波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋   第27回

2008-09-30 11:09:18 | Weblog
小林はそんな木下の様子を見ながら、自分のことを考えていた。それじゃあお前はどうなんだ。そんなえらそうなことをいえるほどお前は立派なことをしているのか。お前だって毎日同じようなことをして遊んでいるのではないか。自分のお金じゃないから気楽なんだろう。お前にそんなことを言える資格はない。そんな声が聞こえてくるようであった。
しかし、小林は自分のことは忘れて「どうして毎日そんなところへ行かなきゃならないんだ。そこがそんなに面白いのか。第一、君は酒は飲めないし、歌も歌わないし、女遊びもしないじゃないか。」と続けていた。
鈴木氏から聞いている話ではキャバレーの店でラストまでいて、それから女を連れて食事に行き、飲みなおして深夜に帰ってくるらしいが、毎日のことなので大きな散財になっていると言うことだった。そして悪いことに会社の金を使うことははばかれるとあって、サラ金に手を出して借金を重ねているらしい。
そこからの返済、取り立ても始まっているらしい。
彼はそんな小林の話を聞いているのか、聞いていないのか、感情の変化も高ぶりも見られなかった。何を言われても平気である。
一言も言い訳をするではなく、説明するでもなく、上の空である。その姿はいつもの専務ではなく、全くの別人であった。小林はいうことだけ言って黙って店をでるとそこで別れた。そして歩きながら、人間って何だろう。あれだけ理性的で知的であった彼がすっかり変わってしまっていた。何が彼を変えたのだろう。まるで魂の抜けた抜け殻であり、別人であった。そして人間がどんなに弱く、脆いものであるかを目の当たりに見たのである。
もう自分のところから遠くへ行ってしまった彼のことを思いながら、彼をここまで変えてしまった環境の大きさを考えていた。
事務所に帰り、松山を呼んだ。「松山君。木下専務に会ってきたよ。もうどうにもならないね。ああなってはどうにもならないね。聞く耳持たずといったところだ。
残念だが、あきらめるしかない。これから何が起きるか分らないので。しっかり管理をしてください。当面取引は現金と言うことになるし、その都度相談と言うことになるので、報告してください。よろしく。」「分りました。担当の鈴木さんとも
良く連絡を取りながら、報告相談させてもらいます。」
松山も担当のお客のことであったし、複雑な思いで落ち着かなかった。あの謹厳実直な紳士に何があってどうしてこんなことになったのか、どうしても理解できることではなかった。



波紋   第26回

2008-09-26 10:06:15 | Weblog
いつもと少し違う静かな雰囲気の中で挨拶が終わると、「専務さんはいらっしゃいますか。ちょっとお話したいことがあるのですが、」と切り出した。「ちょっと、お待ちください。」と事務員の言葉でいることが分り、小林は少しホッとした。どこかへ雲隠れでもされていたらどうしようかと思っていたからである。
そしていつもなら明るい笑顔で銀縁のめがねのふちを拭きながら出てくる専務が今朝は全く浮かない顔であった。
「専務、お早うございます。早速ですが、今朝は二人だけでちょっとお話したいことがありまして」と言うと、その言葉を待っていたかのように「じゃあ、ちょっと待ってくれる」と奥へ行き、すぐ出てきた。「外へ出ましょう。」と促されて
表へ出た。まだ日中には、まだ間があると言うのに外はもう暑い日ざしが射し始めていた。会社の左となりは下谷警察があり、昭和通りを少し歩き、しばらく過ぎたところをもう一度左へ曲がった。
少し歩いてゆくと、看板も出ていない小さな喫茶店があった。知っている人でなければ分らないような店で、常連の人だけの趣味の店のたたずまいであった。
彼は黙って店に入ると、いつもの自分の席かと思われる隅のテーブルに座った。
客は、朝も早いと言うこともあってか、殆ど居ない。戸口に近い場所で老人が一人新聞を読んでいるだけである。
コーヒーを頼んで二人はしばらく沈黙していた。カウンターの向こうでは店の主人が黙って準備をしている。
何時しか小林は若い時からの彼との関係を思い出していた。東京で仕事を始めた頃、父から紹介を受けて取引が始まり専務との付き合いが始まった
若いこともあって、仕事以外にも倉庫の二階で二人で「裏ビデオ」をこっそり見たり、趣味のカメラの話をしたり、楽しい思い出があった。
「何があったのか知らないけど、そろそろ今の遊びを止めろよ」唐突に切り出した。始めは順序だてて、静かに話そうと思っていたのだが、いざとなると感情がほとばしり思わず出た言葉だった。覚悟していたのだろうと思われた専務もその言葉は予想外だったのか、構えた様子になった。
「家族の人も、みんな心配していると思うよ。君がマージャンではなく遊んでいることはみんな知っているんだ。いい加減目を覚ましたらどうなんだ。」
抑えようとすれば、するほどその言葉は強く、彼を追い詰めていた。
小林はいつの間にか、自分が興奮し感情を抑えきれずにいた。「頼むよ。昔の君に戻ってくれ。昔は君はこんなじゃなかったはずだ。」最後はお願いになっていた。
彼は目をそらし、どこかと億を見るような目で静かにコーヒーを飲んでいた。

