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現場力について考える第5回

2015年03月13日 | ブログ
現場力を支える

 2011年3月の東日本大震災の際、すべての電源を喪失して大事故に至った福島原子力発電所よりも、震源地が近く大きな揺れに襲われながら、高い位置に建屋を設置していたことで、津波被害を免れ生き残り、その後の内外視察団から、その堅牢さを評価された東北電力女川原子力発電所のことが、2009年2月に出された遠藤功氏の「現場力復権」(東洋経済新報社)に記されていた。

 『組織の「しつけ」の不徹底が、大事故を招いたり、不祥事の発生につながる。企業のリスクマネジメントの観点からも、組織の「しつけ」の手を抜いてはならない。

 現場視察をさせていただいた東北電力女川原子力発電所では、朝の出勤時に所長自らが事業所の入り口に立ち、出勤してくる所員たちに大きな声で「おはようございます」と声をかけている。

 「小学生じゃあるまいし・・・・」

 そう思われる方もいるかもしれないが、こうした基本的なことをおろそかにしていては、原子力発電所の維持・運営はできない。

 女川原発では約1500名の従業員が働いているが、社員はそのうちの400名にすぎない。残りの1100名は、数十社にも及ぶ協力会社、機器メーカーの社員である。ひとつの事業所でありながら、その実態は(言葉は悪いが)「寄せ集め所帯」である。話したこともない人が大半であり、考え方や意識にもバラツキがある。

 情報共有を進めたり、従業員間の交流を図る施策を講じることはもちろん大切だが、その原点は、所属している会社は異なっても「女川原発で働いている」という意識の統一である。

 それを表すためにも、所長自らが所属企業に関係なく、一人ひとりに「おはようございます」と声をかけるのである。お互いに「おはよう」と声をかけ合うようなことができない現場に、原発の維持・運営はできない。

 あまりに基本的なことだが、そもそも「しつけ」とはそういうものである。

 基本の繰り返しができないところからは、何も新しいものは生まれない。』

 同時に、「現場力復権」には、現場力を鍛えるために、組織の「しつけ」が組織運営の土台であり、「基本的な約束事」であるとし、「挨拶の励行」「5S運動などによる整理整頓の徹底」「報連相(報告・連絡・相談)による情報共有、意思疎通の徹底」「指差確認などによる安全の励行」をその例としてあげておられる。

 そもそも「しつけ」は5S「整理・整頓・清掃・清潔・躾」にあり、一般には「ルールを守ること」となっているが、この場合の「しつけ」は、さらに広い意味から人間としての立ち居振る舞い、基本的な心の在り方までを含んでいる。

 この国の現場力を今後とも維持・推進するために企業が行う具体的な方策としては、まず安全管理の徹底のために、ゼロ災運動の一環として「ヒヤリハット」(ヒヤリとしたハットしたすなわち災害には至らなかった事故事例を記録して共有し、対策を打つ)、「4RKYT」(危険予知訓練)、「安全一言提言」(朝の朝礼などで当番制で行う)、「安全標語」活動などがある。「5S活動」や「挨拶運動」も安全管理に繋がりが深い。次にTQM(総合的品質管理)活動の一環として、「ZD(無欠陥)運動」、「QCサークル(小集団)活動」、「改善提案活動」があり、視点を変えてTPM(全員参加の生産保全)活動や「見える化」活動もある。

 ひとつの事業所であれもこれもとはいかないし、過去にやっていたがマンネリ化し、そのこと自体が目的化したため中断したということもあろう。しかし、やり方は時代に合わせ、組織に合わせて新たにオリジナルなものを工夫すればいい。主業務に加えてこれら何らかの活動を展開することは、従業員の問題発見・解決能力向上に有効である。




本稿は、遠藤功著、「現場力復権」2009年2月、東洋経済新報社刊を参考にし、『 』内は直接の引用です。
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