或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

アフターダーク

2007-05-18 06:24:55 | 010 書籍
前回はGWに東京への行き帰りの新幹線で聴いたアルバムだったけど、今日は読んだ本の紹介。村上春樹の書き下ろし小説「アフターダーク」(2004年)。先に言っておくけど、彼はたぶん小説の題名を考えるのが好きじゃない。おそらくジャズのLPかCDが並んだ棚を眺めながらそれを探している。「中国行きのスロウ・ボート」しかり、「意味がなければスイングはない」しかり。

都会の日が暮れてから夜が明けるまでを、複数の登場人物の話をスイッチバックさせながら進めるというストーリー。舞台は渋谷。主題をあえて散漫にしてトーナリティを持たせないところに、都会の空虚さを表現したかったんじゃないかと思うけど。コピーの“真夜中から空が白むまでのあいだ、どこかでひっそりと深淵が口を開ける”というのが、その雰囲気を伝えている。

読み終わった感想は、完成度はやや低いけどバリエーションとしてはありってところ。だって傑作ばかりじゃね、といって駄作でも困るけど。ただしフランシス・レイは余分。でも投げやりで読み手をはぐらかす書き口が、彼にしてはアウトローな雰囲気があって新鮮で面白かった。

登場人物で親近感が湧いたのが高橋という学生。ヒロイン?のエリの相手役。フツー小説に出てくる楽器と言えばトランペットやサックス、ピアノ、ドラムなんかが多いのだけど、彼は地味なトロンボーン。小説のタイトルは、ハード・バップの名盤「Blues ette」の最初の曲である"Five spot after dark”からパクったんでしょうね、最初に言ったとおり。これはトロンボーン奏者カーティス・フラーのアルバム。高橋が中学生の時にLPを中古レコード屋で買い、それに感激して楽器の練習を始めたのだとか。

特に目立った盛り上がりもなく読み終えたけど、印象に残ったののは、高橋がエリに語った、「僕にはそれほどの才能はない 音楽をやるのはすごく楽しいけどさ、それでは飯は食えないよ 何かをうまくやることと、何かをクリエイトすることのあいだには、大きな違いがあるんだ」という言葉。なんか分かる。自分のことみたい。そういう思いをずっと引き摺って生きているような。

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