      思いつくまま

2008-09-24 10:22:25 | Weblog
昨日、所要で三鷹方面へ出かけた。目的地へ到着する前に道端に咲く彼岸花を見つけた。約30メートルほどの長さに見事に咲いていて思わず心を和まされた。
そして、秋の彼岸を思い出し、「暑さ、寒さも彼岸まで」と季節の変わり目を実感することが出来た。
若い時は庭や道端に何が咲いていようと、何がおいてあろうと、見向きもすることなく、ひたすら仕事のことのみ考え、ほかの事は眼中に無かった。頭の中は常に
仕事のことであり、そのほかのことは家庭のことであれ、何であれ、重要に思うことが無かった。そして定年を迎えてしまった。
今、振り返ってみると、人生の大半をある意味、充分満足しないままに過ごした思いがある。こうして仕事を離れてみると、人生の本当の生き方、自分が何のためにこの世に生かされ、何をしなければいけないか、それは仕事があろうと、なかろうと関係なく、考えなければいけないことであったことを思わされる。
そして本当に良い仕事をするということは、平静を保ちつつ時に仕事を離れ、花を眺めたり、家族との団欒の仲に又新たな思考が生まれてくるのではないかと思わされたのである。
自分の環境に余裕がなくなると、とかくその原因を他に求め、自分を外におく傾向がある。私自身もそうであるが、最初にその原因が自分にあると考えるところからスタートするとそのストーリは完全に変わるものなのである。
まして、条件が悪くなればなるほど、その影響は大きい。又、自分の意に沿わないことは相手が間違っていると考えることも(実際に間違っていたとしても)
良いことにはつながらない。
しかし、実際にはこのような発想の転換はありえないことかもしれない。だから問題が解決しないし、なくならないのかもしれない。
だから原因の不明な病気も増えているのだろうか。
私も定年後、血圧が上がり、薬のお世話になり、ここ数年続いている。そしてその変動には気を使わざるを得ない。しかし、時々思うのだが、変動のもっとも大きな要因は自分自身にあるのではと最近思い始めている。
食事、薬、運動、様々な要因が挙げられるが、その最も重要なことは如何に自分自身を平静に、平安を保たせるかにあるような気がする。
何故なら一日の時間の中で、どれだ心の葛藤する問題にあたるか、(それが如何にくだらないことであれ、何であれ)意に沿うこと、沿わないこと、いやなこと、腹の立つこと、悔しいこと、悩むこと、様々なことがおきている。
それらをコントロールしていくことの難しさを年齢と共につくづく思わされるこの頃である。

