「新型インフルエンザのワクチン、どうしますか?」
「罹っても大して症状ひどくないし、
流行も下火みたいだからもういいです」
全国民に接種可能になったというのに、
そう言って接種を希望しない人たちが増えている。
パンデミックの最初のころ、「また死者が出た」、
「人工呼吸器は果たして足りるのか」と、
大騒ぎしていたのは何だったのか?
しかし新型インフルエンザと思われる感染者は
依然途切れることなく続いている。
むしろこれから気温が上がってくると
再び感染が拡大するのではないかという懸念もある。
日本でも大幅に余りそうな感じの
新型インフルエンザワクチン。
一体どうするのか…
Was the Threat of H1N1 Flu Exaggerated? H1N1 インフルエンザの脅威は誇張されていたのか?
By Eben Harrell
H1N1インフルエンザのパンデミックが発生して間もない2009年夏までに、生産間近の新しいインフルエンザワクチンの最初の数百万回分の待機者リストが作成された。当然ながらその上位にあったのは富裕国であった。「ここにもまた裕福さの優位が存在します」と World Health Organization (WHO) の Margaret Chan 事務局長は 7月14日の記者会見で述べた。「依然支払い能力の低さによって入手が拒絶される状況があります」 Chan 氏は、H1N1 を“全く新しくきわめて伝染性が高い”と表現し、世界的な H1N1 ワクチンの“供給割当量の大部分(lion's share)”を買い占めていることで当時の富裕各国に対して苦言を述べた。
6ヶ月後、Chan 氏の訓戒は先見の明があったように思われる事態となる。富裕国の備蓄は多大の余剰分となり、今多くの国々は保留となっているワクチンの注文をキャンセルし、それらを貧困国に回そうと躍起になっている。フランスは6,000万人の全国民への接種に十分量のワクチンを注文していたが、これまで500万人分しか使用しておらず、現在5,000万人分をキャンセルし数百万人分を売却することを希望している。同様に、オランダは1,900万人分の他国への売却を進めており、一方ドイツは5,000万人分の注文を半分に減じ、さらに数百万人分を売却するよう製薬会社と交渉中である。スイス、スペイン、英国もまた受け入れ済みや注文中の数百万人分のワクチンの譲渡あるいは売却を検討している。米国はこれまでに購入した2億5,100万人分のうち1億6,000万人分を国内の医師、病院、他の医療提供施設に配布しているが、それが過剰配分となっているのかどうか、また余剰分に対してどう対処するのかについて判断しかねている状態だ。
多くの国々で余剰分が生じた原因の一つに、当初保健当局が一回接種ではなく二回接種が必要であると考えており、そういった想定の下に多くの国々が契約したことがある。後になって、免疫樹立には一回接種で十分であることが明らかになったのである。しかし過剰となった主たる理由は、単純にワクチンに対する需要が当初予測されたよりはるかに少なかったということである。不要となったワクチンに各国政府が数十億ドルも支出(フランスだけで12億5,000万ドル)したという結果を受けて、誰かに責任をとらせるべきとみる政治家や保健専門家もいる。
「WHO は私たちに誤った勧告を行いました。彼らは間違った警報を発したのです」と、9月までドイツ議会にいた Wolfgang Wodarg 医師は言う。パンデミックの不適切な定義に依拠したとして国連の国際的な保健機関の責任を追及している。
同機関が今回の新しいウイルスの伝染性だけを根拠に H1N1 パンデミックを宣言し、この株の重症度を考慮に入れていなかったとWodarg 氏は指摘する。同氏はWHOを毒性の極めて低いウイルスに対して警告を発し、費用のかかる集団接種プログラムを誘導したとしてWHOを非難する。彼はストラスブールに本拠地を置く人権擁護団体・欧州評議会を代表して議会公聴会を準備を進めてきた。題して“H1N1 パンデミックの取り扱い:さらなる透明性が必要なのでは?”。この公聴会は1月26日に予定されており、WHOや各国政府の対応は H1N1 の脅威への過剰反応だったのではないかという疑問を追求することになっている。
WHOの汎発性インフルエンザに関する特別顧問で、ストラスブール公聴会への派遣団の団長となる Keiji Fukuda 氏は、インフルエンザ・パンデミックのWHOの定義は従来から伝染性を基盤としており、ウイルスの致死性とは何ら関連を考慮してこなかったと反論し、H1N1についても例外ではなかったと言う。軽症の病気だったものに対する過剰反応だったとする告発に対して、WHO としては、2009年H1N1パンデミックの宣言時点でパンデミックのその後の成り行きまで予測することはできなかったが、その後も科学的根拠に基づいた客観的でバランスのとれた情報と助言を提供してきているとの立場を崩していない、と Fukuda 氏は言う。
Fukuda 氏はさらにH1N1が弱毒なパンデミックであるという主張は誤ったものだと言う。「検査で確認されたこのウイルスによる死者は14,000人を越えており、その多くは若者で、健康な人たちでした。彼らの家族に対して、このウイルスが弱毒性であると誰が言えるでしょう?」 Fukuda 氏はこのように書いてTIMEに e-メールを送ってきた。
