経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済合理性で展開を読む

2011年12月07日 | 経済
 本コラムで書いていたことが、また現実になったらしい。読売によれば、「東電、火力発電所を売却へ、自前で発送電を転換」だそうな。コラム読者の先読みのお役に立てたことはうれしいが、日経朝刊には一行もなし。特オチか。これだけサポートしてるのに、我らが日経は何をしておるのかね。

 これは、東電や経産省への食い込みが足らんといった話ではないよ。現場の記者でなく、論説や編集の責任だろう。合理的に考えれば、こうなるのは十分予想できたことで、読み筋を持ち、世論や現場をリードするのが幹部の役割だ。発送電分離の抽象論しか出てこない、日本の「民」における政策企画能力のなさには、情けなく感じていた。

 本コラムで最初に火力売却を書いたのは、6/18のことである。それ以来、何度か書いてきたが、日経に限らず、各紙やマスコミにも動きがないので、電力会社のプレッシャーでもあるのかとか、筆者が制度などで思い違いでもしているのかと疑ったりしたほどだった。東電も避けたかったのたろうが、経営的な苦境に追い込まれたのだろう。経済合理性で展開を考えることの大切さを示せたように思う。

 実は、あえて言ってなくても、他にも似たようなことはある。例えば、震災復興の高台移転である。筆者は、高台移転は難渋するだろうと予想していたが、そうした指摘はしなかった。できれば成功してほしいと願っていたからである。新聞各紙は、社説などで盛んに高台移転を求めていたのに、本コラムは、それを推すことをしていない。

 三陸沿岸は、津波の常襲地帯である。高台移転が必要なことは、地元の人たちは、百も承知である。それが出来ずにいたのは、経済的、社会的に極めて難しい理由があるのだろうと思い至らなければならない。むろん、政府からの破格の支援で越えられる可能性もあったが、現実には、そこまで行かなかったようだ。

 代わりに、本コラムが提案していたのは、津波被害の比較的浅い土地に、高層の公営住宅を建てて高齢者を中心に住まわせることだった。1、2階は駐車場や市場、上階に介護サービス付きの高齢者専用賃貸住宅、屋上に太陽光パネルといったイメージだ。高齢の被災者が高台移転より公営住宅を望んでいるという最近のニュースを聞くにつけ、もう少し出来ることはなかったかと悔やまれる。 

 もちろん、世の中は経済合理性でのみ動いているわけではない。今日の日経は、「政府税調が温暖化対策税を再提案」と報じているが、これは経済成長を促進する上でも重要なツールになる。筆者ならば、ガソリンや電力に段階的に課税を増す計画を明らかにした上で、エコカーや太陽パネルへの超低利融資制度を、郵便局にでも創設させる。省エネへの投資が最も合理的な行動になるよう制度設計をするわけである。

 現実には、自動車業界は車にかかる税金を負けろの一点張りである。そんなことをすれば、税収に大穴を空けてしまう。無闇な減税をしてしまうと、長期金利が上昇して、日本経済の唯一の利点と言っても良い低金利まで失いかねない。これは法人減税も然りである。他方、温暖化対策税は、資源輸入の削減にもつながり、貿易収支の体質を強化し、財政赤字の大きさのリスクを軽減することにもなる。

 経済合理性を基に、全体を眺めれば、将来の展開はおのずと読める。ただし、日本の場合、消費不足でデフレなのに、強引に消費税を計画したり、手元資金がダブついていながら、法人減税を試みて税収に大穴を開けようとしたり、世代間格差は少子化が原因にもかかわらず、負担増を唱えて、結婚したい若者の雇用を危うくしたりと、不合理なことばかりが望まれている。不合理なことをすれば、理(ことわり)に従い、悲惨な結果が出るのだが、そういう「読み」は、したくないものである。

(今日の日経)
 温暖化対策税、12年10月から300億円、4年後2400億円、高所得者課税強化も。首相訪中を延期。欧州中銀、利下げ観測。人民元に売り圧力。京都代替案を・滝順一。ドル調達コストの上昇続く・平本信敏。ブラジル、マイナス成長。ベトナム6%成長目標、CPIは9%以下。サムスンが中国工場。TV技術力は健在・4倍解像度、制作・医療用。大機・越渓。余剰資金、再び国債に。経済教室・診療報酬・印南一路。やさしい経済学・ケインズ・柴山桂太。

※これは復興財源には出来なかったのかね。※解放軍からの突き上げか。※中国経済の異変がもう一つ。※平本さん、良い切り口だ。※欧州危機が波及してきたね。※サムスンの積極策はどう出るか。※内需拡大は越渓さんくらいになったよ。※日経の読み筋といえば、「悪い金利上昇」のワンパターン。たまには「良い金利下落」とかはいかが。※ケインズだって不吉な予言はしたくなかっただろうね。

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3 コメント

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6月18日のコラム読みました。 (理工系の学生)
2011-12-07 23:04:42
はじめまして。

発電を別の企業にすることで、コストが下がるとありますが、
発電する企業が値段を釣り上げて儲けようとする可能性はありませんか?

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競争導入 (KitaAlps)
2011-12-16 22:46:12
 今の電力会社は、発電と送配電を事実上独占しています。このうち発電を完全に分離してどんな企業でも自由に発電事業に参入できるようにすると、発電企業が複数になり競争になるので、競争に勝つためにコストを下げる努力が行われるというわけです。

 送配電の方は、送配電網に膨大な設備投資と維持費用がかかります(発電所を一つ作る費用に比べると、桁違い(何桁も違うほど)に大きい)。仮に、送配電事業にも競争を導入して、仮に複数企業が競争する状況になると、膨大な重複投資になります。
 こうしたネットワーク網は、送配電網の密度や規模が大きいほど効率性が高まったり、多様なサービスが提供しやすかったり、さまざまに有利な傾向がありますから、競争は配送電網への投資規模によって決定されます。
 この場合に、途中で競争に負けた企業が撤退しようとしても、その企業の送配電線網はほかに使えませんから、まったく無駄になります。だから、逆に、それを考慮して、参入する企業も簡単には現れません。
 ですから、配送電事業は、現在の独占状態を認めて、「公共料金」として政府の認可の下において監視するという現在の方式が合理的です。

 一方、発電事業は、こうした問題がないので、発電だけでも、競争を導入しようというわけです。

 実際、日本も戦前は、多様な企業が発電事業を行っていて、価格も競争で安くなったりしていました。多分品質は、それほどではなかったでしょうが。
 実は富山県は、日本海側では比較的工業が発達していますが、それは、戦前、水力発電で廉価な電力を供給することで企業誘致が活発に行われたためと言われています。京浜工業地帯の電力料金の半額は当たり前で、「8分の1」の価格で電力が供給された例もあったようです。この結果、戦前の工業出荷額のピークは、全都道府県中で9位でした(現在は、人口が小さいこともあって20位台後半に低下しています)。
返信する
追伸 (KitaAlps)
2011-12-16 22:47:36
上のコメントは、「理工系の学生」さん向けです。
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