MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

老化脳を鍛える

2010-01-05 21:12:36 | 科学

一年の初めは若干前向きなお話から…。
年をとるごとに記憶力は落ちるし、集中力も低下する。
新しいことを始めようと思ってもなかなか身につかない。
年をとると脳の働きに関しては何一ついいことがないと
お思いのあなた。
朗報です。
脳は死ぬまで成長し続けるようです。
ただし、何も策を講じなければそれも叶いません。
既成の概念を打ち破ること、
当たり前と思っていることに対し批判的な目を持つこと。
そうすればあなたの脳は進化し続ける。
そんなお話。

1月3日付 New York Times 電子版

How to Train the Aging Brain 老化してゆく脳を鍛える方法
By Barbara Strauch

Howtotraintheagingbrain

 私は歴史物を読むのが好きである。私のリビングルームの書棚には史実の詰まったぶ厚い書籍が並んでいる。Thomas Jefferson の女奴隷長の家族について書かれた “The Hemingses of Monticello”、米国の証券会社 Bear Stearns の破綻について書かれた “House of Cards”、John D Rockefeller Sr について書かれた “Titan” などがある。
 問題は、私がこれらの書物をどれだけ楽しんだとしても、それらを読んだことを実際ほとんど覚えていないことだ。確かに要点は押さえてはいる。しかし、それらの興味深い箇所を強調することはできるものの、それ以外のことは何も心に留めていないのではないだろうか?それは癪に障ることではあるが、残念ながら中年の脳にとってはそれほどめずらしいことではないのである。忘れるのは書物だけに限らない。観た映画、食べた朝ごはん、さらには名前まで…まあ!名前とは大変なことである。あなたは誰なの?
 寿命が延びるとともに40才代から60才代後半にかけて目一杯に機能している中年の脳はまた簡単に注意散漫な状態となり得る。パスタを茹でるためにお湯を沸かし始めたが、来客の応対に出た途端、ヒューッ!てな感じで湯を沸かしているという観念すべてが消え去ってしまう。実際、年齢を重ねた脳は、たとえ中年であっても、いわゆるデフォルト・モード(怠慢モード)と呼ばれる状態に陥る。このモードの間、精神機能は道を逸れ、空想にふけり始めるのである。
 こういった状況すべてを考えると、ある疑問が生まれてくる:年をとった脳は学ぶことができるのだろうか?そして学んだことを覚えておくことができるのだろうか?言い換えれば、脳は鍛えるべきなのだろうか?
 あいにくだが、答えはイエスである。年とった脳の欠陥に焦点を当てることには心がそそられるが、そのような誘惑は、それらがどの程度能力を身につけてきているのかを見落としてしまう。過去数年間、科学者たちは、脳がどのように老化してゆくのかについてさらに詳しく研究し、中年期あるいはその後にも脳が成長し続けることを確かめている。
 脳細胞の40%が失われるということなど、これまで長く支持されてきた考え方がひっくり返されてきた。頭の中に詰まっているものは消滅してしまうことはなく、ニューロンの襞の中に隠されていただけなのかも知れない。
 これがどのように起こるかについての説明の一つが、カリフォルニア州 Pomona College の心理学教授 Deborah M Burke 氏によってなされた。Burke 博士は、何かはわかっているのにそれを思い出すことができないという瞬間、いわゆる tip-of-the-tongue times (tots)について研究していた。情報を受け取り、処理し、伝達する神経連絡が、不使用や加齢によって弱まることが一因となってそのような事象が増加することが Burke 博士の研究で示された。
 しかし、思い出そうと努力しているものに近い音があらかじめ用意されれば―たとえば、ブラッド・ピットの名前を思い出そうとしている時、チェリー・ピット(さくらんぼの種)について誰かが話しているような状況―突然忘れていた名前が心に浮かびやすくなることも彼女によって発見された。音の類似性が弱まっていた脳の連絡を再通させ得るのである。(時にはおぼろげな単語の最初の文字にたどりつくまでアルファベットを静かに一通り当てはめようとしたりもする)
 この連関はしばしば自動的に生じ、認識されないままに終了する。つい先ごろ私は石油ビジネスの歴史本である “The Prize” を読み始めた。石油精製会社のオーナーとしてのロックフェラーの昔日についての下りに達したとき、おいこれって “Titan” を読んでて既に知ってるよってことに気がついた。素材はまだ私の頭の中にあったのだ。現れるのにちょっとしたきっかけが必要なだけだったのである。
 最近、研究者たちはさらに前向きの情報を発見している。中年にさしかかると、脳は中心的な真理や全体像を認識する能力が向上するという。良い状態に保たれていれば、脳はその持ち主がパターンを認識するのに役立つ道筋を構築し続けることができ、結果として若者たちよりはるかに速く、意義や解決策までを理解することができるというのである。
