暑かった夏も過ぎて、秋の涼しい風が吹く頃になっていた。小林は久しぶりに新幹線の東京駅のホームに立っていた。これから岡山へ向かうのである。中山から頼まれて、和夫の勤めていた会社の本社のあるところへ交渉のためであった。
中山は「小林さん、このままでは松山の家族もかわいそうだ。我々で出来ることを考えて、出来ることをしてやりたいと思うのだが、相手が大きい会社過ぎて、まともにぶつかってもどうにもならないと思う。裁判で争ったとしても、力関係で恐らく負けるだろう。負ける裁判だったら、お金をかけてやっても無駄だからね。ここはひとつ、情けに訴えて、助けてもらうことが良いと思うのだが、どうだろう。」
「私もそう思うが、どこへ話を持っていったらよいかな。」「東京では事情の分っている人がいないし、松山を知っている人が少ない。やはりここは岡山の本社のほうで、理解してくれる人を通じてお願いして、口を利いてもらうしかないと思うんだが、」「そうだね。じゃあ、岡山へ行かなくちゃあならないね。」「私が行ってもよいのだが、知っている人が少ないんで、小林さん、あんたの知っている人で、お願いしてみてもらえないか。」中山の頼みで、小林は頷いた。自分の出来ること、果たして話を聞いてもらえるかどうか、自信も無かった。しかし、ここはお願いしてみるしかなかった。列車は東京駅を出発した。新幹線に乗らなくなって、もうどれくらいたつのだろう。小林は新幹線の背もたれに身をゆだねながら、ぼんやり考えていた。会社にいたときはいやと言うほど、東奔西走して使っていたが、定年後は乗る機会も無く過ぎていた。「暫く振りだな。」ワゴンで運ばれてきた熱いコーヒーを飲みながら、昔を思い出していた。
それにしても人間の存在は本当に小さいものだ。そしてあまりすべてのことを考えず、生きて、あっさりとまた死んでいく、まして自分に不自由が無く、すべてが備わっていれば、何も必要はない。だから誰に頼ることも無く、誰に世話にならなくてもやっていける、ましてこの国にいる限り、食べることに問題は無い。そうであれば、親は文句を言わず、欲しいものを子供に与える。
自分が何故生かされていて、自分が生きることは何を目的にすれば良いのか、そんなことを考える必要が無い。まして、この世に神の存在など、考える意味が無い。かくして、人は自分のことだけを考え、自分の都合だけを中心に判断して生きていく習慣をつけていく。そうなれば、どんな世の中になるのだろう。松山もそんな中で、世の中から放置されたのか。
中山は「小林さん、このままでは松山の家族もかわいそうだ。我々で出来ることを考えて、出来ることをしてやりたいと思うのだが、相手が大きい会社過ぎて、まともにぶつかってもどうにもならないと思う。裁判で争ったとしても、力関係で恐らく負けるだろう。負ける裁判だったら、お金をかけてやっても無駄だからね。ここはひとつ、情けに訴えて、助けてもらうことが良いと思うのだが、どうだろう。」
「私もそう思うが、どこへ話を持っていったらよいかな。」「東京では事情の分っている人がいないし、松山を知っている人が少ない。やはりここは岡山の本社のほうで、理解してくれる人を通じてお願いして、口を利いてもらうしかないと思うんだが、」「そうだね。じゃあ、岡山へ行かなくちゃあならないね。」「私が行ってもよいのだが、知っている人が少ないんで、小林さん、あんたの知っている人で、お願いしてみてもらえないか。」中山の頼みで、小林は頷いた。自分の出来ること、果たして話を聞いてもらえるかどうか、自信も無かった。しかし、ここはお願いしてみるしかなかった。列車は東京駅を出発した。新幹線に乗らなくなって、もうどれくらいたつのだろう。小林は新幹線の背もたれに身をゆだねながら、ぼんやり考えていた。会社にいたときはいやと言うほど、東奔西走して使っていたが、定年後は乗る機会も無く過ぎていた。「暫く振りだな。」ワゴンで運ばれてきた熱いコーヒーを飲みながら、昔を思い出していた。
それにしても人間の存在は本当に小さいものだ。そしてあまりすべてのことを考えず、生きて、あっさりとまた死んでいく、まして自分に不自由が無く、すべてが備わっていれば、何も必要はない。だから誰に頼ることも無く、誰に世話にならなくてもやっていける、ましてこの国にいる限り、食べることに問題は無い。そうであれば、親は文句を言わず、欲しいものを子供に与える。
自分が何故生かされていて、自分が生きることは何を目的にすれば良いのか、そんなことを考える必要が無い。まして、この世に神の存在など、考える意味が無い。かくして、人は自分のことだけを考え、自分の都合だけを中心に判断して生きていく習慣をつけていく。そうなれば、どんな世の中になるのだろう。松山もそんな中で、世の中から放置されたのか。