夢をテーマにしたドラマ『悪夢ちゃん』(日テレ・土21時)は
なかなか面白い。
ドラマの中で、
最近劣化の著しい GACKT が『夢王子』として登場する明晰夢を、
北川景子演じる主人公の教師・武戸井彩未が心待ちにする。
MrK にはとても心地よい夢とは思えないのだが…、
それはさておき、
木村真那月演じる『悪夢ちゃん』の白髪と眼振は不気味である。
夢というのは誰もが見るに違いないが、
いまだ謎の多い研究分野である。
見る夢は必ずしも楽しいものばかりではない。
毎夜、悪夢に悩まされている人も多いだろう。
いつも誰かに狙われたり追いかけられたりしている夢だとしたら
就眠中も心休まることはないに違いない。
ま、夢の中で逃げているだけなら、
心が休まらないという問題で済みそうだが、
実際に寝床から逃げ出すことになったとしたら事は深刻である。
最近話題となった映画
“Sleepwalk With Me(スリープウォーク・ウィズ・ミー)は
そんな大変な疾患、レム睡眠行動障害が
詳細に描かれているという。
本邦での公開は今のところ未定だが、
今年初めにアメリカで行われた
実力重視のサンダンス映画祭 2012で
Next 部門観客賞を受賞した作品とのことである。
Acting out dreams while asleep 眠っている間に夢を行動に移す
映画“Sleepwalk With Me”を監督し主役も務めたコメディアンの Mike Birbiglia(マイク・バービグリア)氏は実生活でも、稀有な睡眠障害を持っている。
By Elizabeth Landau, CNN
私たちの多くは悪夢から目を覚ましベッドの中で安全であることに安堵する。しかし少数の人たちは、夢が現れた時にコントロールできないままそれを行動に移し、自分自身や他の人たちを危険にさらしてしまう。
売れないコメディアンと、彼の睡眠に関わる問題を描いた新しい映画“Sleepwalk With Me(私と夢遊病←邦題未定のため MrK 訳)”はレム睡眠行動障害と呼ばれる稀な病気に光を当てている。
この映画はドキュメンタリーではないが、主役と監督を務めた Mike Birbiglia(マイク・バービグリア)氏によると、睡眠中の危険な行動など多くのできごとは彼の実生活がもとになっているという。
Birbiglia 氏が演じる主人公 Matt Pandamiglio(マット・パンダミグリオ)は、結婚したいのかどうかわからないガールフレンドと離れてでも、どんなコメディーの仕事でも行けるところなら何百マイルでも車で行く。こういったなか、Pandamiglio は自身の夢を行動に移してしまうという劇的なエピソードを体験するようになる。
この映画は“Sleepwalk With Me”というタイトルがつけられているが、Pandamiglioは夢中歩行そのものを行うわけではなく、蹴ったり、走ったり、物の上によじ登ったり、そこから転落したりする。
ついつい医師の診察を先送りにしていたが、彼はついにレム睡眠行動障害の診断を得る。American Sleep Association によると、この疾患は全人口の1%未満に見られるという。
睡眠中に認められる行動パターンの異常は parasomnias(パラソムニア)と呼ばれる。それらの多くは睡眠不足やストレス下にあるときにもっとも起こりやすいと University of Pennsylvania の精神医学准教授 Philip Gehrman 氏は言う。
夢遊病(睡眠時遊行症)やレム睡眠異常行動はいずれもパラソムニアの一種である。夢遊病はノンレム睡眠中に起こる。これには通常、歩き回ったり、恐らくブツブツ話したりすることが含まれる。
レム睡眠は深睡眠のステージであり、正常ではその間は身体の特定の部位は一時的に麻痺した状態となる。
「脳は動かすように信号を送り出すのですが、脊髄レベルで運動ニューロンが抑制されるのです」と、Stanford University School of Medicine の教授で睡眠研究の分野の先駆者である William C. Dement 博士は言う。
