MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

小児の脳梗塞(その1)

2010-01-26 19:35:57 | 健康・病気

小児の脳梗塞はまれであり、不明な点も多く、
治療法も確立していません。
日本では小児脳血管障害の原因として
もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)が多く、
脳卒中が疑われる小児の診断に際しては
まず本疾患を念頭に置きます。
しかし欧米ではもやもや病の頻度はきわめて低く、
従って米国では本邦以上に小児の脳血管障害は
まれであり、診断が遅れる可能性があると推察されます。
7才の息子が突然脳梗塞に倒れたニューヨークWNBCテレビの
リポーター、Jonathan Dienst 本人による報告です。

1月19日付 New York Times 電子版

Children Don't Have Strokes? Just Ask Jared 小児には脳血管障害は起こらない?Jared に訊いてほしい

Jared

緊急事態: Jared Dienst は2008年6月のある日、放課後に母親と公園に歩いて行ったが、そこで頭痛を訴えた。やがてよろめき始め、言語が不明瞭となった。

By Jonathan Dienst
 私の息子の Jared は NewYork-Presbyterian/Weill Cornell hospital のベッドの上で青白い顔をして力なく横たわっている。7才の身体には何本かのチューブやモニターのコードが繋がっている。
 神経内科医の Maurine Packard 医師は彼の左側に立った。「 Jared、私がこれから言うことをよく聞いて」と彼女が言ったのを思い起こす。そして、強い、しっかりした声で「その納屋は赤い」
 それからしばらく待った後、彼女は尋ねた。「その納屋はどんな色?」
 Jared は答えかけて固まった。Packard 医師の後ろに座っていた妻と私もまた緊張した。つい二日前まで、彼は幸せで元気な小学校2年生の愛らしい少年であり、公園で野球やバスケットボールをするのが好きだった。しかし今、彼は歩くこともできない。納屋の色を思い出すのにも苦労しなければならない状態だった。
 彼は再び答えようとした。そして、弱々しい不明瞭な声で答えた。
 「だめだ」と、Jared は言った。Packard 医師はうなずいた。まるで、それが彼女が期待していた答えだったかのように。
 2008年6月23日までは、妻の Victoria も私も小児にも脳梗塞が起こるということを聞いたこともなかった。多くの医師を含めたほとんどの人では、今もそうだろう。その後の苦しかった数ヶ月間、私たちは次の言葉を何度も聞かされることになった:「でも小児に脳梗塞が起こることなんてない」と。
 私たちはなんて無知だったのだろう。ある推計によれば、脳血管障害は幼小児の死因の6番目であることがわかっている。さらに、医師や病院にはそれをもっと積極的に診断し治療することが求められると専門家は指摘する。
 Jared の治療に深くかかわってきたChildren’s Hospital of Philadelphia の小児脳卒中プログラムの部長、Rebecca N. Ichord 医師は、片頭痛や中毒のような病態も同様の症状を来たすが、「小児の突然の神経症状の原因として、レーダースクリーンに脳血管障害を映し出すことが、第一線の医療者に求められます」と言う。

2008年6月23日 月曜日、午後3時30分: 
 暖かく、すがすがしい快晴の快適な午後だった。Victoria はマンハッタンのアッパー・イーストサイドにある第183 パブリック・スクールに Jared を迎えに行き、近くの St Catherine's Park まで一緒に歩いて行った。
 彼女は、突然、彼が頭を抱えてしゃがみ込むのを見た。彼女が広場を横切って駆けつけると彼は朦朧としていた。「お母さん、頭が痛いよ」と、彼は言った。
 彼女が最初に思いついたのは脱水症だった。彼女は彼に水を与えた。そして一分後、彼女は彼に立ちあがってみるよう促した。
 Jared はなんとか立ちあがったが、たちまち酔っ払いのジグザグ歩きのようによろめいた。彼の左足が思いのままにならないように見えた。言葉は呂律が回らず、まなざしはうつろだった。それから眼球は上方へ転じた。
 Victoria は彼を抱き上げ1ブロックほど東に走りWeill Cornell 医科大学に向かった。「目を覚まして、お願いだから目を覚まして」と彼女は呼びかけ続けた。
 言語障害、垂れ下がった左目、身体の硬直、突然の歩行障害さらには起立不能:もし成人がこれらと同じ症状で緊急室にやってきたとしたら、スタッフはこれら脳卒中の典型的症状にすぐさま気付いていただろう。しかし、この患者は7才だtった。
 「息子さんは何か毒物を食べませんでしたか?けいれんを起こしていませんでしたか?」妻はそう聞かれたことを覚えている。彼女は首を振った。彼女は私のオフィスに電話をかけた。「Jared が大変なの」
 その日病院へ向かうタクシーの中で、何を考えたらよいのかわからなかった。これから先のことに対して心の準備ができていなかったのは確かだった。
 それからの数ヶ月間、Jared は治療とリハビリテーションに向き合うことになる。今回の脳梗塞は私たち家族に精神的打撃を与えたが、それには Jared の双子の妹 Nicole、や弟の Teddy も巻き込んだ。Vick と私は周辺5州の病院をまわり最高の専門家を探した。しかし、子供の脳卒中の原因について明確な答えを得ることはできなかった。