波紋   第25回

2008-09-22 10:20:24 | Weblog
翌朝、小林は会社へ出るとすぐ電話を取った。顧問弁護士のところである。この先生とはまだお付き合いとしては間がなかったが、マージャンやゴルフでのお相手をする機会があり、個人的にもお話が出来るようになっていた。
特にゴルフには特別なこだわりがあり、週一回のプレーは欠かさず、そのレベルを保ちとても上手であった。その事務所所は市谷にあり、本来なら出向いて相談すべきだが、何しろ急を要することであり、気が焦って、電話でとりあえず相談することにした。
「先生、お早うございます。早くからお電話で申し訳ありません。緊急のご相談をさせていただきたくお電話させていただきました。」
「珍しいね。こんなに早くから。いつものお誘いなら午後からでも大丈夫なのに」マージャンの誘いかと思ったのか、ご機嫌は良かった。お酒を飲まず、お子さんのいない先生にとって、マージャンとゴルフは最大のストレス解消の息抜きの時間であったからである。
「実は会社の取引先で入金した手形が危ないんです。」小林は単刀直入に話した。「実は昨日の情報で不渡りになる可能性があることが分ったのです。」
小林のいつもと違う様子を電話で知って先生も急に緊張したらしく、「金額はいくらだね。」と聞いてきた。「五千万円です。」「そりゃあ、大金だな。」と言って
電話の向こうで暫く沈黙があった。
「小林さん、君のところから一番近い代書屋さんを知っているかね。そこへその手形をもって行き、根抵当の手続きを至急してもらうんだ。」
「分りました。代書屋さんなら何処でも良いのですね。」「知っている所があれば一番良いけど、なければ何処でも良い。とにかく早く処理してもらうことが肝心だよ。」「ありがとうございます。早速行ってきます。終わり次第又ご連絡します。」小林は電話を置くと、手形を確認し、印鑑をかばんに入れ、事務所を飛び出した。近くの法務局を探し、その近辺にある代書屋を探し、その一軒に入った。
その手続きは難しいものではなく、簡単に処理を終わる事が出来た。
無事手続きを終えた小林はほっとして、弁護士の先生に電話をかけた。
「先生、今手続きを無事終わる事が出来ました。」「そりゃあ、ご苦労さん。とりあえず、それでその手形は何処からも手が出ないように権利が確保できたのだ。
しかし、お客さんの事情がわかっていないのだから、至急出向いてどんな状況なのか調べて、聞かせて欲しいね。」言われるまでもなかった。小林はその足で、その会社のある下谷へ向かった。

波紋   第24回

2008-09-19 10:35:41 | Weblog
小林が一人で今、自分が考え、しなければならないことは何か、どうすることが自分の役目かを悩んでいた時、松山は上司に報告をしたことで肩の荷が下りて少し気が楽になっていた。自分ではどうにもならないし、何が出来るということでもない。定期的に訪問しても表面上は何も変わった様子は見られない。
ただ専務の姿は見られないことをのぞけば普段どおりであった。取引にも影響は無く、いつも通りの内容であった。
あえて、藪をつついて蛇を出すことも無いなあと専務のことも忘れることも無く忘れかけていたら、鈴木氏から電話がかかってきた。
「松山さん、緊急に会って、話したい事が出来たんだけど時間取れる。」
「分った。何とかするよ。じゃあ、いつものところで夕方待っている。」会社でと言うわけに行かないので、いつも居酒屋で会うことにした。
少し、落ち着かない思いでそこへ駆けつけると鈴木はもう既に来ていてビールを飲んでいた。一口飲んだビールをテーブルに置くと、「松山さん、確か先月の支払いの手形がまだそちらにあるよね。その手形を至急、弁護士の先生と相談してもらいたいんだ。」「何があったの。急にそんなことを言われても、事情が分らないと説明もできないよ。」「いや、詳しいことは自分も分らないのだけど、どうも支払いが厳しくなったらしい。資金繰りが悪いらしく、今月の給料も遅れていてまだ貰えてないんだ。」「えー。そうなの。それは大変だ。所長にすぐ連絡しなくちゃ。ありがとう良く知らせてくれたね。」和夫は「それじゃあ。」と言って伝票を取り、すぐ店を出て会社へ電話を入れた。
小林は松山の話を聞くと「すぐ帰ってくるように」と命令した。やはり一番恐れていたことが起きてしまったようだ。小林の手元には先月入金した高額な手形がまだ本社へ送金されずにあった。東京管轄の全部を集計してからと保管されていた。
その金額は5千万円、一社の取引ではトップであった。
小林はすぐにも木下に会って、事情を聞きたい衝動に駆られたが、思いとどまった。松山にその周辺の詳しい話を聞き、それから善後策を検討しよう。
「松山君、ご苦労さん。貴重な情報ありがとう。これからどうするか考えてみるが、とりあえず今日は君は帰っていいよ。」
松山が帰った後、小林は冷静にと自分に言い聞かせながら考え始めた。
いずれにしてもこの話は事実であるし、専務が無関係と言うことではないことも分った。始めから話を整理しながら経緯をたどってみた。しかしそれで結論は出ることは無く、ただ時間が空しく過ぎていた。