しかし、レム睡眠行動異常ではその抑制が機能せず、患者は夢の中で思いを巡らすようなやり方で動かされてしまう。「それは大変危険な場合があります」と Dement 氏は言う。
レム睡眠行動障害と夢遊病は別々の疾患と定義されているが、実際にはいくらか重複があると Dement 氏は言う。
Dement 氏と Stanford medical school の准教授 Rafael Pelayo 医師は、窓から跳び出す患者は見たことはないが、窓をぶち破った人はいたと言う。
Dement 氏自身も映画“Sleepwalk With Me”に登場し、この売れないコメディアンが車の中で Dement 氏のオーディオブックを聞きつつ夢を見ているとき、隣の助手席に座っている。(これは、映画“The Matrix Reloaded(マトリックス・リローデッド)”における哲学者 Cornel West(コーネル・ウェスト)氏の登場シーンを若干彷彿とさせる。この人も超現実的な状況に登場した有名な学者である。
「最も単純な考え方でいけば、脳は、覚醒しているか、眠っているか、夢を見ているかのいずれかなのです」と Pelayo 氏は言う。「しかし脳というものは複雑であり、脳の一部が眠っている一方、同時に他の一部が覚醒しているということが起こり得るのです」
夢遊病においては、脳の理性的な領域はオフラインとなっているものの、情動的な領域は活性化しているのだと彼は言う。
レム睡眠行動障害の患者の大部分は男性であり、高い年齢層に多い傾向があると Pelayo 氏は言う。本病態からパーキンソン病が始まることがある。
34 才である Birbiglia 氏くらい若い人でレム睡眠行動障害を示すのはまれであると Pelayo 氏は言う。しかし、彼が夢遊病とレム睡眠行動障害の複合状態である可能性はあるという。
この映画では Birbiglia 氏が演じる人物がいくつかのリスクファクターを持っているように描かれている。飲酒、夜更かし、様々な状況での睡眠、ストレス下にあることなどである。
夢遊病自体は、特に小児の間では、より多く見られる。小児の30%ほどが夢中歩行を経験していることが研究で示されている。Gehrman 氏によると、ほとんどの人は思春期に入ると見られなくなるという。アメリカ人のほぼ3人に1人が生涯のどこかで夢遊病を起こすことが、5月に Neurology 誌に発表された研究で明らかにされている。
これらの異常な睡眠状態のいずれかにある人々を覚醒させるべきかどうかという点に関して、睡眠者より、それ以外の人たちにとって危険性が大きいと専門家は指摘する。これら睡眠者の脳が覚醒によって損なわれてしまうことはないが、彼らが暴力的に反応する可能性があるからである。
成人の夢中歩行は必ずしも問題ではない。軽症の場合、その現象について教育を行い、安心させることで十分であると Gehrman 氏は言う。
しかしもしその人が外に出て行き、危険な状況に陥る可能性がある場合、その人はもっとよく眠る必要があり、ストレス対策の介入を受けるべきかもしれない。
もしそれで効果がなければ、特にそれまで生涯にわたって夢中歩行が見られている人たちでは、投薬が必要となる可能性がある。
夢中歩行の患者に最初に用いられる傾向にある薬剤は、抗不安薬の clonazepam(クロナゼパム)であると Gehrman 氏は言う。それがなぜ有効であるかはわかっていないが患者をリラックスさせより深く眠らせることに効果があるようである。
クロナゼパムはレム睡眠行動障害にも処方されるが、この薬剤は睡眠時無呼吸を増悪させることがあるため高齢者には適さないことがあると Pelayo 氏は言う。ホルモンのメラトニンが有効であるとのエビデンスがある。
しかし夢中歩行の患者の中にはどの薬剤にも反応しない人がいると Gehrman 氏は言う。ドアにベルをつけるのが有用なことがある。それによって、もし彼らが寝室を出ようとした場合、彼らが覚醒するかもしれないし、あるいは少なくともベッドパートナーが目を覚ますからであると彼は言う。