事実、H1N1の脅威を各国に対して適正に警告しなかったとして批評家たちが今WHOを非難しているが、それとは別のシナリオを想定してみることもできる。H1N1の感染拡大が医学的に認められているパンデミックの定義に合致すれば直ちに警告を発する義務が確かにWHO にはあったと、Hugh Pennington 氏は言う。彼は過去の公衆衛生の危機において英国政府に助言を行ってきたUniversity of Aberdeen の微生物学者である。また、このウイルスが最初に見つかったメキシコや米国からの初期の報道が致死性の高い疾患であることをほのめかしていたと彼は指摘する。ただ、学ぶべき教訓はあるとPennington 氏は言う。多くの国々におけるワクチンの余剰は、その一つの原因が各国の事前のパンデミック対策計画にあると彼は言う。2000年代中盤に導入されたそれら多くの計画は、想定されるパンデミック・ウイルスは、それまでに263人の死者を出していた極めて致死性の高いH5N1鳥インフルエンザ・ウイルスの変異型になるだろうという最悪の事態の予測に基づいていた。例えば、今回WHOがH1N1パンデミックを宣言したとき自動的に実行された英国の計画は、インフルエンザ・パンデミックによって5万人から75万人の死者を想定したものだった。しかしこれまでのところH1N1によるイギリスでの死者は400人である。
計画の一端として、多くの政府はパンデミックのさ中、ワクチンを数10億ドルの前払いで購入する協定を製薬会社との間で結んでいた。WHOがH1N1を想定されているものとして宣言したとき、各政府はこの契約に縛られ、さらに、世界中に拡大を続ける新しい致死性の可能性があるウイルスの報道がなされたことで、各政府は責任を持ってワクチンの選択を見送ることができなかった。このような状況から、各政府は、用心しすぎて失敗するのが唯一の賢明な道であると感じてしまったのかもしれない。
将来過剰供給の繰り返しを避けるため、各政府は次のインフルエンザ・パンデミックに対してウイルスの毒性に基づいた対応に幅を持たせた計画を望んでいるかもしれないとPennington 氏は言う。しかし、新興ウイルスの致死性についてのそういった評価を行うのは不可能ではないにしても予想されるよりはるかに困難である。予測不可能な新しいウイルスに対応した行動が遅れることは回避可能な死の増加を意味する可能性がある。「すべての国々はパンデミック対策の実行に柔軟性を持たせるのが望ましいことを認めています。しかしそういった柔軟性を実現するのは、特にパンデミックのような広範囲で複雑なイベントがしばしば入りくんで状況では実に困難であり、国民の期待が短期間に劇的に揺れ動く可能性があります」と Fukuda 氏は言う。
現在の富裕国におけるワクチンの過剰供給は、ワクチンを入手できない発展途上地域に当たる95ヶ国にとっては少なくとも有用となりそうだが、そのうち86ヶ国は供給を授かる援助を求めてWHOに文書を送っている。WHOはすでにそういった国々のために2億2千万人分を持っており、その備蓄分の初回分が今月モンゴル人民共和国とアゼルバイジャン共和国に到着した。こういった供給される製剤は二国間取引によって補われることになる:新聞Parisien の報告によると、例えばフランスは原価でエジプトに対して200万人分、カタールに対して30万人分を売却する計画だ。
しかし、途上国においてもワクチンの必要性は絶大ではないようである。H1N1は途上国に最も深刻な打撃を及ぼすであろうという懸念があったにもかかわらず、それらの国々でのパンデミックの広がり方は先進地域のそれと“同様のパターン(すなわち、比較的死者数が少ない)”である、と Fukuda 氏は言う。事実、特に西アフリカでは、先進地域より感染率が低いと報告する途上国もある。「現在のH1N1のウイルス株については、先進地域において健康上の優先度が高くなっています」と、HIV、結核、あるいはマラリアなどの疾患を引き合いに出して、ロンドン大学衛生学・熱帯医学伝染病政策グループの Sandra Mounier-Jack 氏は言う。
Mounier-Jack 氏のコメントは、WHO を批判するWodarg 氏や他の人たちが火曜日の公聴会で議題にしようとしている基本的な疑問と通ずるものがある。すなわち、H1N1に対処するために使われた数十億ドルは、むしろ世界的な他の衛生問題に使われるべきだったことを考えると、WHOや各国政府は自らの決断をどのように説明するだろうか?という疑問だ。
米国政府としては、依然H1N1 に対して可能な限り多くの国民に接種したい姿勢だ。これまでのところ実際にはインフルエンザの流行は楽観的ではあるものの、疾病管理予防センターの広報官 Jeff Kimond 氏は次のように言う。「我々の目下のメッセージは、国民はワクチンを受けるべきである、ということです。流行の第3 波が起こりうると我々は考えており、2億5,100万人分の備蓄量を全量使い切れるかどうかについてはまだ検討していません」
1月26日の公聴会の結果はまだわからない。
よもやWHOが腐敗しきっているなんてことは
ないと思うのだが…
一方、新型インフルエンザについては
日本ではほとんど報道されなくなり、
厚労省からも詳しい報告が聞かれなくなった。
現在どういう状況であり、今後どうなるのかを
しっかりと国民に説明し、
国としての方針を明確に示してほしいものである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます