はなバルーンblog

藤子不二雄や、好きな漫画・アニメの話がメイン(ネタバレもあるので要注意)

F全集の「絵」へのこだわり

2009-11-03 23:16:52 | 藤子不二雄
 祝日を利用して…と言うわけでもないが、藤子・F・不二雄大全集第4回配本の3冊を読み終わった。
 その中でも『ドラえもん』第3巻は、いつもながら分厚いので時間がかかった。作品は文句なしに面白いので、別に苦にはならないが。
 『ドラえもん』第3巻では、「すてきなミイちゃん」扉絵と本編5コマ目で、のび太の髪型に切れ目が入って変になっている部分は新たな発見であり、何度も読んだ話だけに不思議な感じがした。
 このような事が分かったのは、「すてきなミイちゃん」の原稿が紛失されていて掲載誌から複写したために、のび太の髪型は間違っていても初出のままで全集に掲載されたからだ。


 各巻の巻頭にも書かれているが、F全集では「原稿の所在が不明のものについては、原則として初出雑誌の誌面を複写・復刻しております」との方針で編集されている。
 これは、F全集でもっとも素直に評価できる、すばらしい方針だと思う。以前にも書いたが、てんとう虫コミックスでしばしば見られた水準以下の下手なトレス原稿が排除されたことは喜ばしい。
 てんコミでトレスで収録された話の大部分は、元はカラー原稿で、紛失されずに残っているものも多い。それがモノクロで印刷されてしまう点には問題があるが、それでも不安定でグニャグニャな線の下手くそなトレス絵よりは、F先生本来の線の方がよっぽどいい。

 また、F全集刊行にあたっては紛失原稿の複写のみならず原稿の探索も行っているようだ。藤子不二雄ランドではトレスで収録された「ドラえもんの歌」や「ツチノコさがそう」が、今回は原稿で収録されている。両方ともFFランドで描き足しがあり、トレス線と比べて余計に描き足しのコマが浮いていたが、それも今回は幾分ましになっている。
 そう言えば、FFランドでも原稿の存在しない作品がいくつか収録されていた。A先生の初期作品(『きえる快速車』『怪人二十面相』など)は雑誌からの復刻だったが、初期の刊行分は『海の王子』が雑誌復刻、『ドラえもん』がトレスと、方針が一定していなかった。
 『21エモン』の「おせっかいロボット」も線が雑で、おそらく「ドラえもんの歌」と同じ人によるトレスだろう。オナベが初登場する重要な話なのにてんコミに入っていなかったのは、原稿がなかったせいか。こちらもF全集では悪くても雑誌からの復刻で収録されるだろう。
 この手の「トレス排除」で一番楽しみなのは、『ドラえもん』第4巻収録予定の「さようなら、ドラえもん」だ。「藤子・F・不二雄の世界展」での展示原稿を見る限り、現在はトレス+描き足しコマの形でしか存在しないようなので、F全集では「夜の世界の王さまだ!」のようにトレスのコマが雑誌からの復刻になるだろう。個人的にも思い入れの強い作品なので、出来るだけきれいに復刻して欲しい。


 『21エモン』や『キテレツ大百科』など、FFランドで既に全話収録が実現している作品はいくつかあるが、「絵」の部分で改善があるのだから、F全集の刊行にはきわめて大きな意義がある。『キテレツ大百科』は全2巻が完結したが、全話収録に加えてテレビアニメ用のキャラ設定や大竹宏氏所蔵の色紙まで紹介されており、本編の「絵」からはちょっと話がずれるが、隅々までF先生の絵を網羅しようとする姿勢には、全集スタッフの本気を感じる。
 『ドラえもん』第3巻の「おかしなでんぱ」の件を残念に思う気持ちは変わらないが、絵もセリフもどちらもF先生の漫画にとっては欠かせない要素だ。そのうち、少なくとも「絵」について満足で、「全集」としてだけではなく本格的な「作品集」としても良質だと思う。
 今後も、F先生の「絵」にこだわった編集には期待したい。