現役でサラリーマンをしていた頃、上司に連れられて「お前も少しはましな店を覚えておくといいよ。お客さんによっては利用することもあるから」と言われて連れてこられた店がこの辺にあったはずだ。御徒町の駅の近くで暖簾も目立たない店で時間にならないと暖簾を出さないという昔の古風を守っている店だったが、味は良かった覚えがある。
昔、同伴をしなかった罪滅ぼしも兼ねて、行ってみることにした。少し時間が過ぎていたせいもあって、店に入ることが出来た。入口のカウンダ―を抜けて奥の狭い階段を上がると8畳と4畳半の小部屋がある。昔の儘の飾り気のない部屋にテーブルが置かれているだけだ。メニューもあれこれあるわけではなく、「定食」と言うだけである。棒のように丸い形のとんかつが輪切りにされ、そこにキャベツがシンプルに添えてあるだけだが、その味は格別であり、
一味違っていた。上野の寄席に上がる芸人や有名人がお忍びで来ることもあると聞いていたが、それだけのことはありそうだ。ばたばたと食事をして近所の喫茶店で落ち着くことにした。お茶を飲みながら少し落ち着いた頃、「その後どうしてた」と聞くと「ほら、
あの頃青山さんにも話したと思うけど私お店辞めたら、自分の小さいお店を持つのが夢だったの。もうこの年ではお嫁にも行けないし誰ももらってくれないし」とここでちらっと
恨めしそうに青山を流し目で見つめる。「誰か良い人がいたんじゃなかったの、順ちゃんなら何人もいそうなもんじゃないか。」「みんな家庭もちだから、いいお客さんはいっぱいいたけど対象にはならなかったわ。」「そんなもんかね。それでどうなの」「家の近くにいい物件があってそこで小料理屋をやっているのよ。家が近いから安心なの。家族も覗いてくれるし、」「青山さんはどうしているの。奥さんが亡くなったことは知ってたけど再婚したの。」「いやあ、そう簡単にはいかないよ。あれだけ夜遊びして内儀さんを
亡くしちゃうとね。何となく自分だけと言う気持ちになれなくて、今罪滅ぼしとは言わなくても一人でいるのが、一番なんだ。何となく今頃になって内儀さんのことを思い出すことが多いんだ。特別にすることがあるわけではないが、前にいた事務所を安く契約して「よろず相談所」みたいなことをしているのさ。話を聞くのが好きでね。」「そうねの。
それで思い出したんだけど、うちに来るお客さんで最近毎日のように寄ってくれるお客さんがいるの。とても良いお客さんなんだけど、何となく訳ありなのよね。」
昔、同伴をしなかった罪滅ぼしも兼ねて、行ってみることにした。少し時間が過ぎていたせいもあって、店に入ることが出来た。入口のカウンダ―を抜けて奥の狭い階段を上がると8畳と4畳半の小部屋がある。昔の儘の飾り気のない部屋にテーブルが置かれているだけだ。メニューもあれこれあるわけではなく、「定食」と言うだけである。棒のように丸い形のとんかつが輪切りにされ、そこにキャベツがシンプルに添えてあるだけだが、その味は格別であり、
一味違っていた。上野の寄席に上がる芸人や有名人がお忍びで来ることもあると聞いていたが、それだけのことはありそうだ。ばたばたと食事をして近所の喫茶店で落ち着くことにした。お茶を飲みながら少し落ち着いた頃、「その後どうしてた」と聞くと「ほら、
あの頃青山さんにも話したと思うけど私お店辞めたら、自分の小さいお店を持つのが夢だったの。もうこの年ではお嫁にも行けないし誰ももらってくれないし」とここでちらっと
恨めしそうに青山を流し目で見つめる。「誰か良い人がいたんじゃなかったの、順ちゃんなら何人もいそうなもんじゃないか。」「みんな家庭もちだから、いいお客さんはいっぱいいたけど対象にはならなかったわ。」「そんなもんかね。それでどうなの」「家の近くにいい物件があってそこで小料理屋をやっているのよ。家が近いから安心なの。家族も覗いてくれるし、」「青山さんはどうしているの。奥さんが亡くなったことは知ってたけど再婚したの。」「いやあ、そう簡単にはいかないよ。あれだけ夜遊びして内儀さんを
亡くしちゃうとね。何となく自分だけと言う気持ちになれなくて、今罪滅ぼしとは言わなくても一人でいるのが、一番なんだ。何となく今頃になって内儀さんのことを思い出すことが多いんだ。特別にすることがあるわけではないが、前にいた事務所を安く契約して「よろず相談所」みたいなことをしているのさ。話を聞くのが好きでね。」「そうねの。
それで思い出したんだけど、うちに来るお客さんで最近毎日のように寄ってくれるお客さんがいるの。とても良いお客さんなんだけど、何となく訳ありなのよね。」