経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

医療に関する世代間負担論

2011年12月06日 | 社会保障
 今週の経済教室は、「医療を考える」というシリーズのようだ。そのトップは、一橋大の小塩隆士先生である。小塩先生らしいバランスの取れた内容ではないかと思う。筆者は、医療経済学を専門にしてはいないが、負担論の立場で少しコメントすることにしたい。

 まず、医療費の水準であるが、筆者は、その増加の人口要因は容認べきだと考える。小泉政権下での社会保障費の削減は、各制度に相当きついものになり、救急医療や小児医療で明らかな不足が生じことを踏まえると、そこまでは認めた上で、経済成長に伴う質の向上分をいかに効率化で吸収するかという取り組み方が良いのではないだろうか。

 次に、医療費の世代間負担については、根強い支持のある「事前積み立て方式」に、現実性がないのは、筆者も同感だ。ただし、その問題点は、「二重の負担」が必要なのは、理論上、子供を持たない者に限られるからである。また、年金よりも規模が小さいとは言え、貯蓄をした場合の投資先をどう確保するかというマクロ経済的な難点もある。

 また、筆者も後期高齢者医療制度は支持するものだが、世代間の公平の観点からは、子供を持つ高齢者が扶養されている場合に有利だったことには、意味があったとも言える。医療においても、子供を持たない者には「二重の負担」を課すことが、本当は公平だからである。医療の場合、保険料の半分が高齢者医療分とされるから、子供を持たない人には、1.5倍の保険料が必要ということになろう。

 税制の公的年金等控除については、筆者も給与所得控除より手厚いのは問題だと思う。保険料は納める際に非課税であったのだから、給付の際に税負担をするのは当然ではないだろうか。高齢者の貧富の差が大きいことを考えれば、小塩先生が言うように、年齢ではなく、所得や資産に応じた負担をしてもらうのが望ましい。

 最後に、小塩先生は、都道府県を保険者として各医療保険を再編・統合することを提言している。医療の効率化に、どの程度の効果が期待できるかは別にして、地方において、人口が急速に減少していくことも考えると、これは不可避のことに思われる。こういう役割を担ってこそ、地方分権の価値も出ようというものだ。

 今日は、世代間の公平に関する理論的な説明は省略したので、一般の読者には、分かりにくかったかもしれない。理論については、12/3のコラム「世代間負担論の到達点」を御参照いただきたい。

(今日の日経)
 原発コスト5割増、なおLNG並み。原発の立地対策費を盛る。財政悪化は自動制裁。欧州版IMF前倒し。年金、受給資格緩和と低所得者加算は消費税と同時実施。エコカー減税の燃費厳しく。日銀ETF購入息切れ感・清水功哉。中国は住宅購入規制緩めず。三洋の200人受け入れ。太陽電池の部材各社健闘。幅広い年限で国債買い。経済教室・医療を考える・所得に応じた負担徹底を・小塩隆士。

※リスクを評価する上で、期待値が同じであっても、稀でも大被害が出るものは価値が低い。また、廃炉費用のような未知のコストがあれば、未知であることのリスクから、著しく評価は下がる。さらに、経済成長で豊かになれば、太陽光の高コストは次第に気にならなくなる一方、原発事故で失う社会や環境の価値は高まっていく。LNG並みと言われても、原発が選ばれないのは、それを国民が直感的に分かるからである。しょせん、つなぎのエネルギーとして、仕方なく選ばれるものであり、早く、原発の新規建設ができなくなった現実を認め、どう移行するかを考えるべきだろう。また、太陽光とLNGは分散型発電が可能なのだから、グリッドでのコスト比較の観点も欠かせない。

※自動制裁の中身が分からないね。財政赤字の程度に従い、ECBが買い入れる国債金利の水準に差をつけるのが良いように思うが。※消費税引き上げの際は、給付型税額控除と年金加算の二本立てなのか。あくまでも税と社会保障の縦割り改革なんだね。※エコカー普及には、非エコカーへの取得時課税も必要だし。ガソリン税の引き上げも当然だ。エコカーへの買い替えが有利という税制を設計すべし。※日銀は、リスクで市場が不合理に萎縮し、民が買えないときにこそ買わなくてはならない。なすべきことは逆。

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