中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

現場力について考える第4回

2015年03月10日 | ブログ
現場力を育む

 日産を復活させたカルロス・ゴーン氏は、わが国の自動車産業の強さの秘密について『一番大きな理由は日本の現場の質の高さです。工場の労働者だけでなく、エンジニアやスタッフを含めた現場の人たちの献身ぶり、忠実さ、組織力、規律、細やかな仕事・・・。これらは日本の産業の大きな資産です。・・・・』*2)と述べたという。

 これら「献身」、「忠実」、「規律」、「細やかな仕事」などわれわれに与えられる称賛のキーワードはどこから来たものであろうか。日本人の遺伝子だとしても、その遺伝子がどのように形成されたものか。四季のある自然、美しい山河、海浜、その自然環境が細やかな情緒を育んだことは間違いがなかろう。それは、万葉の時代から優れた和歌や物語が残されていることからも推測できるのではないか。

 鎌倉期には多くの仏教宗派が生まれ、混迷の時代に民衆の精神支柱となった。武士の時代には武士道が起こり、献身、忠実の心を育んだ。商いにしても、それまで神社などの強力な支配下にあった専売制を、信長が楽市楽座として解放したが、すでにこの国では古くから、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」や「利真於勤」(営利至上主義への戒め)、「陰徳善事」(人知れず善い行いをして見返りを求めない)など、非常に深い長期的視野に立った商売が実践されていた(近江商人の思想・行動哲学)ようだ。加えて、「番頭はんと丁稚どん」ではないが、丁稚奉公からでもまじめに勤め上げれば番頭にも成れるというシステムも「献身」「辛抱」を後押ししたのではないか。明治期に入ると教育制度に「修身」が取り入れられた。

 修身には、内外の偉人伝に始まり、家庭のしつけや親孝行、勤労・努力、創意・工夫、公益・奉仕、友情と信義・誠実など人間として基本的な道徳が盛り込まれていたようである。戦後、占領軍の施策によって「修身」は教育のカリキュラムから外されたものの、戦前世代の親や教師から、戦後生まれの人々にもそのエキスは継承されていたと思う。その長い歴史の中、わが国は権力者の変遷はあっても天皇という軸があったことも良き遺伝子が途切れなかった要因ではないか。

 それらの土台の上に、戦後の高度経済成長期には、多くの企業が品質経営を実践した。すなわち当時のTQC(総合的品質管理)である。もともとQC(品質管理)は、フレデリック・テーラーが20世紀初頭に提唱した科学的管理法やIE(生産工学)を端緒として米国に起こったが、戦後わが国に渡り、人間性重視に基づく従業員の視点を加えられたことによって、一段の品質向上に貢献する。

 まさにTQC活動の一環として展開した小集団活動や改善提案制度など、従業員の問題発見とその解決能力を陶冶したのである。




*2)森谷正規「現場の力」2003年7月、毎日新聞社刊。日経ビジネス2003年1月13日号より引用したという。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする