えほんのせかいこどものせかい

「えほんのせかいこどものせかい」(松岡享子 日本エディタースクール出版部 1987)

この本は、この版の前に東京子ども図書館から小さな冊子として出版されている。
手元にあるのは、赤い表紙のこの冊子のほう。
松岡享子さんについては説明不要だろう。
児童図書館のえらいひとだ。

冒頭に記された文章によれば、本書は「こどものとも」の折りこみ付録に、1968年4月から1969年3月まで「私の教室」と題して連載されたものを、まとめたもの。
子どもにはなぜ絵本が必要で、どうやって手渡したらよいのか。
このことについて書いてある。
「子どもにはなぜ絵本が必要か」といった問いについては、この本以前も以後も、いろんなひとがいろんなことをいっているだろう。
でも、それに対する回答は、この小冊子に尽きていると思う。

さて、この本にも巻末に、「この本の中にでてくる書名」として、紹介された本がまとめられている。
以下に引用してみよう。

「ゆきむすめ」(内田莉莎子/再話 佐藤忠良/絵 福音館書店 1980)
「三びきのやぎのがらがらどん」(マーシャ・ブラウン/絵 せたていじ/訳 福音館書店 1979)
「かわ」(加古里子/作 福音館書店 1966)
「クマのプーさん」(A.A.ミルン/作 石井桃子/訳 岩波書店 2000)
「おおきなかぶ」(A.トルストイ/再話 内田莉莎子/訳 佐藤忠良/絵 福音館書店 1995)
「シナの五にんきょうだい」(クレール・H・ビショップ/文 クルト・ヴィーゼ/絵 かわもとさぶろう/訳 瑞雲舎 1995)
「ゆかいなホーマーくん」(ロバート・マックロスキー/作 石井桃子/訳 岩波書店 2000)
「かもさんおとおり」(ロバート・マックロスキー/作 わたなべしげお/訳 福音館書店 1980)
「ねむりひめ」(グリム兄弟/原作 フェリクス・ホフマン/絵 せたていじ/訳 福音館書店 1978)
「もりのなか」(マリー・ホール・エッツ/作 まさきるりこ/訳 福音館書店 1980)
「ひとまねこざる」(H.A.レイ/作 光吉夏弥/訳 岩波書店 1998)
「ちいさいおうち」(バージニア・リー・バートン/作 石井桃子/訳 岩波書店 1979)
「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」(バージニア・リー・バートン/作 むらおかはなこ/訳 福音館書店 1961)
「ちびくろさんぼ」(ヘレン・バンナーマン/文 フランク・ドビアス/絵 光吉夏弥/訳 瑞雲舎 2005)
「百まんびきのねこ」(ワンダ・ガアグ/文 いしいももこ/訳 福音館書店 1980)
「ぞうのババール」(ジャン・ド・ブリュノフ/作 やがわすみこ/訳 評論社 1976)
「おかあさんだいすき」(マージョリー・フラック/作 光吉夏弥/訳 岩波書店 1983)
「はなのすきなうし」(マンロー・リーフ/文 ロバート・ローソン/絵 光吉夏弥/訳 1954)
「きかんしゃやえもん」(阿川弘之/文 岡部冬彦/絵 岩波書店 1959)
「ぐりとぐら」(中川李枝子/文 山脇百合子/絵 福音館書店 2007)
「わたしとあそんで」(マリー・ホール・エッツ/作 よだじゅんいち/訳 福音館書店 1980)
「はたらきもののじょせつしゃけいてぃー」(バージニア・リー・バートン/作 石井桃子/訳 福音館書店 1987)
「だるまちゃんとてんぐちゃん」(加古里子/作 福音館書店 1967)
「しょうぼうじどうしゃじぷた」(渡辺茂男/文 山本忠敬/絵 福音館書店 2007)
「のろまなローラー」(小出正吾/作 山本忠敬/絵 福音館書店 2007)

以上。
いずれも名高い古典ばかり。
出版年は、手に入る版を優先した。
また、本書では「ちびくろさんぼ」の版元は岩波だし、「ぞうのババール」は岩波から出版された「ぞうさんババール」がとりあげられているけれど、これも手に入る版元を優先。

さて、以下は余談。
本書のなかで、松岡さんは、「絵本のよしあしを見きわめる目を養うために、“満25才以上”の絵本を読みましょう」と記している。
この意見に、異論のあるひとはいないだろう。

でも、この文章が書かれてから、すでに40余年がすぎている。
そのあいだに、たくさんの絵本が出版され、なかには満25才をすぎたものもあると思うけれど、はたしてそれらの絵本はすべからく自動的によい絵本になるのだろうか。
そんなことはないだろう。
もちろん、いつもていねいなことばづかいをする松岡さんは、こんな乱暴な断言はしていない。

「1冊の絵本が、25年間――ということは、5つの子どもが、同じ年の子どもの親になるくらいの年月――つづけて出版され、子どもたちからかわらぬ愛着をもって読まれたとすれば、それは、古典となるべき可能性を多分にもっているということがいえましょう」

出版され続け、子どもたちに愛着をもって読まれ続けていている絵本は、よい絵本の有力な条件ではある。
でも、それは絶対の条件ではない。
そうであれば、「ノンタン」シリーズ(偕成社)だって、よい絵本として紹介されているだろう。
でも、いまのところ「ノンタン」を紹介しているガイド本はみたことがない。
とすると、よい絵本とはなんなのか。

よい絵本というのは、たしかにあると思う。
でも、それを、子どもに人気があるといった理由だけではなくて――だから、児童書のガイド本はしばしば「子どものとりあい」になるのだが――納得できるようにことばにするのはとてもむつかしいことだ。



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