波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  波紋      第58回

2009-01-16 09:52:20 | Weblog
松山の担当しているユーザーは東京だけでも10社以上ある。松の内に主なところは顔を出して終わっておくには、それなりの数を済ませておかないと間に合わない勘定である。空きっ腹に飲んだ紹興酒は空っ風には効果があり、冷たい風がほほに心地よかった。松山は少しづつ高揚してくる気持ちを抑えながら小林と挨拶廻りをつづけていた。やがて、その日の予定が終わりに近づいた。「T商事を最後にして終わろうか。」と声をかけられた。昼頃に寄ったお客さんでおとそ代わりといわれ飲んだビールも程よく身体に効いていて、いつものアルコール状態になっていた。
T商事は関係会社でもあり、親しいこともあり、挨拶だけで良かったからだ。
一階の事務室には誰もいないので、勝手に二階へ上がっていった。其処では社長以下全員で、乾杯の後のお祝いの酒が振舞われよい気分で盛り上がっていた。「まあ、まあ」と挨拶もそこそこにご馳走の輪に加わることになった。もうその後は無礼講スタイルになり、和気あいあいとお正月という独特な雰囲気がかもす穏やかさが緊張感をほぐし、その場を和ませていた。松山もここでは自分はお客だと自制して遠慮がちに飲んでいたが、知らず知らずのうちにそんな気持ちもいつの間にか消えていたのに気づかなかった。
やがて宴もたけなわを過ぎ、打ち上げとなって片付けに入っていた。そして一人二人といなくなり、事務所は静かになっていた。気がつくと、小林と松山だけになっていた。小林は松山を促し「松山君、もうみんな帰ったよ。我々もそろそろ帰ろうよ」と声をかけた。彼は既に酩酊状態になっていた。ウイスキーのボトルを片手に持ち、足を踏ん張り両手を広げ「サア、飲もう」と気勢を上げている。
静かに手を引っ張り、出ようとするが、足を踏ん張ったまま動こうとしない。何かぶつぶつ言っている様だが、意味不明である。
暫く様子を見ていたが、なんとも仕様が無いことが分り、小林は会社から若い者を一人呼ぶことにした。二人で車へ乗せて、帰る事にしたのだ。
「この分じゃ電車に乗せて帰らせるのも危ないから、近くのホテルへ連れて行って、寝かせるしかないな。」と言いつつ、ビジネスホテルへつけた。
幸い空き部屋があり、泊まる事が出来ることになった。しかし、目を覚ました彼は車から降りようとせず、しっかり捕まったまま車から降りようとしないのである。既に靴は履いていない。どこかで脱いでしまったままである。更に何か言っているが、全く分らない。「困ったなあ、これ以上我々の力じゃあ、無理も出来ないなどうしょうか。」さすがに小林もこの酔っ払いには手を焼いたのである。