秘訣は脳の連絡を良い状態に保ち、より多くを成長させる方策を見つけることである。
「脳には可塑性があり、増大するという変化ではなく、より大きな複雑性とより深い理解が備わるよう変化し続けるのです」と、大人への効果的な教育法を研究してきた St Mary's College of California の教授、Kathleen Taylor 氏は言う。「大人となれば同じくらい速く学習することは必ずしもできないかもしれませんが、次に向かう発達段階のための手筈が整えられているのです」
大人においてニューロンを正しい方向へ導く一つの方法は、若いうちに必死で積み上げてきた前提そのものの正当性を疑うことである、と教育専門家は言う。すでに十分な連絡ができた経路満載の脳を持つ大人の学習者は、自身の経路に反する考え方に対峙することでシナプスを軽く揺り動かすべきである、と66才の Taylor 博士は言う。
新しい事実を教えることを大人に対する教育の中心とするべきではない、と彼女は言う。むしろ、連続的な脳の成長と、より豊かな学習形態には、異なる人々や考え方と衝突することが必要なのかもしれない。歴史の授業においては、それは多角的な観点を読みとり、学んだことがどのように自身の世界観を変えたかについて省察することによって脳のネットワークをこじ開ける作業を意味する。
「情報のための場所というのは存在します」と、Taylor 博士は言う。「私たちは色々なことを知る必要があります。しかし、それを越えて、世界に対する私たちの認識に異議を唱える必要があるのです。常に同意見の人たちとだけ付き合い、既に知っていることに一致するものだけを読むなら、すでに確立された脳内回路と格闘することにはならないでしょう」
脳が最大限に働いているということは、まさに科学者たちが言うところの、脳の調律を最善に保っているということである。すなわち、快適帯から外に出ることで脳を後押しして育成するのである。外国語の学習から、職場に行くのに違う道を通るといったことまで、何でもすることだ。
「大人である私たちのシナプスにはよく踏みならされた道があります」と Taylor 博士は言う。「私たちは認識という卵の殻を割って、それをかき混ぜなければならないのです。そしてもしこのように何かを学び、それを省察するならば、これまでに持ちあわせたことのない複雑さという覆いを持つことになるでしょう。そして、それが同時に脳を成長させ続ける原動力となるのです」
Columbia Teachers College の Jack Mezirow 名誉教授は、彼が “disorienting dilemma” (混乱を引き起こすジレンマ)と呼ぶもの、あるいは “これまでに獲得した前提を批判的に考えさせようとする”何かが備わっていれば大人は最良に学ぶことができるということを提唱している。
Mezirow 博士は、30年前、学業に復帰した女性たちについて研究したことからこの概念を発展させた。その女性たちは、“男性では可能でも女性には不可能であるという当時の根深い彼女ら自身の認識に異議を唱える” 原動力となった多くの話し合いの後、ようやく、そういった思い切った行動に出たのである。
そのような新しい発見こそが “大人の学習に必要不可欠なもの” であると、Merirow 博士は言う。
「大人である私たちには構築された脳の経路がしっかり備わっているため、自分たちの見識を批判的に見ることが必要です」と彼は言う。「これが大人が学ぶ最善の手段なのです。それを実践してゆけば、明晰なままでいられることができるのです」 
そこで疑問に思うのだが、Thomas Jefferson について書かれた本を読むことで、私の認識の卵はかき混ぜられるのだろうか?自分が尊敬する人物に欠点を見つけようとすることで適度に混乱を引き起こすジレンマを作り出せたのだろうか?結果的に脳細胞の一つでも二つでも渇を入れ刺激を与えることになっているのだろうか?
おそらく、Jefferson が子供を持つことになる相手のあの奴隷の名前を時に思い出せないことがあろうともそんなことはどうでもいいことなのかもしれない。結局、名前など簡単にググることができるのだから。
答えは Sally なんだけど…

記事中に出てくる Burke 博士と “tots” については
以前、拙ブログで紹介した(『TOT』:2008年3月14日)。
ご参照いただきたい。
脳の回路は使わなければ錆びついてしまう。
しかし同じ回路ばかり使用していれば、
脳の成長は頭打ちとなり、むしろ機能は低下する。
既成の回路を否定することでシナプスを揺さぶりをかける
必要があるとのこと…。
口で言うのはたやすいが、ぬるま湯から脱出するには
かなりのストレスを伴うこともありだろう。
安寧と挑戦、そこには微妙なバランスを確保しておくことも
重要なのかもしれない。

コメント
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