彼の話したくない様子で、余計なことを聞いてしまったと思ったが気を悪くしたような様子は無かった。暫く間があったが、思い出すように話し始めた。
「学生時代に、妙に話の合う友達だったんだ。だから好きだから、可愛いからと言う感じじゃあなくて、話していて、楽しかったし、理解しあえるなということで付き合ったんだ。才能のある人で、何でも新しいものに取り組んでいたよ。
それから、自然に結婚に進み子供も出来た。自分がサラリーマンだったので、彼女も好きな趣味を生かして、生活していたんだが、会社を辞めて、ここへ住むようになって、少しづつ二人の間に考え方の相違が出てきたんだ。
やはり、男は仕事があり、お互い自立していることが安定を求める女性にとって
落ち着くのだろうけど、何もなくなると負担に感じるのだろう。一人で仕事をしたいと言い出したんだ。私はその時始めて、自分の置かれている立場が分り、愕然としたんだが、もう遅かった。ここの環境も合わなかったのかもしれない。
冬の寒さ、厳しさは到底想像のつかないもので何をするにも不便が伴う。彼女にはそれもあったのではないかと思う。だから喧嘩別れでもないし、嫌いあって別れたわけでもない。まあ、別居みたいなものなのかもしれない。
でも、こうして一人になってみると、やはり一抹の未練というか、寂しさはあるね。」其処まで話すと、彼は熱い酒をぐっと飲み干した。今の彼を慰めるのはこの酒なのだろう。彼には何をするにも、何を考えるにも酒が必要なのだ。
人間として生きていくうえに、毎日のように揺れ動く心と気持ちをコントロールしながら支えていく、潤滑油としてどうしても欠かせないのだろう。
「今は、落ち着いてマイペースの生活が出来るようになったけど、暫くは落ち着かなかったよ。」まだ還暦を過ぎたばかりの、彼には老いてしまうには早すぎる年であり、見ていても、物足りなさを感じさせて同情をおぼえたが、あえて何も言わずにいた。大分、ナベも煮詰まってきた。最後に残しておいたうどんを入れて、味をつけて食べることにする。いろいろな具で出てきた味がしみこんでおいしそうである。気の置けない二人の時間は、その場の雰囲気に合った、空気のように静かに漂っていた。いつもこんな時間の中で暮らして生きたい、不図そんな思いが小林の脳裏を掠めた時、彼が聞いてきた。「小林、お前もチョンガーだよな。かみさんはどうしたんだ。」「大分前に死んだんだ。」「そうだったのか。知らなかったよ。」
今度は小林がしゃべることになっていた。
「学生時代に、妙に話の合う友達だったんだ。だから好きだから、可愛いからと言う感じじゃあなくて、話していて、楽しかったし、理解しあえるなということで付き合ったんだ。才能のある人で、何でも新しいものに取り組んでいたよ。
それから、自然に結婚に進み子供も出来た。自分がサラリーマンだったので、彼女も好きな趣味を生かして、生活していたんだが、会社を辞めて、ここへ住むようになって、少しづつ二人の間に考え方の相違が出てきたんだ。
やはり、男は仕事があり、お互い自立していることが安定を求める女性にとって
落ち着くのだろうけど、何もなくなると負担に感じるのだろう。一人で仕事をしたいと言い出したんだ。私はその時始めて、自分の置かれている立場が分り、愕然としたんだが、もう遅かった。ここの環境も合わなかったのかもしれない。
冬の寒さ、厳しさは到底想像のつかないもので何をするにも不便が伴う。彼女にはそれもあったのではないかと思う。だから喧嘩別れでもないし、嫌いあって別れたわけでもない。まあ、別居みたいなものなのかもしれない。
でも、こうして一人になってみると、やはり一抹の未練というか、寂しさはあるね。」其処まで話すと、彼は熱い酒をぐっと飲み干した。今の彼を慰めるのはこの酒なのだろう。彼には何をするにも、何を考えるにも酒が必要なのだ。
人間として生きていくうえに、毎日のように揺れ動く心と気持ちをコントロールしながら支えていく、潤滑油としてどうしても欠かせないのだろう。
「今は、落ち着いてマイペースの生活が出来るようになったけど、暫くは落ち着かなかったよ。」まだ還暦を過ぎたばかりの、彼には老いてしまうには早すぎる年であり、見ていても、物足りなさを感じさせて同情をおぼえたが、あえて何も言わずにいた。大分、ナベも煮詰まってきた。最後に残しておいたうどんを入れて、味をつけて食べることにする。いろいろな具で出てきた味がしみこんでおいしそうである。気の置けない二人の時間は、その場の雰囲気に合った、空気のように静かに漂っていた。いつもこんな時間の中で暮らして生きたい、不図そんな思いが小林の脳裏を掠めた時、彼が聞いてきた。「小林、お前もチョンガーだよな。かみさんはどうしたんだ。」「大分前に死んだんだ。」「そうだったのか。知らなかったよ。」
今度は小林がしゃべることになっていた。