ケープ・フィアー

「ケープ・フィアー 恐怖の岬」(ジョン・D・マクドナルド 文芸春秋 1991)

訳は、染田屋茂(そめたや・しげる)
迫真的なカバーイラストは野中昇。
ただし、カバーのような場面は本編中にでてこない。
訳者あとがきによれば、本書はマーティン・スコセッシ監督で映画化されたさい、翻訳、出版されたとのこと。
映画ではこんなふうに、首をしめる場面があるのかもしれない。
原書は1957年刊。

本書はサスペンス。
主人公はサム・ボーデン。
弁護士をしており、美しい妻と二男一女の子どもたちに恵まれ、幸福に暮らしている。
だが、その幸福をおびやかす闖入者があらわれる。

きっかけは戦争中。
士官として海軍の船に乗りこみ、メルボルンにいたサムは、ある晩、暴漢からレイプされそうになっていた少女を助けた。
その暴漢、マックス・キャディ曹長は、ジャングルでひどい皮膚病と神経症にかかって、前線から送り返され、メルボルンの休養キャンプに収容されていた人物。
けっきょく、マックスは軍法会議にかけられ、終身労働を宣告される。

ところが、そのマックスが突如、サムのまえに。
13年間服役したのち、刑が再審理され、釈放されたマックスは、サムをさがしだし、わざわざ会いにきたのだった。

以降は、逆恨みによる復讐をしようとするマックスと、それをふせごうとするサムとの攻防。
まず、サムは知り合いの警官にマックスの身元を洗ってもらい、現在の居所を特定。
私立探偵を雇い、なにかあったら即座に逮捕できるよう、マックスを尾行してもらうことに。
それから、現在の状況を子どもたちに話してきかせる。

ところが、狡猾なマックスは尾行に気づき、探偵をまいてしまう。
そして、サムの家の飼い犬が、何者かにより毒を盛られて死んでしまうという事態に。

サムの泣きどころは、サム自身が弁護士で、法律を尊守しようとするところ。
なんとか警察にうごいてもらおうとするが、それはむずかしい。
そこで、ついに非合法な手段を決意。
さきほど尾行してまかれてしまった探偵を頼り、彼のつてで何人かのプロにマックスを痛めつけてもらうことに。

ところが、プロは逆にマックスの返り討ちに。
それでも、駆け寄ってきた警官を殴ったマックスは逮捕され、刑務所に30日の拘禁という判決がくだされる。
折りしも季節は夏で、子どもたちはサマースクールに出発。
そして、いよいよマックスが出所する日がきて…。

視点は、3人称サム視点。
そのため、なにを考えているのかわからない相手に、徐々に包囲されていくという感じがよくでている。

また、うまいと思ったのは、サムとマックスが会ってまともに会話をする場面が一度しかないこと。
その後は、会って話すことはなく、サムの対応策もさまざまな理由から失敗したりして、いよいよ悪意が迫ってくるという感じがする。
加えて、子どもたちのマックスにたいする反応が子どもらしく、それが作品にリアリティをあたえている。

それから、面白いと思ったのは、この小説は会話が非常に多い。
ストーリーの進行もほとんど会話による。
冒頭の、戦時中のサムとマックスの因果関係の話も、ほとんどサムによる妻への会話でなされる。
これは、ペーパーバック・ライターあがりの作者が身につけた技術なのかもしれない。

解説によれば、この作品は2度映画化されているとのこと。
プロットが緊密かつ一直線で、ほとんど会話で進行するこの作品は、どう撮るかを考えることに集中できる。
2度映画化されている理由は、そのあたりにあるのかも。


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