波紋   第23回

2008-09-15 11:05:58 | Weblog
翌朝、松山は寝不足気味の頭を抱えて出社すると、すぐ所長の小林のところへ報告に行った。黙って聞いていた小林の顔には始めは驚きの表情があったが、すぐそんな馬鹿なと信じられないような顔になり、本気ではなさそうであった。
松山は「このまま見ていて大丈夫でしょうか。会社への影響は出ませんかね。
何かすることはありませんか。ちょっと、心配なんですけど。」と付け加えた。
小林は木下専務とは親の代からの付きあいもあり、ほかのユーザーより親しかった。突っ込んだ話も出来ないことはない。
「一度、私が直接彼に会って何があったか聞いてみるよ。今、聞いた話だけでは分らないことが多いし、第一、とても信じられることでもない。少し、立ち入った話で気分を壊すかもしれないが、私なら許してもらえると思うので聞いてみるよ。
君は今までどおり、仕事を続けてもらって良いよ。ただし、鈴木さんの情報は今後も出来るだけ詳しく聞いて欲しい」と言い残し、黙って事務所を出て行った。
いつも行くカフェラナイは時間が早いせいか、客はいない。小林はいつもの隅の窓際に座るとコーヒーを頼んだ。煎りたての香りの良いコーヒーを楽しみながら
今聞いた松山の話を反芻し、木下の姿を思い浮かべていた。
「いったい何があったんだ。私も彼とそのキャバレーには行ったことがあるが、特別印象には残っていない。その時だけの遊びであり、毎日通うほどの楽しみが得られるとは到底思えない。何があったんだ。誰か好きな女性とめぐり合ったのだろうか。あの真面目で家庭のことしか頭に無い彼にほかの女性に夢中になることなど想像出来ないが、そんなことでも起きたのだろうか。もしそうだとしたら彼に魔がさしたとしか言いようがないことだが、」考えがあちこちに飛び、小林はその推測の中に巻き込まれ、混乱と、悩みの中に何時しか自分もとりこになっていた。
手に持っていたコーヒーは冷たくなっているのも気づかないほどであった。
小林は小学生の頃、親に連れられて日曜学校へ行っていたことがある。牧師から人間はアダムとイブの昔、神から食べてはいけないといわれていた木の実を食べ、それから人間は罪から逃れられなくなったと聞いたことを思い出した。
どんなに頭が良く、良い家庭に育ってもいても、人間である限り、どんなことで悪魔の誘惑に落ちないとは限らない。
彼もまた人間である。自分では悪いことだという意識が分らないままに、誘惑に落ちたのだろうか。?

波紋   第22回

2008-09-12 10:05:14 | Weblog
松山は始めての経験をしながら、こんな所でこんな楽しみ方があるのかと考えながら、隣で女性と楽しそうに語っている専務を眺めていた。自分の隣にも濃い化粧の
女性がいたが何を話したらよいのか、あまり飲む気分にもならず、ぼんやりとステージのほうを見ていた。ステージではバンドが演奏をし、その周りでは男女が適当に踊っているのが見える。
時計を見て、はっと我に返り、電車の事が気になった。「専務、お楽しみのところ申し訳ありません。電車がなくなるので、そろそろ先に帰らしていただきます。」
挨拶をして立ち上がった。少し二人だけで話したいこともあったのだが、この雰囲気ではどうにもならなかったし、いつもと違い、酒を飲んだ気にもならなかった。
ばたばたと駅のホームにたどり着いて「ふーっつ」と大きくため息をついた。
そしてベンチに凭れ、鈴木氏の話はこの専務の行動のことをさしていたことが分ったような気がした。
その夜はいつもより遅くなり、五井駅からの電車は最終になっていた。加代子は
いつものように、駅に迎えており、和夫は半分眠っているように身体をふらつかせて降りてきた。疲労感と、緊張感から開放されたその姿は加代子にとっては和夫を本当に支え、慰めてやりたい思いであり、何も言わずに微笑んでいる姿はとてもほほえましいものであった。
いつもなら、気分良くすぐ寝る和夫がその夜は風呂から上がり、冷たいビールを飲んでからもぐずぐずしていた。そして布団に入ったのだが、寝返りをうち、ぶつぶつ言っているようであった。木下専務の事がずっと気になっていたのである。
あれから彼はどうしたのだろう。そして、酒も飲まずにあの喧騒の中にいるのだろうか。普段の彼の姿からは到底想像できないことである。名家の嫡男として生まれ名門大学を卒業し、結婚式には宮家からの臨席もあったと聞いたことがある。
上品で、物静かな立ち居振る舞いのなかで、近寄りがたいものを感じていただけにあの場所でのあの行動は到底そぐわないのだ。
そして親の代からの事業家であり、経営者でもある。会社への影響は無いのだろうか。もし、このことが影響して自分の会社との取引の与信にひびが入るようなことでもなったら、それは担当者である自分の責任になる。
眠りながら、考えは後ろ向きに悪いほうへ悪いほうへいつの間にか広がっていったのである。何時しかうとうとと眠っていたのだが、いつの間にか夜は明けていて
白んでいた。

