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経済学のすすめ14

2011年07月16日 | Weblog
国際貿易の比較生産費説

 国際貿易については、その技術格差によって大国には利益をもたらすけれど、小国にとっては不利益になるのではないかとの懸念があるかも知れない。しかし、経済学の理論では、二国間の貿易は両国に利益をもたらすことができる。その基本的な考え方を比較生産費説(比較優位の理論)といい、200年も前にイギリスのD.リカード(1772-1823)によって示されている。

 例えば先進国Aと発展途上国Bの2国(以下A国、B国)が労働力を使い2つの財(工業製品と農作物)を生産していると仮定する。A国では工業製品の1単位の生産に労働が2単位必要であり、B国では10単位必要である。一方農作物の生産にはA国は4単位、B国では5単位の労働が必要である。いずれもA国の労働投入量が少なく、A国はいずれの生産技術にも優れることが分かる。すなわち、A国はB国に対して両財について「絶対優位」を持っている。

 しかしながら、A国の労働賃金をw1、B国をw2とそれぞれ一定のものとし、市場を完全競争的として財の価格を単位生産費とすると、2財の価格はそれぞれ、2w1、4w1および10w2、5w2となり、2国それぞれの工業製品と農作物の相対価格は2w1/4w1、10w2/5w2となる。すなわちA国は1単位の工業製品を生産するために農作物コストの1/2しかかからないが、農作物は工業製品の2倍のコストがかかる。一方B国は工業製品に農作物の2倍のコストがかかるけれど、農作物は工業製品の半分のコストで生産できる。

 A国は両財について「絶対優位」を持っており、工業製品にも「比較優位」を持っているが、農作物についてはB国が「比較優位」を持っているのである。従ってB国が農作物に生産を特化し、A国が工業製品に特化して両国が貿易を行えば両国に利益をもたらすというのが結論となる。

 w1とw2に数字を入れてみるとはっきりする。A国は単位当たり2財の生産に必要な労働は合計6単位で、B国は15単位である。少なくとも両国の労働賃金の支払い総額を同じと仮定すると、単位賃金額の比率は1:0.4(w2/w1=0.4)となる。従ってA国での工業製品と農作物の単位価格はそれぞれ2と4に対して、B国のそれは4(10×0.4)と2(5×0.4)となり、明らかに工業製品はA国産が安く、農作物はB国産が安くなることが分かる。工業製品はA国からB国へ、農作物はB国からA国へ輸出することで、両国共に利益を得ることができるのである。

 『D.リカードは、イギリスの産業革命が展開し、やがて最終段階に入らんとするときの経済学者である。ナポレオン戦争*49)が終わり、1815年過渡期的恐慌がイギリスを襲う。この原因とそれに伴う労働者の貧困を、彼の論敵であるマルサス*50)は、資本の過度な蓄積による有効需要の不足にあるとし、対策として、地主階級、不生産的階級の有効需要の確保のため、穀物関税を引き上げ安い海外の穀物流入を阻止することを主張する。事実、穀物法はナポレオン戦争終了に伴う安価な外国穀物の流入を阻止する目的で1815年に成立する。

これに対してリカードは、この恐慌を生産部門間の不均衡から生じた一時的部分的なものとみなした。戦争下に海外からの穀物流入が減少し、そのため耕作限界が劣悪地主まで広がり、穀物価格が高騰したというゆがみは、清算されなければならない。穀物法が取り除かれ安い穀物の海外からの流入がみられれば、賃金水準は下がり、同時に自由な貿易体制による市場の拡大に支えられ、産業資本の発展が促進すると彼は考えた。地主対産業資本の対立の中で、リカードは産業資本の立場に立ち、それを経済学の原理の確立へとつなげたのである。』






*49)1803年にアミアンの和約が破れてから1815年にナポレオン・ボナパルトが完全に没落するまでに行われた戦争。ナポレオン率いるフランスとその同盟国が、イギリス、オーストリア、ロシア、プロイセンなどのヨーロッパ列強の対仏大同盟と戦った。(byウィキペディア)                       *50)T・R・マルサス(1766-1834)古典派の代表的なイギリスの経済学者。社会問題、社会悪や労働者の貧困の原因をすべて人間性にもとづく人口の増加に還元した「人口論」(1798年)によって、その名を不朽のものとした。全般的過剰生産を主張して、地主階級の利益を代弁し、リカードなどと対立した。

 本稿は、伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑波書房1968年刊を参考にし、『 』内は直接引用しています。また西村和雄編「早わかり経済学入門」東洋経済新報社1997年刊およびTAC中小企業診断士講座「経済学・経済政策」テキストなども参考に編集しています。
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