松居直のすすめる50の絵本

「松居直のすすめる50の絵本」(松居直 教文館 2008)

副題は「大人のための絵本入門」。
紹介されている50の絵本は以下。

絵本の世界へようこそ
「はなをくんくん」(ルース・クラウス/文 マーク・サイモント/絵 きじまはじめ/訳 福音館書店 1967)
「もこもこもこ」(谷川俊太郎/作 元永定正/絵 文研出版 1977)
「おじさんのかさ」(佐野洋子/作 講談社 1992)
「みんなうんち」(五味太郎/作 福音館書店 1992)
「おおかみと七ひきのこやぎ」(グリム/原作 フェリクス・ホフマン/絵 せたていじ/訳 福音館書店)
「もりのなか」(マリー・ホール・エッツ/作 まさきるりこ/訳 福音館書店 1980)
「ちいさいおうち」(バージニア・リー・バートン/作 石井桃子/訳 岩波書店 1979)
「ピーターラビットのおはなし」(ビアトリクス・ポター/作 いしいももこ/訳 福音館書店 1988)
「かにむかし」(木下順二/作 清水崑/絵 岩波書店 1980)

ことばの力をはぐくむ絵本
「ととけっこう よがあけた」(こばやしえみこ/案 ましませつこ/絵 こぐま社 2005)
「ちいさなうさこちゃん」(デイック・ブルーナ/作 石井桃子/訳 福音館書店 1992)
「はけたよ はけたよ」(かんざわとしこ/文 にしまきかやこ/絵 偕成社 1979)
「わたしのワンピース」(にしまきかやこ/作 こぐま社 1969)
「わにわにのおふろ」(小風さち/文 山口マオ/絵 福音館書店 2004)
「おおきなかぶ」(A.トルストイ/再話 内田莉莎子/訳 佐藤忠良/絵 福音館書店 1995)
「まりーちゃんとひつじ」(フランソワーズ/作 与田準一/訳 岩波書店 1980)
「きかんしゃやえもん」(阿川弘之/文 岡部冬彦/絵 岩波書店 1959)

親子のぬくもりを感じる絵本
「くまのコールテンくん」(ドン=フリーマン/作 まつおかきょうこ/訳 偕成社 1990)
「ラチとらいおん」(マレーク・ベロニカ/作 とくながやすもと/訳 福音館書店 1965)
「しんせつなともだち」(方軼羣/作 君島久子/訳 村山知義/絵 福音館書店 1987)
「ちいさなねこ」(石井桃子/作 横内襄/絵 福音館書店 1979)
「とべ! ちいさいプロペラき」(小風さち/文 山本忠敬/絵 福音館書店 2000)
「どんなにきみがすきだかあててごらん」(サム・マクブラットニィ/文 アニタ・ジェラーム/絵 小川仁央/訳 評論社 1995)
「こいぬのうんち」(クォンジョンセン/文 チョンスンガク/絵 ピョンキジャ/訳 平凡社 2000) 
「かいじゅうたちのいるところ」(モーリス・センダック/作 じんぐうてるお/訳 富山房 1975)

子どもの生きる力を刺激する絵本
「おおきなおおきなおいも」(赤羽末吉/作 福音館書店 1980)
「ガオ」(田島征三/作 福音館書店 2005)
「ひとまねこざるときいろいぼうし」(H.A.レイ/文,絵 光吉夏弥/訳 岩波書店 1980)
「木はいいなあ」(ジャニス・メイ・ユードリイ/文 マーク・シーモント/絵 さいおんじさちこ/訳 偕成社 1977)
「よあけ」(ユリー・シュルヴィッツ/絵 瀬田貞二/訳 1977)
「てぶくろ」(エウゲーニー・M・ラチョフ/絵 うちだりさこ/訳 福音館書店 1965)
「ふきまんぶく」(田島征三/作 偕成社 1973)
「パパといっしょに」(イサンクォン/文 ハンビョンホ/絵 おおたけきよみ/訳 アートン 2004)

