短編を読む その31

「ブグリマ市の司令官」(ヤロスラフ・ハシェク)
「不埒な人たち」(平凡社 2020)

革命軍事評議会により、〈わたし〉はブグリマ市の司令官に任命される。ブグリマ市がどこにあるのかもわからなければ、味方が市を確保しているのかも怪しい。旅費や生活費も支給されず、市に到着した〈わたし〉は、まず税金の取り立てを命ずる。これもまた作者の実体験をもとにしたというエピソード集。だれが敵でだれが味方なのか、さっぱりわからない。こんなときでもハシェクの筆致は悲壮感がみられない。

「犯行現場にて」(レオ・ブルース)
「レオ・ブルース短編全集」(扶桑社 2022)

自分で犯罪をおかしたくなった警部。ある事務員2人が銀行から全従業員の給料をタクシーではこぶという話を耳にした警部は、下調べを開始。いまはタクシーの運転手をしている前科者をパートナーとし、犯罪を実行にうつす機会をうかがう。

「逆向きの殺人」(レオ・ブルース)
同上

召使いの老人が亡くなったことに疑念をいだいた警部。しかし医師の診断ではまったく問題がない。3年後、今度は雇い主である老人が亡くなったが、こちらも不審なところは見当たらない。にもかかわらず、警部は老人の息子を逮捕する。

「跡形もなく」(レオ・ブルース)
同上

莫大な資産をもつ姉が失踪したと、その弟がグリーブ巡査部長に訴える。姉の面倒をみるために、弟は屋敷の一翼を空けたのだったが、引っ越してきた姉は、運転してきた車ごといなくなってしまった。本書に収められた「休暇中の仕事」と同様のアイデア。

「インヴァネスのケープ」(レオ・ブルース)
同上

ビーフ巡査部長の回顧譚。裕福な老姉妹のうち、姉のほうが殺害される。目撃した妹によれば、殺したのは同居している甥だとのこと。犯行時、甥は鳥打帽にインヴァネスのケープを着ていたというのだが、当の甥は、ケープは使用人に預け、つくろってもらっていたと話す。

「手紙」(レオ・ブルース)
同上

うっかりものの妻の過失を利用して、彼女を殺害した夫。すべてがうまくいったと思ったが、妻の不注意が原因で犯行があばかれる。

「幽霊」(オーガスト・ダーレス)
「恐怖通信」(河出書房新社 1985)

殺された女性が幽霊となり、殺した男にとりつく――と思ったら。1人称をうまくつかった作品。

「ヴェルサイユの幽霊」(フランク・アッシャー)
同上

ヴェルサイユ宮殿に観光にでかけた2人の英国人女性が、マリー・アントワネットなど、当時のひとたちの幽霊と出会う。ゴーチエの「ポンペイ夜話」のよう。

「愛しのサタデー」(マデリーン・レングル)
同上

夏、マラリアにかかった〈ぼく〉は、ある廃屋に入りこむ。そこは昔、南北戦争で戦死した大佐と、そのあとを追うように命を絶った妻が住んでいた屋敷だった。廃屋には魔女と少女がおり、魔女にマラリアを治してもらった〈ぼく〉は、彼女たちと親しくなる。

「悪魔の手下」(マレイ・ラインスター)
同上

知りあいの女性が魔法をかけられたことに責任を感じたジョーは、元魔女のばあさんの助けを借りて、魔法をかけた男を打ち倒しにいく。ジョーは、昔の少年マンガの主人公のように元気がいい。


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