コレステロール(最近では悪玉コレステロール)の値が
気になるあなた。
心筋梗塞や脳卒中に見舞われる危険は、
コレステロールが正常なら安心というわけではない。
一見、動脈硬化と関係なさそうな“炎症”のキーワードが
重要だったりする。
コレステロールを下げるスタチン(HMG-CoA 還元酵素阻害薬)は
画期的な薬剤で、
悪玉コレステロールと言われる LDL コレステロールを効果的に
低下させる。
この薬剤はそれ以外にも、心臓の冠動脈の閉塞(急性冠症候群)の
原因とされる血管壁にできる脂肪と炎症細胞の塊、プラークの破綻を
防ぐ効果があることが知られている。
このプラークの破綻には局所の炎症が強く関与していることが
示されており、スタチンによる炎症抑制作用がプラークの破綻を
抑えるものと考えられている。
スタチンの臨床効果を証明する大規模臨床試験の結果が
このたび報告された。
コレステロール値は正常だが、炎症の数値が高い
17,802 人の患者を二つに分け、スタチンと偽薬(プラセボ)を投与して
心血管イベント発生に差がみられるかを検討したものである。
Blood Test, Statin Afford Potent Shield, Study Says
血液検査とスタチンで得られる強力な予防効果、研究が示すあ
一見健康に見えても、心臓発作や脳卒中の高いリスクを持った人を簡単な血液検査で見つけることができ、こういった人たちに現在広く用いられている薬剤を投与することで国民の主要な死亡原因に対して効果的に予防できるという有力な証拠を、大きな期待を持って行われていた研究が明らかにした。
心血管疾患を予防する努力内容を変えるほどの知見として、コレステロールを下げる薬剤スタチンが、コレステロール値が正常であるにもかかわらずその検査に引っかかった人たちのリスクを約半分まで削減したことが、26ヶ国約180,000人で行われた研究によって示されたのである。
「見込まれる公衆衛生上のメリットは多大です」とボストンにある Brigham and Women's Hospital の Paul M Ridker 氏は言う。
彼はニュー・オーリンズで開催されているアメリカ心臓協会の学術集会(2008年11月8日~12日)でこの結果を発表した。
「心臓発作や脳卒中の予防についての考え方を現実に変えるものです」これは炎症 (inflammation) として知られている身体的反応を測定する検査で、毎年 45 万人の命を奪っている心疾患の基本的病態について徐々に受け入れられつつあった説を裏付けるものである。
「これは画期的な研究です。大きなインパクトです。間違いなくパラダイムを変えるものです」」と、この研究には未参加の Cleveland Clinic の Steven E Nissen 氏も言う。
この発表により多くの医師たちは、中年の患者に対して 20 ドルの検査を行い、炎症を日常的にスクリーニングし始め、気がかりな結果が出た人にはこの研究で用いられたスタチン、あるいはより安価なジェネリック薬品を処方し始めるようになるだろうと何人かの第一人者たちは予測する。
「これは全く新しいレベルでの予防策となります。ついこの前まで、コレステロール値が正常の患者にはスタチンを用いようとはしなかったでしょうが、今からは用いることになるでしょう」と、American College of Cardiology(米国心臓病学会)の会長である W Douglas Weaver 氏は言う。
しかし、何百万人もの健康な人たちに強い薬剤を投与することに懸念を示す専門家もいる。
「これは薬物治療の範囲を非常に拡大させることになります。自分たちが診療行為を根本的に変える前には慎重であるべきだと思います。全く安全というようなことはなにもないわけですから」」
New England Journal of Medicine で今回の論文に付随して掲載される論説を書いた Stanford University の Mark A Hlatky 氏は言う。従来の考え方によれば、心臓発作や脳卒中の発生は、高コレステロール血症が、心臓や脳へ血液を供給する動脈の壁の中に脂肪を蓄積させることによるというものだが、心臓発作や脳卒中の約半数はコレステロールが正常の患者で起こっている。
このため、どのような他の因子が関わっているのか、またどうすればこれ以上の死亡を予防できるかということについて疑問が上がっていた。Ridker 氏は言う。「こういった(コレステロール値が正常なのに心臓発作や脳卒中を起こすような)人たちをどうやって見つけ出し、発病を予防したらよいかはこれまで謎でした」
本来、感染や損傷に対する防御機能の一部である炎症が、最終的に血流を途絶させる血栓形成の引き金となるきわめて不安定な動脈壁のプラークの破裂を生ぜしめることで、重要な役割を果たしているというエビデンスが確立されてきている。
血液検査では C-reactive protein(CRP、C反応性たんぱく質)と呼ばれる血液中の物質を測定することによって炎症を感知することができる。
スタチンはこのCRPを低下させるのである。
しかしこの情報がどの程度重要で有用であるのかについては全くわかっていなかった。そこでRidker 氏らは、2003 年、コレステロール値は安全域と考えられるが血液中CRPが 2 mg/L 以上の高い数値を示す中高年の男女 17,802 人に 20 mg のスタチン製剤クレストール、あるいは偽薬であるプラセボ、のいずれかの処方を開始した。