絵を読む絵本
「ブレーメンのおんがくたい」(グリム/原作 ハンス・フィッシャー/絵 せたていじ/訳 福音館書店 1980)
「あおくんときいろちゃん」(レオ・レオーニ/作 藤田圭雄/訳 至光社 1979)
「はらぺこあおむし」(エリック・カール/作 もりひさし/訳 偕成社 1976)
「おやすみなさいおつきさま」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/作 クレメント・ハード/絵 せたていじ/訳 評論社 1979)
「ゆきのひ」(エズラ=ジャック=キーツ/作 きじまはじめ/訳 偕成社 1990)
「はじめてのおつかい」(筒井頼子/作 林明子/絵 福音館書店 1977)
「スイミー」(レオ・レオニ/作 谷川俊太郎/訳 好学社 1979)
「ハルばぁちゃんの手」(山中恒/文 木下晋/絵 福音館書店 2005)

読書力をつける絵本
「あおい目のこねこ」(エゴン・マチーセン/作 せたていじ/訳 福音館書店 1980)
「ももたろう」(まついただし/文 あかばすえきち/絵 福音館書店 1980)
「3びきのくま」(トルストイ/文 バスネツォフ/絵 おがさわらとよき/訳 福音館書店 1980)
「ロバのシルベスターとまほうの小石」(ウィリアム・スタイグ/作 せたていじ/訳 2006)
「フレデリック」(レオ・レオニ/作 谷川俊太郎/訳 好学社 1980)
「こびととくつや」(グリム/原作 カトリーン・ブラント/絵 藤本朝巳/訳 平凡社 2002)
「おしいれのぼうけん」(ふるたたるひ/作 たばたせいいち/絵 童心社 1980)
「白鳥」(マーシャ・ブラウン/絵 松岡享子/訳 福音館書店 1967)
「にほんご」(安野光雅・大岡信・谷川俊太郎・松居直/共著 福音館書店 1980)

それから、巻末に、「絵本と子どものこころ」という、講演会をまとめた文章がついている。

著者の松居直さんについては、説明は不要だろう。
福音館書店の創業にたずさわった、えらいひとだ。

本書は、松居直さんが50冊の絵本を紹介した、絵本入門書。
見開きに1冊が紹介されているので読みやすいし、選ばれているのはスタンダードなものばかり。
韓国の絵本が何冊か紹介されているのが今風だろうか。
紹介文のはしばしで、社会情勢について憂いているのも、えらいひとが書いた紹介文らしい。

長年絵本づくりの現場にいたひとだけあって、ときおり触れられる裏話が興味深い。
たとえば「ちいさなうさこちゃん」の話。
作者のディック・ブルーナが、大変な手間をかけてうさこちゃんを描いているのは、よく知られている。
でも、訳者の石井桃子さんも、とても気を配って訳文をつくったのだそう。

「この絵本を生かしきる日本語訳は、石井桃子先生以外は考えられず、お願いしましたら、先生はオランダ婦人の朗読で、オランダ語の音声やひびきやリズムを耳で確かめ、その美しさ楽しさを生かした日本語訳をされました」

また、技法からみた絵本の解釈も新鮮。
「スイミー」は、文章だけ読めば、小さな者が協力して大きな者を打ち負かすという教訓話に読める。
ところが、作者がどの場面にもっとも多くのページを費やしているのかみてみると、スイミーがひとりぼっちで海を泳いでいる場面が、全体の半分以上の8場面を占めている。
そこで、松居直さんはいう。

「作者はここを語りたかったのです」

さらに、作者のレオ=レオニのことばを引用する。

「眼になったからといって、スイミーは指導者になったのではない。他人にかわってものをみることこそ、芸術家の使命なのです」

というわけで。
本書の読みかたとしては、紹介されている絵本を一度全部読んでから読んだほうが面白いと思う。
そのほうが、いろんな発見があって楽しいだろう。
50冊なんて、絵本ならあっというまに読める。
その時間は、非常に充実してものになるはずだ。


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