波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋          第54回

2009-01-02 08:02:26 | Weblog
このボスの特徴はお坊ちゃん育ちであること、従って自然なわがままだった。すべてに自分の思い通りにことが運ぶのが当たり前であり、そのようになら
ないと感情がむき出しになる。確かに人間は不足を感じたり、満足が得られない時に我慢とか、忍耐とか、あるいは思いやりとかと言う感情と理性が生まれてくるものである。従って、その必要が無いとすれば必然的にそのようなものは生まれてこないし、必要が無いのである。
だから、最低限の人間関係における節度として持ち合わせているとしても、それ以上のものは無いのである。
自分より権力の無いもの、弱いものに対してそのように振舞うのは当たり前なのかもしれない。ご機嫌の良い時はやさしく接するが、悪い時は極端に変わるのも自然と言えば、自然なのかもしれない。
そして、「無くて七癖」と言われるように、この人にも「癖」があった。
それは、「魔が差した」としか思えないように突然始まった。毎日のように続くクラブ通いである。定時退出時間になると、そわそわし始め、車の手配に入る。
お抱えの運転手に時間と、行き先を指定、そして行動を開始するのだ。最初は
麻布付近の料亭での会食である。その場には必ず、誰かが指名されていて侍っている。お酒は体の都合で飲めないのでもっぱら、食べるのみなのだが。
其処での話は主に仕事上の話が主であるが、その場に居合わせた人は食べた気にもならないほどの緊張感であったはずだ。
8時を過ぎた頃になると、車が廻されて、銀座のクラブへ行く。つまりその料亭とクラブのママが同一人物であり、その二つの店を回るのである。
クラブも8時では客も無く、静かであるが、そんなことはお構いなしである。
其処でも、同じ相手と話を続けるのであるが、まるで、その雰囲気は会社と変わらないものであった。テーブルには一本何十万円もするボトルが置かれ、ホステスも
サービスのために座っているが、彼にはそんな雰囲気は無い。会社に居る時の延長のような表情で面白くも,おかしくも無い顔で座っている。はしゃぐ様子はこれっぽっちも見られなかった。
ただ、ひたすら、ウーロン茶を飲み、しゃべるのみである。何を語っているのか、何が面白いのか、何が良いのか、全く分らないまま時間は過ぎて行くのだ。
やがて、時間と共に店の様子も変わってくる。支度の出来たママも時々来て
お愛想を振りまいているが、すぐ居なくなる。