随想     思いつくまま

2008-09-10 10:00:31 | Weblog
オリンピックが終わり、ホッとしたのも束の間で又世間が騒がしくなってきた。
私は今年の始めに、今年がどんな年になるだろうかと考えた時に、アメリカの大統領選挙が行われる事を思い、日本でも総選挙が行われるような気がして予測したことを思い出した。しかし、今の内閣が存続すれば今年は無いのかなと思っていたら、突然の総裁選挙に続いて、衆議院の選挙が予定されている。
このことを聞いて、今度こそ、政治家にだけ責任を負わせるのではなく、国民の一人一人が、責任を負うのだと言う自覚の基に選挙に臨みたいものだとつくづく思わされたのである。選ばれる人も、選ぶ人も同じ責任を負う覚悟が大事だと、そこに
新しいものが生まれる気がするのである。
暑かった夏もお彼岸が近くなり、少し涼しさを感じるようになった。この歳になってくると、(?才)毎年、暑さとの勝負になる。そして暑さを越えると、「今年も耐えられたな。」との実感を持つ。この歳までゴルフの時以外帽子というものをかぶった思いが無かったが今年は帽子が無いと外出する勇気が出ないほどであった
それは、暑さが年々強くなるのと、自分の体力の衰えが反比例することにあったような気がする。
今年の野菜つくりはきゅうり、8本、トマト3個、茄子2個という収穫で散々だった。原因はまだつかめていない。そして、整理をした後に秋の装いに模様替えをする。コスモス、撫子、千日紅の秋の花が植えられ、日々の心の安らぎに役立っている。5月に孫達が来て種をまいてくれたホウセンカの花が7月頃から咲き始め、ずっと咲いているが、この花がこんなに夏の間元気に咲く続けて慰めてくれるとは思わず、今年は見直した感がある。
生活感も今年は春から図書館へ行くようになり、生活の設計も少しづつ変わりつつある。何より、自分の心の持ち方が大事であり、そこからすべてが生まれる。
そしてその心の持ち方は私の場合、強い信仰心にある。しかし、それは口で言い表す事が出来ることではなくまた、表に出すことでもない。ひたすら、神との関係にある。自分が罪深いことを忘れず、生かされていることを思いつつ日々を感謝して過ごすことを願っている。

