或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

ワーグナー

2008-04-04 06:13:57 | 210 クラシック
村上春樹の短編集紹介シリーズの第4弾は「パン屋再襲撃」(1985年)。この短編集では彼の様々な引き出しを見ることができて読み手を飽きさせない。どれもなかなか面白かったけど一番印象に残ったのは表題作。これは短編集としては出版されていない「パン屋襲撃」(1981年)の続編。登場人物が脱日常的で飛んでるキャラという点で伊坂幸太郎と通じるものがあった。

特にウケたのが主人公と一緒にマグドナルドを襲撃するカミさん。巷の道徳的観念を見事に超越したピュアな発想が、主人公以上に弾けていて素晴らしい。彼らの会話の中に出てくるのが、前に襲撃したパン店の主人が出した交換条件の話。ワーグナーを一緒に聴いて好きになってくれたらというもの。わざとだと思うけど、実際には「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲を聴いて主人から詳細な説明を受けたはずなのに、「タンホイザ-」と「さまよえるオランダ人」の2つの序曲と思いっきり間違っている。

「ワーグナーねえ、最近聴いていないなあ」、とCDを引っ張り出して聴いてみました。といってもあの信じられないぐらい長い楽劇全部じゃないですよ。あくまで序曲や前奏曲とかハイライトだけ。実は一番のお気に入りが「トリスタンとイゾルデ」。有名な”トリスタン和音”がジャズ好きにはしっくりくる。当時は前衛的な和声とかなり批判されたらしいけど、ドビュシーとか後の作曲家に与えた影響は計り知れない。とは言っても早い話がジャズコードでいうハーフディミニッシュを取り入れただけなんだけど。

ワーグナーで思い出すのが彼を崇拝していた最後のバイエルン国王ルートヴィヒ2世。幼少期を過ごしたホーエンシュヴァンガウ城の黄色い建物が目に浮かぶ。音楽室にワーグナーが弾いたピアノが置いてあったなあ。ルートヴィヒ2世といえばルキノ・ヴィスコンティが撮った豪華絢爛の極みとも言える映画「ルードウィヒ 神々の黄昏」(1973年)が有名。うーん、爽やかな村上の小説がヘンな方向に。まあ彼を師と仰いだブルックナーもこのあいだ記事にしたし、この映画もいつかついでに・・・。

それにしてもこのシリーズは小説よりもそこから派生した話が多い。


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