或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

ラッシュライフ

2006-01-20 06:20:32 | 010 書籍
今日は最近読んだ若手人気作家、伊坂幸太郎のミステリー小説「ラッシュライフ」(2002年)の紹介。興味を持ったのは、本のタイトルが私の好きなジャズのスタンダードの曲名だったから。ビリー・ストレイホーンが1949年に書いて、当時ナット・キング・コールが歌ってヒット。その後ジョン・コルトレーンの名演「Lush Life」(1957年)やジョニー・ハートマンの競演アルバム「John Coltrane & Johnny Hartman」(1963年)で更に有名に。

読み始めるといきなり、画廊経営をしている60歳で拝金主義のエロ社長、戸田が「ラッシュライフを知っているか?」「コルトレーンの名演だ。Lush Life。豊潤な人生。」なんて場面が。この時は、この作者はこの曲での言葉の意味を知らないのかなと思いましたが、物語の後半で主役?の泥棒、黒澤が「ラッシュライフという曲を知っているか?」「飲んだくれのやけっぱち人生ということらしい」という場面があって、なんだ知ってるんだと感心。いろいろな意味があるんです、この言葉には。

この曲は哀愁が漂うしっとりとしたバラードの傑作。先の2枚と同じくらいよく聴いているのが、ナット・キング・コールの娘ナタリー・コールの「Unforgettable」(1991年)。古き良き時代を偲ばせるストリングスのアレンジも極上で、聴いていると体がとろけそう。

小説の話に戻りますが、久々の面白さ。複数のストーリーが独立して進行しながら実は互いが意外なところでつながっている。でもそれだけじゃない。現代的でクールなんだけど、この若さでなんで?と思うぐらい枯れた人生観を持っている。まあジャズで、しかも通好みの渋い曲を自分の本のタイトルにするところなんかも普通じゃない。才能を感じさせました。

上の写真は挿絵にもなっているこの本の単行本の表紙。仙台で開催中の展覧会のポスターとして登場するオランダの画家M.C.エッシャーの騙し絵「Ascending and Descending」(1960年)。輪廻のサイクルだけじゃなく、絵に描かれた細かな人間までもこの本とつながっている。伝統的な様式から感じられる旧来の道理と、虚構の騙しの道理とのコントラストが素晴らしい。

ラッシュライフ 単行本
ラッシュライフ 文庫本ラッシュライフ 文庫本

Lush LifeLush Life

John Coltrane & Johnny HartmanJohn Coltrane & Johnny Hartman

Unforgettable: With LoveUnforgettable: With Love