波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋       第57回

2009-01-13 09:31:56 | Weblog
林さんの営業テクニックにお酒による接待がある。それは彼だけではなく、誰にでもある話なのだが、やはり日本的ではないところがあり、その程度が違ってくるようだ。彼の話によると、「○○社の誰々さん、とてもよく知ってるよ。一緒に台湾へ行ってお酒を飲んで、食事をして、いろいろと遊んだことあるよ。」となる。
日本での接待と違うのはお酒が違うことで、アルコールの度合いが強いのが多い。紹興酒、老酒、白酒となるに従って、強くなる。海外ということもあって、気を許し、勢いで飲んでいると、いつの間にか正体をなくし、裸の姿をさらけ出していることが多いのだ。逆に言えば、いつもの姿でないところを見られて、弱みを見せてしまっていることにもなる。林さんはお酒は基本的には飲まないので、その姿を冷静に見ているだけであるが、酔いつぶれた人はその場限りのことで、そんなことがあったなあで終わっているのである。(恥ずかしい姿を見せていることもあるのだが)一つのエピソードとして、あるメーカーの営業マンが例によって、接待を受けたらしい。翌日その人の奥さんが林さんを尋ねてきたらしい。「うちの人に変なお酒を飲ませないで下さい。今朝は起きられないで、会社を休んでいるのです。」と怒鳴られたことがあると笑い話を聞いたことがある。
林さんには悪気は無いのだが、受けた人は経験が無いこともあって、無意識に自分のペースを壊されているのだと思う。小林も同じ経験をしているのだが、酒が飲めなかったことと、その誘いを警戒して、断って受けなかったらしい。林さんは「お前は付き合いが悪い。」と気分を害していたらしい。それは仕事にも少し影響するようで、一目置いた少し距離を置いた関係だったようだ。
ある年、松山は小林(まだ在籍中の頃、)とお正月の挨拶に行ったことがある。
彼の習慣では旧正月が正式であろうが、日本の習慣を重んじて、挨拶を交わした。そして帰ろうとすると、例によって、「まあ、まあ」と声をかけられた。
いつものウーロン茶が出てくるものと思っていたら、何と、紙コップになみなみと、紹興酒が注がれていた。お祝いだから飲んで行けという。小林は例によって、丁重に断ったが、「松山さん、あんたはのめるんだから飲みなさい。」といわれ、断るのも失礼かと、仕事中であることを考えながら嫌いでもないので空けてしまった。すかさず二杯目が注がれ、止めようとしたが、何としても飲めといわれ、飲んでしまった。空きっ腹でもあり、腹にしみわたる酒の味はとてもおいしかった。
この程度の酒はどうと言うことも無い。松山はそう思っていた。