実直で生真面目な宰相だった・・ 花山氏(巣鴨プリズン教誨師)
東條英機氏のお孫さんの由布子さんは、よく「祖国」という言葉を発する。
今どきはビジネスの蓄財グランドや利便性で国家を選択するむきもあるが、「祖国」の深遠なる問いかけに感応することも少なくなったようだ。
戦後「東條が悪かった」「軍閥のボス」と国民怨嗟のはけ口として「詰め腹」を切らされたように思われた東條氏だが、実のところその先が意味不明、はたまた意識外に置かれたような人物だが、昨年の参議院選挙での由布子さんの立候補で新たな印象が描かれつつある。
「語るなかれ」東條家の決まりごとだが、近頃海外からのメッセージが発せられるようになった。
とくに英国の二百年にわたる植民地を打破し、戦うことによってアジアを回復しようと連帯したインド国民軍の指導者スバス・チャンドラ・ボース、さかのぼればタゴール、中村屋のカレーで有名なビハリー・ボース、極東軍事裁判(東京裁判)の判事ラダ・ビノード・パル、彼らを輩出したベンガルからその声は高まっている。逆に他国から教えられているという状況である。
そこには感謝と激励がともなって、『知って欲しい』という海外からの内容である。
それに触発されたように国内でもその動きは各界に興り、理解不明であるが、心の片隅にあった「印象」を残像の疑問から解き起こそうとの動きがおこっている。
そこで長文だが裁判における宣誓供述書を二回に分けて掲載します。
もちろん由布子さんには「お祖父さんの記録を記す」と伝えてのことです。
≪東條秀機 彼も日本人、吾も日本人≫ 2008,6/6 当ブログに連続記載参照を請う
東條英機宣誓供述書(全文) 昭和22年12月26日提出
極東国際軍事裁判所
亜米利加合衆国其他 対 荒木貞夫其他 宣誓供述書
供述者 東條英機
自分儀我国ニ行ハルル方式ニ従ヒ宣誓ヲ為シタル上次ノ如ク供述致シマス
東條英機口述遺言 08/6再
東條英機は「12月2日~数日かかって、二つの遺言状を書いた。これを本日読み直してみたが、間違いない。これは死を直前にした者の偽りなき告白である」と告げて、これを示した。
花山師は
「検閲その他で、これらの方々の手にはいらぬこともあり得ますから、それを今読んでいただきたい。私がその要点を摘記しておいて、清瀬君その他にお告げいたしましょう」と述べた。東條大将は、用紙二十枚ほどにしたためた遺言をゆるやかに読まれた。
花山信勝師より直接聴取した内容にもその箇所があった。同席佐藤慎一郎氏
その、昭和23年12月23日午前零時の死刑執行数時間前(昭和23年12月22日夜)に、花山師の前で東條英機が朗読した遺言である。
※ 当時、巣鴨刑務所では、文書でも物件でも房内の者から外来者に直接授受することは、厳禁されていた。
〈 資料中に記されていた文章を転記〉
極東裁判判事 ラダ・ビノード・パル氏
【東條英機口述遺言】
〔思い起こせば断腸〕
開戦の時のことを思い起こすと、実に断腸の思いがある。今回の死刑は個人的には慰めらるるところもあるけれども、国内的の自分の責任は、死をもって償えるものではない。しかし国際的な犯罪としては、どこまでも無罪を主張する。力の前に屈服した。自分としては、国内的な責任を負うて、満足して刑場に行く。ただ同僚に責任を及ぼしたこと、下級者にまでも刑の及びたることは、実に残念である。
天皇陛下および国民に対しては、深くおわびする。元来、日本の軍隊は、陛下の仁慈の御志により行動すべきものであったが、一部あやまちを生じ、世界の誤解を受けたるは遺憾である。日本の軍に従軍し、倒れた人および遺家族に対しては、実に相済まぬと思っておる。
〔いま判決を批判せず〕
今回の裁判の是非に関しては、もとより歴史の批判に待つ。もしこれが永久の平和のためということであったら、もう少し大きな態度で事に望まなければならぬのではないか。この裁判は、結局は政治裁判に終った。勝者の裁判たる性質を脱却せぬ。
〔天皇の地位〕
天皇陛下の御地位および陛下の御存在は、動かすべからざるのものである。
天皇存在の形式については、あえて言わぬ。存在そのものが必要なのである。それにつきこれ言葉をさいはさむる者もあるが、これらは空気や地面のありがたさを知らぬと同様なものである。〔東亜諸民族〕
東亜の諸民族は、今回のことを忘れて、将来相協力すべきものである。東亜民族もまた他の民族と同様の権利をもつべきであって、その有色人種たることをむしろ誇りとすべきである。インドの判事には、尊敬の念を禁じ得ない。これをもって東亜民族の誇りと感じた。
今回の戦争にて、東亜民族の生存の権利が了解せられはじめたのであったら、しあわせである。列国も排他的な考えを廃して、共栄の心持ちをもって進むべきである。
市ヶ谷の軍事法廷
〔米軍に要望〕