波紋    第21回

2008-09-08 10:25:44 | Weblog
ある日、いつものように仕事でその木下商事を訪問して帰ろうとした時、奥から出てきた専務から声がかかった。「松山さん暫くだね。今度N社へ移ったんだってね。これからもよろしくね。ちょっと出掛けるんだけどたまにはちょっと付き合わない。」お客さんからのお誘いであるし、めったに無いことなのですぐ返事をしたかったが「ちょっと、会社へ電話をさせてください」と断った。
電話に出た事務の女性に「松山さん、又直帰なの、ちゃんと帰ってこないと駄目じゃないの。今所長に代わるわ」「所長ですか。珍しく木下専務から声がかかりましてね。例のちょっと気になる話のことも有るので」「ご苦労さん、あまりのみ過ぎないようにね。専務によろしく言って下さい。」電話を切った小林は、報告を受けた木下専務の行動の実態が何か分るかもしれないと債権の与信を思い、何か分ればと考えていた。
「所長からよろしくとのことでした。」「あーそう、じゃ行こうか。」二人は気楽に会社を出た。
居酒屋で暫く腹ごしらえをして時間をつぶした後、専務はすたすたと歩き始めた。
どうやらそこは上野の駅の近くにある某キャバレーのあるところである。和夫は
恥ずかしい話だがそこがどんなところか全く知識が無かった。行った事が無かったのである。営業接待と言う習慣があってお客さんを食事の後、二次会でクラブやバーへ案内し接待をすることは聞いてはいたが、実際にそんな場面を経験していなかったし、機会が無かった。そのビルの前に行くとエレベーターの前に呼び込みのボーイが案内に立っており、道を挟んだとおりの向こうでも同じように呼び込みが大きな声を上げていた。
エレベーターはその店に直行になっていて下りると、そこがそのまま入り口であり、女性がドレスでお出迎えである。店内は少し薄暗く目が慣れるまで見にくいが
階段式にテーブルが並んでおり、その中心にステージがあり、そこが照明で照らされている。ボーイの案内でテーブルに案内されて座るとすぐお絞りが手渡された
ボーイは専務と顔見知りなのか、そっと耳打ちをしている。「いつもの人を頼むよ」「かしこまりました。」そしてビール、おつまみ、フルーツなど、セットになったようなものがずらりとテーブルに並ぶ。
程なく「いらっしゃい。ようこそ」と黄色い声がして振り向くと何人かの女性が来てそれぞれの間に座る。乾杯で始まるともうその後は騒音と音楽と周りの騒がしさで専務の様子も分らなくなり、気にならなくなってくる。
特別な感慨もなく、ぼんやりとビールを飲みながら女性に質問したりして時間をつぶしていたが、急に時間が気にない始めていた。

波紋   第20回

2008-09-05 10:17:29 | Weblog
この事件があって、N社は歴史を大きく変えることになった。誰も予想することが無いことでもある。T社もD社も資本参加してもらい、関係会社ではあったが経営権の譲渡は完全に今までと異なるスタートになる。そのことは大きな社員全体の運命を左右することになることになることを誰も信じることは出来なかったし、想像も出来ないことであった。
そこには大きな権力と支配が生まれ、家族的な人間関係で成り立ってきたものは一切排除され、すべてが上からの指示、命令での行動になる。
和夫は入社早々と言うこともあり、会社の変化についてあまり関心はなかった。
いわれたことを普段どおり、処理していく。会社から帰れば二人の娘の寝顔を見て安心して、酔っ払って気持ちよく寝ること、休みの日には娘達と一緒に無邪気に騒ぎ、加代子の駄洒落を聞いていればよかったのである。
そんな中で一つだけ気になることがあった。彼のお客さんは前の担当から引き継いだところが多く、そのお客さんは昔からの古い所が多かった。
その一社に担当者同士で飲み友達になった所があった。夕方、そのお客さんへ行き会社の退け時に待ち合わせをして駅の近くで割り勘で一杯やるのである。
「類は友を呼ぶ」ではないが不思議とそんな飲み友達は出来るようである。
話は愚痴になる事があったり、家族のことであったり、同業者のことであったり、
客筋の動向であったりするが、結構ストレスの発散で和夫はその時間が楽しかった。
その内、鈴木と言うその担当者から妙な話を聞くことになったのである。
「内の専務が酒は全然飲めないのに、毎日キャバレー通いなんだよ。」
「えー。堅物の専務が、だって、彼酒飲めないし、あんな所へ行って何が面白いのかな。」
「最初は、お客さんに紹介されて連れて行かれたらしいんだけど、この頃は一人で出かけるらしく、時間になると会社にいないみたいなんだ。」
「そんな事言ったって、これからキャバレーへ行きますとは言え無いだろうに。」
「会社を出る時はマージャンに誘われているのでと言い訳しているみたいなんだけど、」「ふーん。マージャンか」和夫もマージャンは出来ないわけじゃないし、
営業マンなら、一応出来ないとお付き合いが出来ないからと覚えたのだが、生来あまり好きになれなくてあまりやる機会は無かった。
ある時、所長の小林に誘われて、接待マージャンをした時に一回変わってやらされて、あまりの下手さに「もうやらなくて良いよ」と言われてからやらないことにしていた。マージャンと聞いて、和夫はそんなことがあったなあと思い出しながら聞いていた。