教員室は広く、そこには日ごろ怖いと思っている先生がずらりと居るのが見える。欽二はその中を恐る恐る担任の山口先生のところへ近づいた。「まあ、すわりなさい」そういうとやさしい目で椅子を指差した。「もうすぐ三学期が始まるのだが、組変えはない。そこでクラスの副級長の役を君に頼もうと思っているのだが、どうかな。」と言うと少年の顔をじっと見た。思いも寄らない先生の話を聞いてほっとすると同時に自分にそんな役が出来るかと嬉しいような怖いような複雑な思いですぐには返事が出来なかった。
普段でも身体が人よりも小さく貧弱だったこともあり、いじめまでは無かったが、目立つわけでもなく、まして勉強の成績が良いわけでもなかった。
「でも僕なんか、そんな大事な役目、出来るかな」と小さな声でつぶやくように言うと「出来るよ。自信を持って一度やってごらん」と励まされる。
「分かりました。頑張ってやってみます。」「そうか。それじゃあ三学期から頼むよ。皆にも明日発表するからね。もう帰っていいよ」飛び上がるほどの嬉しい思いをじっと抑えて静かに教員室を出ると急に嬉しさがこみ上げてきた。
あれほど一度やってみたいと思っていた朝礼の整列の役目が出来るのだと思うと、なんとも言えない気持ちがこみ上げてくる。
誰にこのことを言おうか、友達にはとても言えない。でも誰かにこのことを言いたい。
厳格な両親の顔はすぐ浮かんだが、すぐ言う気にはなっていなかった。日ごろ学校から帰ると「今日は学校で何があったの、何か言われたことは無いの」と母親にしつこく言われ
報告するのが習慣である。いつか先生から学校へ持参するものを言い忘れて家に取りに帰り、ひどく叱られたことがあり、あまりなんでもいう気持ちが無かった。
然し今日はこのことは言わなければいけないかなと思い、母親に今日の出来事を話した。
日ごろは強い口調で返事をする母がその話を聞くと珍しく、「良かったね。しっかり間違えないようにやるんだよ。」と嬉しそうであった。
10歳違いの兄が優秀でせいせきも良く、良い学校へいっているせいか、兄のことは何事によらず一生懸命であったが、下の弟と自分にはあまり関心が無いかのように感じていたが、この時だけは母の嬉しそうな顔を見ることが出来た。
やがてその日が来た。朝礼の整列のとき、一番後ろに立ち、整列の様子を指示する自分が誇らしげであった。
普段でも身体が人よりも小さく貧弱だったこともあり、いじめまでは無かったが、目立つわけでもなく、まして勉強の成績が良いわけでもなかった。
「でも僕なんか、そんな大事な役目、出来るかな」と小さな声でつぶやくように言うと「出来るよ。自信を持って一度やってごらん」と励まされる。
「分かりました。頑張ってやってみます。」「そうか。それじゃあ三学期から頼むよ。皆にも明日発表するからね。もう帰っていいよ」飛び上がるほどの嬉しい思いをじっと抑えて静かに教員室を出ると急に嬉しさがこみ上げてきた。
あれほど一度やってみたいと思っていた朝礼の整列の役目が出来るのだと思うと、なんとも言えない気持ちがこみ上げてくる。
誰にこのことを言おうか、友達にはとても言えない。でも誰かにこのことを言いたい。
厳格な両親の顔はすぐ浮かんだが、すぐ言う気にはなっていなかった。日ごろ学校から帰ると「今日は学校で何があったの、何か言われたことは無いの」と母親にしつこく言われ
報告するのが習慣である。いつか先生から学校へ持参するものを言い忘れて家に取りに帰り、ひどく叱られたことがあり、あまりなんでもいう気持ちが無かった。
然し今日はこのことは言わなければいけないかなと思い、母親に今日の出来事を話した。
日ごろは強い口調で返事をする母がその話を聞くと珍しく、「良かったね。しっかり間違えないようにやるんだよ。」と嬉しそうであった。
10歳違いの兄が優秀でせいせきも良く、良い学校へいっているせいか、兄のことは何事によらず一生懸命であったが、下の弟と自分にはあまり関心が無いかのように感じていたが、この時だけは母の嬉しそうな顔を見ることが出来た。
やがてその日が来た。朝礼の整列のとき、一番後ろに立ち、整列の様子を指示する自分が誇らしげであった。