NEA(全米芸術基金)が1982年に開設した「NEAジャズ・マスターズ」は、ジャズの発展に大きな貢献をした音楽家に与えられる生涯功労賞である。野球でいえば「殿堂入り」と同じ栄誉といえる。2015年度は、ジョージ・コールマン、チャールズ・ロイド、ジョー・シーガルと並んで女性ピアニスト、カーラ・ブレイが選ばれた。過去の受賞者リストを見ると、女性ミュージシャンは決して少なくはないが、その殆どが歌手で、器楽奏者はドロシー・ドネガン、マリアン・マクパートランド、秋吉敏子など数えるほどしかいない。これはつまり、ジャズの歴史の中で長らく女性の役割が限定されていた証だろう(もちろんジャズに限ったことではないが)。特にカーラが頭角を現した60年代にNYで吹き荒れた新しいジャズ革命の立役者はほぼ100%男性ミュージシャンだった。
それから半世紀経った現在、殊更に男女の別を述べ立てると、差別主義者の誹りを受けるかもしれない。しかし、それを覚悟で言わせてもらえば、NY即興シーンにはなんと魅力的な女性ミュージシャンが多いことか。数多くの素晴らしいフィメール・アーティストが最前衛で創造性を発揮している。
●NY即興シーンを彩る女たち
サラ・シェーンベック Sara Schoenbeck (bassoon)
即興界では珍しいバスーン奏者。NYの敏腕ドラマー、ハリス・アイゼンシュタットと公私ともにパートナー。
Harris Eisenstadt „Golden State“ - Music Unlimited Wels, Austria, 2014-11-07
マタナ・ロバーツ Matana Roberts (as,cl)
シカゴ生まれ。2002年からNYをベースに活動。自分のプロジェクト「Coin Coin」でストーリー性のある前衛ジャズを展開する。
Matana Roberts "Mississippi Moonchile"
キャサリン・シコラ Catherine Sikora (ts)
アイルランド生まれ。イギリスでジャズ演奏家として鍛錬しNYへ移る。やはりアイルランド出身のギタリスト、パク・ハンアルの二つのトリオ「エリス136199」「メティス9」に参加していた。
Anomic Aphasia: Han-earl Park, Catherine Sikora, Nick Didkovsky and Josh Sinton
アヴァ・メンドーサ Ava Mendoza (g)
カリフォルニア州オークランドで名を成した2013年にNYへ移る。アメリカとヨーロッパを行き来し、ダンス、劇場、映画音楽も手がける。自らのトリオ、アンナチュラル・ウェイズを率い活躍。
Unnatural Ways live at the Moers Festival in Germany (Ava Mendoza/Tim Dahl/Nick Podgurski
メアリー・ハルヴァーソン Mary Halvorson (g)
メガネがトレードマークの変態ギター女子。2002年からNYシーンで活動をはじめ、様々なミュージシャンと交流し、今やNY即興シーンの顔役と言える存在感を放つ。
Stephan Crump - Mary Halvorson "Mirrors" & "What'll I Do?" @ Cornelia Street Café 4-17-15
クリス・デイヴィス Kris Davis (p)
カナダ・ヴァンクーヴァー出身。カナダ王立音楽院でクラシックを学び、トロント大学でジャズを学ぶ。2000年奨学金でNYへ移りブルックリンをベースに即興活動。自らのグループに加え、ドラマー、テヴィン・グレイの『リラティヴ・レゾナンス』に参加。
KRIS DAVIS/CHRIS SPEED/CHRIS TORDINI/DEVIN GRAY "DOWNTIME"
イングリッド・ラウブロック Ingrid Laubrock (ss,ts)
ドイツ生まれ。2009年にNYへ移るまで、ロンドンで10年間活動していた。メインはクリス・デイヴィス、タイショーン・ソーリー(ds)とトリオ、パラドクシカル・フロッグで活動。
Ingrid Laubrock / Olie Brice / Ken Filiano - at Soup & Sound, Brooklyn
メッテ・ラスムッセン Mette Rasmussen (as)
デンマーク出身、現在ノルウェー在住だが、屢々NYを訪れセッション活動多数。最新作はベテランドラマーのクリス・コルサーノとのデュオ。
Chris Corsano & Mette Rasmussen
吉田野乃子 Nonoko Yoshida (as)
北海道出身。2006年NYへ移りジョン・ゾーンと出会い、前衛音楽に進む。即興トリオ、ペットボトル人間の他、ソロでも活動。
JGH Jazz - 2015-06-19 - Nonoko Yoshida
世の中全体が変わったことは確かだが、それ以前から伝統的に人種・国籍・年齢・性別に関係なく自由なクリエーター(創造者)が交歓することで、「今ここにある表現」を生み出してきたのがニューヨークなのである。カーラ・ブレイたちが蒔いた創造の種が、世代を超えて受け継がれてきた波乱万丈の物語を想像して、ロマンティックな気分に浸るのも悪くない。
Carla Bley trio - Utviklingssang - Cully Jazz Festival 2012
女なら
やってみようよ
創造主
Carla Bley - Festival International de Jazz de Montréal 1983