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経済学のすすめ18

2011年07月28日 | Weblog
IS曲線

 マクロ経済学が分析対象とする重要な市場には、集計量としての一国全体の生産物市場である「財市場」、そして「労働市場」および「貨幣市場」がある。財市場の分析には、一国の国民所得(総生産、GDP)の水準と、それが政府の政策から受ける影響などを分析するが、この分析にはケインズ経済学が用いられる。

 先に(経済学のすすめ15「ミクロとマクロ」)投資と利子率の関係に触れた。利子率が高い場合投資は少なく、利子率が下がれば投資は増加する。なぜか。投資を1単位増加させるときに見込まれる収益率は投資の限界効率と呼ばれるが、通常企業は収益率の高い案件から投資を行うから、投資を増加するほど企業にとって有利な投資案件は少なくなり、投資の限界効率は低下する。企業は追加的な投資費用を収益が上回るまで投資を行うと考えられ、投資費用とはその資金を借り入れた場合はその利子となるから、利子率が低ければ低いほど投資の機会は増えるわけだ。

 IS曲線のIは投資であり、Sは貯蓄で、IS曲線は両者の均衡(投資I=貯蓄S)を意味する。先に「乗数効果」として、例えば佐久間ダムに100億円投資した場合、その時の国民の限界消費性向を0.9とすると、投資の10倍である1000億円の国民所得が増加することを示した。国民は増加した所得からも1割の貯蓄を行うため、貯蓄額は投資額と同じ100億円増加することになる。例えば銀行が貯蓄を煽って国民が所得の2割を貯蓄するようになったとしても、その時には投資における乗数効果が半減するため増加所得も半分となり、結果として国民の貯蓄総額は変わらないことになる*63)。このような投資(I)と貯蓄(S)は等しくなる財市場の均衡をIS曲線は示すのである。

 またIS曲線は財市場の均衡を示す利子率と国民所得の組み合わせを表す右下がりの曲線である。そこで、IS曲線の導出過程を考察する。

 国民所得は、総供給と総需要の交点(均衡点)で決まるが、総供給は総生産に等しく、すなわち国民所得(GDP)に等しいから、縦軸に総供給と総需要、横軸に国民所得の図において、総供給(Ys)は原点から45度の傾きを持った直線所謂「45度線」となる。一方総需要(YD)は、ある利子率で均衡する投資の額を総需要に含めるとYD=c・Y+A+I(cは限界消費性向で、Yが国民所得、Aは所得に依存しない消費、Iが投資で輸出入は考えず、この時点で政府支出はないものとする)で表される。この総需要(YD)線と総供給(Ys)線の交点が均衡国民所得となり、ある利子率で均衡する国民所得となる。この利子率をパラメータ(変動因子)として、各利子率に対応する投資額を先の総需要の式に代入して総供給線との交点の変化(均衡国民所得)をプロットすればIS曲線が得られるのである。

 均衡国民所得でのIS曲線と均衡する利子率において、政府支出(G)などが加わると、⊿G分YDが上方にシフトし、乗数効果である⊿G/(1-c)分45度線との交点が右にずれる。すなわちその分均衡国民所得が増加する。この状態はIS曲線からは超過供給の状態であり、通常の均衡であれば利子率が下がり総需要を喚起しなければならない*64)が、政府の財政政策では、IS曲線は右へ⊿G/(1-c)シフトして均衡する。減税(T)という財政政策であれば、c・⊿T/(1-c)だけ国民所得の増加をもたらし、IS曲線もその分、右にシフトする。

 財政政策の効果は、IS曲線の動きからだけでは結論できないが、次のIS-LM分析に備えて、財政政策によるこのようなIS曲線のシフトを理解しておく必要がある。





*63)このように、個々の人々が貯蓄を2倍にしようとして、貯蓄率を2倍にする。それが社会全体としては2倍にならない。個々の人々の意思を離れて別個のものによって決定されているところに、マクロ理論の面白さがある。これを「結合の誤り」と呼ぶ。
*64)単なる国民所得の増加は等しいだけの総供給を増加させるが、総需要は国民所得のすべてではないため、財市場は超過供給(IS曲線の上方)の状態となる。ここで財市場を均衡させるためには利子率を低下させて総需要を増加させなくてはならない。すなわち利子率は低下しなければならない。

 本稿は、伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑波書房1968年刊、西村和雄編「早わかり経済学入門」東洋経済新報社1997年刊およびTAC中小企業診断士講座「経済学・経済政策」テキストなども参考に編集しています。
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