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経済学のすすめ17

2011年07月25日 | Weblog
乗数効果

 管首相が副総理兼財務大臣当時の2010年1月、参議院の予算委員会で自民党の林芳正議員との質疑の中で、「1兆円の予算で1兆円の効果しかないやり方をやってきた」と自民党政権時代の投資は経済波及効果が低かったと批判した。そこで、林氏が鳩山内閣の目玉である子供手当の乗数効果をただしたところ、子供手当の支給額のうち消費に回る「消費性向」を持ち出して「おおむね0.7程度を想定している」と答えた。そこで林氏が「消費性向と乗数効果の違いを説明してほしい」と追及すると、菅氏はしどろもどろになって審議は中断。脱官僚依存の筈が、官僚の助言を仰いで答弁する羽目に至った。この顛末で有名になった経済学用語「乗数効果」の話をしようと思う。

 それにしても1億3千万近い人口を持ちGDPでも世界有数の規模を持つ経済大国日本の財務大臣が「乗数効果」も知らなかったと、ネットなどでは随分馬鹿にされ、呆れられ、かつ政権のレベルの低さを嘆かれたものだけれど、その半年後、その御仁は財務大臣どころか総理大臣となった。大震災に当たっての対応の不手際、世相のムードに便乗する思いつき発言と相も変らぬ口先だけの無能ぶりを発揮して、国民を最大不幸社会に誘導中であるが、政権党の執行部も手をこまねいて対処できない輪を掛けた体たらくである。結局震災復興*60)も国民のこともほとんど考えていない。衆院多数の「民主党を壊さないこと」が一番の政党のなせる業なのである。

 ところで「乗数効果」、伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑波書房1968年刊から「乗数理論」として直接引用させていただく。

 『マクロ理論の成立を促した理論上の契機は何と言っても「乗数理論」の成立です。乗数理論とはいったい何かといいますと、例えば政府が失業者を雇ったとします。そのとき、失業救済の社会全体の効果は、単に政府が初めに雇った失業者、それだけではありません。その失業者は自分の得た収入を消費財の購入にあてるでしょう。そうすると、その消費財はそれだけ売れることによって、経済活動量がいままでよりも増え、この分野の企業では今まで以上の人を雇うことになります。雇用の第二次増加です。このことは、さらにより多くの人々が収入を増し、消費量が増え、そのことがまたより多くの雇用を促進する、というように政府雇用の増大はつぎつぎに社会全体に影響を与えていくわけです。

 こうした場合に、いったい政府が、初め一定量の人を雇ったとするならば、社会全体として、何倍の雇用量が増大するか、これを推計する必要に迫られたわけです。・・・その倍数が雇用乗数と呼ばれ、乗数理論のもととなり、これがケインズの投資乗数論へと進んだわけです。

 たとえば新たに佐久間ダムに100億円の投資*61)をした結果、その分だけ社会全体の投資が増加したとします。この場合、社会全体でどれだけの所得が増加するのでしょうか。直接、間接の効果をすべて合計する。これが通常の乗数理論です。そして乗数理論はいかなる時点においても、次のような式が成り立つということを解明しました。

 所得の増加={1/(1-限界消費性向)}×投資の増加
 
 ここで限界消費性向というのは、所得の増加分のうち、人々は社会全体として平均して何%程度を消費するかという割合であります。もし人々が所得のうち9割を消費し、1割を貯蓄している社会であったとするならば、限界消費性向は0.9になります。そして投資が増えるとその{1/(1-0.9) }倍*62)、つまり10倍の所得が生み出されるということをこの式は示すわけです。』

 因みに子供手当の場合はどうか、菅当時の財務大臣は消費性向を0.7としたが、国民に直接現金をバラまくのは減税効果と同様と考えられるため、投資効果の第一段階が抜け、乗数の部分の分子が0.7となり、乗数は{0.7/(1-0.7) }≒2.3倍程度となると考える。政府が同じ額を設備等に投資する場合より小さい効果しかもたらさない。「コンクリートから人へ」への民主党政権の方が、経済波及効果は小さい投資をやろうとしたのだ。しかも今回子供手当は増税とセットとなったため、乗数はほぼ1(国民所得は増加しない)と考えられる。(均衡予算乗数の定理)







*60)9日間で辞めた復興大臣が岩手県で言い放った「本当は仮設はあなた方の仕事だ(仮設住宅の要望をしようとする達増知事に対して)。」「知恵を出したところは助けるけど、知恵を出さないやつは助けない。そのくらいの気持ちを持って。」とは、大臣のというよりこの政権の本音で、現政権は何からどうやっていいのか分かっていないのだと思う。
*61)マクロ理論で投資とは、新たに資本設備が作られること。個人の株式投資は売り買いで相殺されるため、マクロ的(社会全体として)投資ではない。古い資本設備を購入することも同様である。 
*62){1/(1-限界消費性向)}の部分を乗数という。

本稿は、伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑波書房1968年刊の他、TAC中小企業診断士講座「経済学・経済政策」テキストなども参考に編集しています。
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