直っていた。どんなところへ行く気なのか、好奇心で一杯だ。タクシーは暗がりから急に明るいところへ出た。出てみると、夜中なのにこうこうと電気が照らされている市場である。こんな時間にこんな商売をしている所がある、日本では到底考えられないことだが、違うなあ。と妙な感心をしていた。