新しい工場での生活が始まった。それに伴って工場の近くへアパートを移すと宏は仕事に没頭するようになっていた。
仕事が終わると心を癒すために立ち寄っていた「ラナイ」へは行けなくなり、親しくしていた店長に会えなくなった事は、ちょっぴり淋しかったが、仕方がない。久子にはお義理のように時々電話で話をしているが、いつも特別なことはなく、子供の様子を聞くだけであり、元気であることが確認できるとそれで終わっていた。
新しい仕事は彼の気持ちを引き立たせ、やる気を起こさせた。図面を見ながら、仕様どおりに仕上げていくのが楽しく、出来たときの喜びは自分だけしか分からないもので、自分で満足することが出来た。
試作品を評価してもらい、又新しい要望を受ける。試行錯誤しながら又新しい試作に取り掛かる。そのステップの一つ,一つが
全部自分のものとして感じることが出来た。少しづつお客への納品も出来るようになり、正式な注文ももらえるようになって来た。そんなある日、社長が工場へ視察に来た。「順調のようだね。やはり君に任せて良かったと思っているよ。これから新しい図面も出てくると思うので、よろしく頼むよ」
そんな日々が続き宏は夢中になっていた。今までにない充実感を覚え、池田との約束や木梨のことなどすっかり忘れていた。
すべてが順調に動き出し、少し自信のようなものが出てきたと思えるようになっていたある日、社長から電話が入った。
「野間君、忙しいところ悪いんだが、明日本社のほうへ来てもらいたいんだ。話があるので、待っているよ。」
「分かりました。明日うかがいます。」と電話を切ったが、宏は妙にこの電話が気になった。諸星さんに電話を入れて聞いてみることにした。「社長から突然、本社へ来いといわれたんだけど、用件は何だろうね。心当たり無い?」
「そうね。なんだか分からないけど、社長このごろ、ちょっといつもと違っておかしいのよ。何となく落ち着かなくていらいらしているみたいよ。」「俺もなんだか妙に気になって、社長が何を言いたいのか、見当もつかなくてね。でも明日本社へ顔を出すから、仕事が終わった後でも食事でもしながら話そうか。」「いいわ、時間空けておくから」
結局、何も分からなくて、少し気になったが、話を聞いてみるしかないと、腹をくくって出かけることにした。
「野間君、突然で悪いけど、君に会社を辞めてもらいたいと思っているのだ。突然の解雇通知だった。
仕事が終わると心を癒すために立ち寄っていた「ラナイ」へは行けなくなり、親しくしていた店長に会えなくなった事は、ちょっぴり淋しかったが、仕方がない。久子にはお義理のように時々電話で話をしているが、いつも特別なことはなく、子供の様子を聞くだけであり、元気であることが確認できるとそれで終わっていた。
新しい仕事は彼の気持ちを引き立たせ、やる気を起こさせた。図面を見ながら、仕様どおりに仕上げていくのが楽しく、出来たときの喜びは自分だけしか分からないもので、自分で満足することが出来た。
試作品を評価してもらい、又新しい要望を受ける。試行錯誤しながら又新しい試作に取り掛かる。そのステップの一つ,一つが
全部自分のものとして感じることが出来た。少しづつお客への納品も出来るようになり、正式な注文ももらえるようになって来た。そんなある日、社長が工場へ視察に来た。「順調のようだね。やはり君に任せて良かったと思っているよ。これから新しい図面も出てくると思うので、よろしく頼むよ」
そんな日々が続き宏は夢中になっていた。今までにない充実感を覚え、池田との約束や木梨のことなどすっかり忘れていた。
すべてが順調に動き出し、少し自信のようなものが出てきたと思えるようになっていたある日、社長から電話が入った。
「野間君、忙しいところ悪いんだが、明日本社のほうへ来てもらいたいんだ。話があるので、待っているよ。」
「分かりました。明日うかがいます。」と電話を切ったが、宏は妙にこの電話が気になった。諸星さんに電話を入れて聞いてみることにした。「社長から突然、本社へ来いといわれたんだけど、用件は何だろうね。心当たり無い?」
「そうね。なんだか分からないけど、社長このごろ、ちょっといつもと違っておかしいのよ。何となく落ち着かなくていらいらしているみたいよ。」「俺もなんだか妙に気になって、社長が何を言いたいのか、見当もつかなくてね。でも明日本社へ顔を出すから、仕事が終わった後でも食事でもしながら話そうか。」「いいわ、時間空けておくから」
結局、何も分からなくて、少し気になったが、話を聞いてみるしかないと、腹をくくって出かけることにした。
「野間君、突然で悪いけど、君に会社を辞めてもらいたいと思っているのだ。突然の解雇通知だった。