研究者たちは当初、対象者を5年間追跡する計画を立てていたが、本研究を監視する独立した委員会は、有効性があまりに顕著であり、プラセボを内服している集団に実効薬を投与し続けないのは非倫理的であると結論したため、平均追跡期間が二年に満たない本年3月に治験を中止した。
しかし、その時点ではまだ詳細は公表されていなかった。今回、研究者たちの報告によると、プラセボ内服群にくらべ、クレストール内服群では心臓発作(MrK 註:心筋梗塞や不安定狭心症)の発生を 54 %抑制、さらに脳卒中では 48 %、閉塞冠動脈に対する血管形成術やバイパス手術の必要例は 46 %、それらのいずれかの事象では 44 %、総死亡については 20 %、減少していた。
「我々はショックを受けるとともに、元気づけられました」と Ridker 氏は言う。
数字は比較的小さい―たとえば、心臓発作の症例は、スタチン群 31 例に対して、プラセボ群 68 例であり、年 100 人あたり(一年間生存する 100 人あたり)0.37 人から 0.17 人となる程度の減少率である。
しかし、この危険度の相対的減少率は、今最も広く使われているスタチンを解析してきたこれまでの研究で見られた数字の約2倍である。
これらは女性や少数集団においても、男性において見られたものと同様な有効性があることのエビデンスを示す初めてのデータでもある。「これらは実に驚くべき結果です」と National Heart, Lung and Blood Institute(国立心肺血液研究所)所長の Elizabeth G Nabel 氏は言い、本集会で発表された二つの他の研究もCRP検査の重要性を支持していることを指摘した。
CRP検査とスタチン治療について連邦ガイドラインをどのように改訂するかを決定する前にこれらのデータを専門家たちが再検討することになるでしょうと、Nabel 氏は言う。
しかし、この結果は医師が心疾患の予防指針に重大な影響を与える可能性が高いと彼女らは話す。「これによって、炎症が心疾患の始まりと進展において重要な要因であること、さらに、コレステロール値が正常の状態においても、炎症を治療することが一定の個体にとっては極めて重要であることが立証されました」と、Nabel 氏は言う。
研究対象者の中に、肥満や高血圧などの心疾患のリスク・ファクターを有するものが含まれる一方、CRP高値以外にリスクが知られていない人たちにおいても今回の結果が当てはまった。
さらに Nissen 氏は言う。「この結果は大きく医療行為を変化させるものです。人々はCRPを測定してもらいにかかりつけ医のところへ押し寄せるでしょう。そして、もしそれが高ければ医師たちはこう言うでしょう。『お飲みになることができるお薬がありますよ』と。我々は多くの命を救い、多くのお金を節約できることになるのです」
Ridker 氏によれば、彼の共同研究者の一人は、米国で今後5年間に約 250,000 人の心臓発作、脳卒中、血管形成術、あるいは心臓発作による死亡を予防できると予測しているとのことだ。
クレストールの安全性についての懸念はあるが、この研究者たちは顕著な有害徴候は認めていない。
この研究はクレストールを製造する Astra Zeneca 社から資金提供されているが、同社はこの解析に何の圧力もかけていないと Ridker 氏は言う。
また、彼と彼の病院は高感度CRP(high-sensitivity CRP [hsCRP])検査の特許権使用料を受けているが、他の研究者たちは今回の結果を疑う理由にはならないと言っている。他のスタチンが同様の有効性を示すかどうかは証明されないままであるが、他のスタチンもCRPを下げる効果があり、有効性は小さいかもしれないが、おそらくそれらも効果を示すだろうと専門家たちは言う。
しかし、次のように主張する懐疑論者もいる。
中年層ではもともと相対的に危険度が低いことを考えると、個人レベルでの実際のリスクの低下はきわめて低い。従って何千人もの人が検査と薬剤を受け、医師の管理を受けるコストがその有益性を容易に上回ってしまう可能性がある。「既に我々は、米国において健康保険を持っていない 4,600 万人に対して保健サービスを提供するよう奮闘しているところですが、今回の結果で、ほとんどないか、あってもわずかな有益性のために医療システムから多額の金が掃き出されようとしています。我々は有効な生活様式の改善法があることを知っているわけですから」と、ハーバード大学の clinical instructor である John abramson 氏は言う。
そうはいっても、Ridker 氏らは、その有効性は明らかだと主張する。
彼は言う。「我々は多くの人たちの心臓発作、脳卒中、バイパス手術、血管形成術を予防し、多くの生命を救うことができたのです。私にとってはそれはやって良かったことなのです」
クレストールというこのお薬、
日本では通常一日 10mg までしか投与しない。
20mg は重症例に限って用いられる量なので、
日本人にこの結果がそのまま当てはまるかどうかはわからない。
人種差や食生活の差の影響もあるだろう。
しかし、これだけ顕著な有効性が報告されたとなると、
『長生きするならスタチンよ!』てな標語でも登場してくるのでは、
と、まじめに思ってしまうのだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます