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中小企業白書を読む第7回

2009年08月19日 | Weblog
理工系離れ

 2009年白書、第2章第4節「技術革新を生み出す技術・技能人材の育成」の項には、「我が国における理工系学生の動向」調査データがある。我が国学生の理工系離れがいわれて久しいけれど、ここには具体的に数字が示されている。

 まず、高校・高等専門学校をみる。1985年から2008年のデータで高校生の総数は、団塊世代女性の子供たちが高校に進学した時期と思われる1990年前後がピークで564万人。このうち工業科に属する生徒は49万人であった。しかし、2008年高校生総数は337万人、工業科の生徒は27万人までそれぞれ減少している。1985年に9.2%を占めた工業科の生徒は、2008年では8.1%である。

 高校生の進路を見ると、大学への進学率は85年の30.5%から08年は52.8%まで上昇。就職者数は85年の55万人から08年の21万人まで減少している。工業科の生徒でも就職率は85年の81%(11万人)から08年は63%(6万人)まで低下している。

 白書から外れるけれど、ものづくり工場の現場で、建築・土木現場で、種々のメンテナンスの現場で、優秀な技能者が輩出されにくくなっていることは、この数字からも明らかであり、現場技能者の高齢化は確実に進む。国家としても深刻な事態に陥る懸念を持つけれど、少子化対策名目の「子供手当て」現金支給というさもしい発想の、しかも国の税金を当て込む新手の選挙買収マニフェストが効を奏した場合に、それは解決に向かうのであろうか。

 白書に戻って、大学・大学院での理工系離れを検証する。大学生の総数は85年の173万人から増加基調にあり、2000年前後からほぼ横ばいとなり、08年には253万人。この中で理工系学生の割合は、85年の23.3%から08年19.6%まで低下しているが、この間大学への進学率が上昇しているため、理工系学生数は40万人から49万人に増加している。ただ、理工系学生数のピークは2000年前後にあり、この時の56万人からすれば7万人減少していることになる。

 白書では、学生の理工系離れの原因には触れられていないが、国家の経済が安定期にあれば、既成の企業を維持する能力においては、文系の管理技術すなわちマネージメント能力がより問われるためと推測する。事実、大会社の社長には大分以前から法学部や経済学部出身者が多いように思う。しかもこの10年の大企業では経営者層の待遇改善を優先した。「金持ち父さん」*7)的風潮も世に蔓延した。技術者はものづくり企業の起業には向くが、猿カニ合戦のカニの役割のイメージがあるのかも知れない。  

しかしいつの世にも地道に知恵を出し、汗を流して働くという価値観が重要である。企業組織はそのことをしっかりと評価する人事制度を構築する必要がある。それ以外に長期的にみて企業を発展させる方策はないようにも思う。
 

*7)「金持ち父さん 貧乏父さん」ロバート・キヨサキ/シャロン・レクター共著、白根美保子訳で、2000年11月初版が筑波書房から出ている。
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