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経済学のすすめ15

2011年07月19日 | Weblog
ミクロとマクロ

 経済学は、その視点からミクロ経済学とマクロ経済学に分けられる。企業なり、消費者なり個々の経済主体を取り上げ、その経済行為に即して経済理論を展開するのが、ミクロ経済学であり、これに対して個々の経済主体の集合としての経済全体(たとえば一国全体)の経済活動を分析の対象とする経済学をマクロ経済学*51)という。ことはすでに述べた。

 ミクロ経済学はいわば森の中の個々の木を調べることによって森についての理解を深めるものであり、マクロ経済学は森全体を鳥瞰することによって、そのたたずまいを知るものである。ミクロ経済学とマクロ経済学は、一方が正しければ他方は正しくないというものではなく、両者相補って現代の経済学を構成する不可分な成分である*52)。

 現在の日本は、長くいわゆるゼロ金利政策を採っているけれど、全般的に景気は悪く相変わらずデフレ気味である。物価と利子率の問題を考えた時、ミクロ経済学的視点からすれば、利子率が高くなれば製品原価に占める金利負担が上昇するため、製品価格は高くなると考えられる。しかし、マクロ経済学の理論に即していうと、利子は高いほうが製品価格は安くなる。理由は、利子を上げると投資が減り、その結果は社会全体の有効需要*53)が減り、全体としての景気を抑制することによって物価は上昇せず、却って低下することになるという理屈である。ゼロ金利政策は利子を下げることで投資を誘発し、景気の底上げを図ったものであろうがそうはなっていない。

 ミクロとマクロではタイムラグもあることで、時系列的考察も必要かもしれないが、問題は利子が下がれば投資が増えるということである。経済理論は、現実を調べてそこから得た結論ではなく、この場合も、もしも企業家が合理的行動をし、利潤から利子を差し引いた残りを極大にするならば、利子率が低くなればもっと資金を借りて投資をするという経済行為が、利子率を縦軸に投資を横軸にとった図において、右下がりの均衡曲線が描けるという論理の上から引き出されただけだ。

 現代のわが国では、政府が景気政策を打ち、その結果企業は経営に余裕が出ると投資の多くがアジアに向かう現実がある。中小企業でさえそうだ。円高と低金利政策は日本国内の総有効需要の増加に貢献していないのである。しかも少数大企業からなる寡占状態や消費者の生活様式の変化が市場を、古来の経営学者が前提としたものから大きく変化させているのだ。

 それなら経済学は単なる机上の空論なのか。現実の社会の構造変化に無力なのか。否、そうではなかろうと思う。これまで述べてきたミクロ経済学に続いて次回以降マクロ経済学について考察したい。






*51)多和田眞編著「経済学講義」(株)中央経済社 平成3年(1991年)刊
*52)福岡正夫著「ゼミナール経済学入門」第3版 日本経済新聞社2003年刊
*53)貨幣的支出のある需要。「有効」という言葉は、貨幣支出(購買力)に基づいていることを示す。経済学では、有効需要とはマクロ経済全体で見た需要を指し、消費・投資・政府支出純輸出(輸出から輸入を差し引く)の和である。(byウィキペディア)

本稿は、伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑波書房1968年刊、多和田眞編著「経済学講義」(株)中央経済社 平成3年(1991年)刊、福岡正夫著「ゼミナール経済学入門」第3版 日本経済新聞社2003年刊、伊東光春著「経済政策はこれでよいか」(株)岩波書店1999年刊およびTAC中小企業診断士講座「経済学・経済政策」テキストなどを参考に編集しています。
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