現在の日本を事実上統治しておる米国人に対して一言するが、どうか日本の米国に対する心持ちを離れしめさざるよう願いたい。
また日本人が赤化しないように頼む。東亜民族の誠意を認識して、これと協力して行くようにしなければならぬ。実は、東亜の他民族の協力を得ることができなかったことが、今回の敗戦の原因であると考えておる。
〔アジア大陸赤化の情勢〕
こんご日本は米国より食糧その他の援助を感謝しておる。しかし、もしも一般人が自己の生活の困窮や、インフレや、食糧の不足などを米軍の日本にあるがためなりというような感想をおつようになったならば、それは危険である。実際にかかる宣伝をなしつつある者もあるのである。よって、米軍は日本人の心を失わぬように注意すべきことを希望する。
〔米国指導者の失敗〕
米国の指導者は、大きな失敗を犯した。それは、日本という赤化の防壁を破壊し去ったことである。いまや満州は赤化の根拠地である。朝鮮を二分したことは東亜の禍根である。米英はこれを救済する責任を負っておる。従って、その意味においてトルーマン大統領が再任せられたことはよかったと思う。
東條家とパル判事
〔日本の武力放棄〕
日本は米国の指導にもとづき、武力を全面的に放棄した。それは一応は賢明であるというべきである。しかし、世界が全面的に武装を排除しておらぬのに、一方的に武装をやめるということは、泥棒がまだおるのに警察をやめるようなものである。
私は、戦争を根絶するには、欲心を取り払わなければならぬと思う。現に世界各国はいずれも自国の存立や、自衛権の確保を説いている。これはお互いに欲心を放棄しておらぬ証拠である。国家から欲心を除くということは、不可能である。されば世界より戦争を除くということは不可能である。結局、自滅に陥るのであるかもわからぬが、事実はこの通りである。それゆえ、第三次世界大戦は避けることができない。
第三次世界大戦において、おもなる立場に立つものは米国およびソ連である。第二次の世界大戦において、日本とドイツが取り去られてしまった。それゆえ、米国とソ連が直接に接触することになった。米ソ二国の思想上の相違はやむを得ぬ。この見地からいうも、第三次世界大戦は避けることができぬ。
第三次世界大戦において、極東がその戦場となる。この時にあたって、米国は武力なき日本をいかにするであろうか。米国はこの武力なき日本を守る策をたてなければならぬ。これは当然の、米国の責任である。日本を属国と考えるのであったならば、また何をかいわんや。そうでなしとすれば、米国に何らかの考えがなければならぬ。
米国は、日本八千万国民の生きてゆく道を考えてくれなければならない。およそ生物としては、生きんことを欲すれば当然である。産児制限のごときは神意に反するもので、行うべきではない。
〔新たなる戦犯逮捕をやめよ〕
なお言いたきことは、最近に至るまで戦犯容疑者の逮捕をなしつつある。今や戦後三年を経ておるではないか。新たに戦犯を逮捕するとうごときは、即時にやむべきである。米国としては、日本国民が正業につくことを願い、その気持でやって行かなければならぬ。戦犯の逮捕は、我々の処刑をもって、一段落として放棄すべきである。
〔靖国神社への合祀など〕
戦死傷者、抑留者、戦災者の霊は、遺族の申し出あらば、これを靖国神社に合祀せられたし。出征地にある戦死者の墓には、保護を与えられたし。従って遺族の申し出あらば、これを内地へ返還せられたし。戦犯者の家族には、保護を十分に与えられたし。
〔青少年の保護〕
青少年の保護ということは、大事なことである。近時いかがわしき風潮は、占領軍の影響からきておるものが少なくない。この点については、わが国古来の美風をも十分考慮にいれられたし。
敵味方を含めた一大追悼会__今回の処刑を機として敵、味方、中立国の羅災者の一大追悼会を発起せられたし。もちろん、日本軍人の間違いを犯した者はあろう。これらについては衷心、謝罪する。これと同時に、無差別爆弾や原子力爆弾の投下をなしたことについて、米国側も大いに考えなければならぬ。従って、さようなことをしたことについては、米国側も大いに悔悟すべきである。
〔統帥権独立は過ち〕
最期に軍事的問題について一言するが、我が国従来の統帥権独立の思想は確かに間違っておる。あれでは陸海軍一本の行動はとれない。兵役については、徴兵制によるか、傭兵制によるか考えなければならぬ。我が国民性を考えて、再建の際に考慮すべきこと
し。
〔教育は精神教育を大いにとらなければならぬ〕
忠君愛国を基礎としてしなければならぬが、責任感はゆるがせにしてはならぬ。この点については、大いに米国に学ぶべきである。学校教育は、人としての完成を図る教育である。従前の醇朴剛健のみでは足らぬ。宗教の観念【註】を教えなければならぬ。欧米の風俗を知らせる必要もある。俘虜の観念を徹底せしめる必要がある。