月曜日午後5時: 
 私が到着すると小児救急はごった返していた。Jared は廊下のストレッチャーの上に横たわっていた。担当医がやってきて彼に歩いてみたいかどうか尋ねた。医師は彼が降りるのを手伝うと、Jared はよろめきながら数歩歩いた。あまりに不格好に見えたのであたかもふざけているのではないかと思ったほどだった。医師は彼をつかみ仰向けに寝せた。CTが依頼された。
 私は病院の外に出て、Jared のかかりつけの小児科医と自分の主治医に電話した。私の説明を聞いて、てんかん発作を起こした可能性があるので症状はそのうち改善するだろうと彼らは考えた。
 再び病院に入り Jared をCTに連れて行った。しばらく待った後、結果が正常であったことを告げられた。
 Jared は落ち着いているように見えたが状態は改善していなかった。担当医はもう少し様子を見てみようと言った。しかし、彼が倒れてからすでに4時間近くが経過している。もし悪くなったらどうするのか?神経内科部門へも連絡が行っていると告げられた。
 私は再び外に出て自分でその部門へ電話をかけ、緊急であることを話した。すぐさま Packard 医師が電話をかけ直してくれ、短い話し合いの結果、彼女から Jared にMRIを行うようERの医師に頼んでみると言ってくれた。
 数分も経たないうちに神経内科のフェローがやってきた。Jared は右の人差し指で鼻のてっぺんを押さえるよう言われた。彼はうまくできず左の頬を押さえてしまった。左手についても同じ動作を求められたが、ほとんど持ち上げることができなかった。
 Jared は廊下からエレベータに乗せられ移動した。それから検査室の外で待つようにいわれた。大きな音のする白い管状の機械の中にゆっくりと入れられるのが息子にとってどんなに恐ろしいことかという思いで頭は一杯だった。その検査は45分ほどかかった。検査が終わったとき、Jared が立派に検査を受けたこと、実際には検査中ほとんど眠っていたことを技師から聞かされた。
 午後11時30分、医師たちから、経過をみるために一晩入院するよう勧められた。私たちは通常の部屋に移動させられた。深夜を少し過ぎたとき、看護師が部屋に来て、こう言ったことを覚えている。「今すぐ、小児集中治療室(PICU)に彼を移動します」医師や看護師からなる小隊のような一団(Cornell の脳卒中治療チーム)が入ってきて、慌てたように眠っている息子を移動させた。
 残った医師が私たちに結果を知らせた。「あなた方の息子さんは脳梗塞です」
 私たちが PICU に到着すると、Jared はすでに多くの機械につながれていた。「脳梗塞が小脳と呼ばれる領域に起こっています」と、その医師は言った。
 私はそれを理解することができなかった。私は何度も自分に言い聞かせた。「小児に脳梗塞が起こるはずがない」頬を涙で濡らしている妻は事態の深刻さをむしろ良く理解しており、質問した。「もし彼が脳梗塞だとしたら、次の発作を防ぐために何をすべきですか?」「彼は再び歩くことはできますか?」「脳へのダメージはありますか?」
 Jared の脳梗塞は小さいが重大であり、新たな発作を防ぐために抗凝固薬の投与を始めていることをその医師から知らされた。彼にはその後多くの検査が待ち受けており、長い道のりの始まりとなることを、私たちもやがて知ることになる。