極端なケースでは、夜間にベッドから抜け出せないように拘束具が必要になると Gehrman 氏は言う。つまり目が覚めている人だけがそれを外せるような方法でベッドに患者を固定するような装置である。
この映画のもう一人の自分と同じ様に、彼は薬を飲み、寝袋で眠り、寝袋を開けることができないようにミトンをつけていたと Birbiglia 氏はインタビューで述べた。
Gehrman 氏の患者には寝袋とミトンの方法を試みたものはいなかったが「時には機転が求められます」と述べた。
専門家によると、夢遊病やレム睡眠行動異常の治療を詳細に検討する研究は多くないが、それは可能な方策がほとんどの人たちに十分あるからだという。
レム睡眠行動障害における次のステップはパーキンソン病との関係を調べることであると Pelayo 氏は言う。睡眠障害がパーキンソン病のリスクファクターとなっているような患者を特定できれば、パーキンソン病が悪化する前にそういった患者を治療することが可能となるかもしれない。
レム睡眠行動障害は
1986年に米国で初めて報告された睡眠障害の一つで
一般人口の0.8%、高齢者では0.5%に認められると
推計されている。
睡眠中は通常、ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れるが、
レム睡眠は就眠後60分以上で出現し、その後約90分の
周期で繰り返す。
レム睡眠の割合は全体の10~20%ほどである。
通常人が夢を見るのはレム睡眠期だが、
正常ではこの睡眠期には脳から身体各所の筋への
信号が遮断されており動くことができなくなっている。
本疾患の患者では、何らかの異常によりこの遮断が
機能しないため夢に反応して身体を動かしてしまう。
このため症状はレム睡眠期に一致して一晩に何度も
出現することがあるが、
レム睡眠期の長くなる朝方に近いほど症状の頻度が増加し、
午前3~5時の時間帯がもっとも多く出現するという。
レム睡眠行動障害には
原因が明らかでない『特発性』と、
薬剤や他の疾病によって起こる『二次性』に分類される。
いずれのタイプも50才以上の男性に多い。
『二次性』の原因となる薬剤には、
うつ病治療薬の三環系抗うつ薬や選択的セロトニン
再取り込み阻害薬(SSRI)、パーキンソン病治療薬の
モノアミン酸化酵素阻害薬などがある。
また頭部外傷や脳炎・髄膜炎などの炎症性疾患や、
脳腫瘍、パーキンソン病、レビー小体病、
多系統萎縮症、ナルコレプシーなども
本症をひき起こすことがある。
レム睡眠行動障害の症状は軽度から重症まで様々であり、
軽い例では寝言を言ったり手足を動かしたりする程度のものから、
起き上がって歩きまわり、
自傷行為を働いたり周囲の人に危害を加えたりする
深刻な例もある。
しかし小児に多い睡眠時遊行症(夢遊病)と異なり、
レム睡眠行動障害の患者では、
周囲から呼びかけたり、刺激を加えたりすると
比較的容易に目を覚ます。
レム睡眠行動障害の根本的治療はないが、
記事中にあったようにクロナゼパム
(商品名:リボトリールまたはランドセン)が
最もよく用いられる。
約8割の患者に有効であるとされている。
しかし、副作用としてふらつきや
日中の眠気などがあるので注意が必要である。
本剤の副作用が強い人や睡眠時無呼吸症候群のある人には
脳の松果体から分泌されるホルモンであるメラトニンが
有効との報告がある。
特に、メラトニン濃度の低い高齢者には有効なようである。
また安全対策として、夜間に歩き回っても危険がないよう、
室内の障害物を片づけ、部屋に鍵をかけたり
ドアにベルをつけたりするなど、環境に配慮する。
また、暴力の危険があるケースでは、
ベッドパートナーは別の部屋で眠ることが勧められる。
また記事中に書かれていたように、
ストレスにさらされている人では
悪夢を見るリスクが高く、レム睡眠行動障害を
ひき起こしやすいと考えられているため、
認知行動療法などの精神療法が望ましいケースもある。
とにもかくにも
悪い夢を見ないことが一番のようである。
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