6月24日火曜日: 
 翌朝、Packard 医師と Cornell の小児神経科の部長 Barry E. Kosofsky 医師が息子の画像を見せてくれた。Jared の脳の小さな部位が損傷を受けていた。
 虚血による梗塞と考えられ、その損傷は恐らく血栓により生じたらしかった。医師たちは Jared をすぐに病院に連れてくるという妻の迅速な判断をたたえた。
 「脳は時間との戦い」脳梗塞の患者の治療に関して、医師たちがよく言うセリフである。しかし小児脳梗塞のケースでは平均的にその診断が症状発現後24時間以上経って行われていることが研究によって示されている。
 「脳梗塞では神経細胞へ酸素を供給する血流が阻害されます」 Packard 医師は後で説明を加えた。「酸素がなければ神経細胞は死んでしまいます。血流が途絶される時間が長いほど、障害は大きくなります」
 その後 Jared の治療にかかわったUCSFの Fullerton 医師も同じ意見だった。「損傷は最初の1時間だけに起こるのではありません。数日間進行するのです。治療が早ければ早いほど、損傷を軽減するのにより有利となります」と彼女は言う。
 妻と私はほとんど寝ていなかった。しかしその朝、医師たちが小児の脳梗塞の考えられる原因を列挙したとき、それを理解しようと懸命だった。Jared は心臓に穴が開いていたのだろうか?血液疾患があったのだろうか?あるいは、最近の怪我が関係している?
 2週間前、リトルリーグの試合で3塁ベースでタッチをしていて人と衝突していたのだ。ひどく転倒したが傷はないように見えた。Kosofsky 医師によれば、外傷に起因する脳梗塞が最も起こりやすい期間は3~5日目であり、2週間は考えにくいという。
 その発症期間に関して、私が思いつくのは4日前に自分のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)でドライブ中の楽しかったできごとである。Jared と弟は “High School Musical” のサウンドトラックに合わせて頭を激しく上下に動かしていたのだ。頸部を捻じることが動脈の解離(動脈内膜の亀裂)や血栓を生じる可能性があると聞かされた。もしその血栓がはがれることがあれば、それが脳に到達した可能性がある。
 Jared は頭部と頸部の詳細な画像を得るべくMR血管撮影(magnetic resonance angiography)を受けた。しかし、その結果、動脈の損傷や動脈解離の所見は認められなかった。

6月25日水曜日: 
 心臓内科医によって Jared は眠らされ、心臓をより間近に見るために喉から小さなカメラを入れた。心臓には穴は見られず、超音波検査では心臓内に血栓は認められなかった。これまでのところ血液検査も正常だった。
 米国で最高の小児集中治療室で3日目を迎えたがいまだ原因の解明は得られなかった。私はいくらか眠りをとるために家に帰った。Victoria はPICUで毎夜過ごしており、Jared のベッドにもぐりこみ彼に添い寝した。Jared は突然泣き出すこともあった。ただただ家に帰りたいと母親に訴えた。
 理学療法と作業療法が開始された。療法士たちは病院の廊下の短い散歩に Jared を連れ出した。彼らは二つのレゴのブロックをつないでみるように指示した。彼の脳を“配線し直す”のを手伝っているのだと彼らは説明した。Jared は失ってしまった機能や能力を習得し直す必要があった。
 回復には時間がかかるが、やがて Jared の脳は順応し、彼の症状は改善するだろうと、Packard、Kosofsky 両医師は私たちに言った。「脳血管障害後の小児の多くが回復に向かいます」と、Packard 医師は言う。「完全に回復する者もいますし、後遺症が残る者もいます」
 果たして彼は完全に回復するだろうか、妻と私は案じていた。
 再発に対する懸念が私たちにつきまとった。Cornell では、成人の脳梗塞やその回復率について数多くの研究が行われていると医師らは説明してくれた。しかし、小児脳梗塞については、そういったデータが極めて少なかった。高血圧や動脈硬化などの成人のリスクファクターは小児の脳梗塞では関連はなく、現在、病前は全く健康でありながらも脳梗塞を発症した多くの小児が存在する。
 小児脳血管障害の頻度は近年増加してきているが、これはよく認識され、報告されるようになったこともその要因の一つだ。Children’s Hospital of Philadelphia の専門家は、18才未満の小児における発症頻度は10万人あたり12人程度、年間約9,000件であると推定している。そして新生児においては、10万人あたり25人とされるが、この率は高齢者のそれに近い値である。

6月27日金曜日: 
 集中治療室で、Jared は改善しているように思われた。発作から4日後、彼は自力で廊下を歩いていたが、まだ少しバランスが悪かった。彼は右手で鼻を押さえることができたが、まだ左手では失敗した。
 早い時期に、彼はリハビリテーションセンターに行く必要があると医師たちは考えた。しかし自宅に帰ることを許可してくれたので私たちは安堵した。ただし、Victoria と私が常時彼を見守っているという条件付きだった。彼は毎日内服するようアスピリンを処方されたが、これを一年以上は続ける必要があった。

後半は明日に続きます。

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