A Challenge To Fate

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【DiscReview】NY即興シーンの精鋭ベーシスト、マックス・ジョンソン率いるトリオの新作を聴く

2015年09月08日 00時30分38秒 | 素晴らしき変態音楽


『Max Johnson Trio / Something Familiar』

Fresh Sound FSNT471

Kirk Knuffke (cornet)
Max Johnson (b)
Ziv Ravitz (ds)

1. Cindoze
2. Blips and Bloops
3. Cold Blooded
4. Little Arnie
5. Les Vague
6. Hammer Song
7. Something Familiar
8. Wind Song

Recorded December 21st, 2014 at Acoustic Recording by Michael Brorby.
Mixed by Max Johnson in the peace of his home.
Mastered at Park West Studios by Jim Clouse.
Original Artwork by Victoria Salvador

Produced by Max Johnson
Executive Producer: Jordi Pujol
All compositions by Max Johnson



贅肉を削ぎ落としたハードボイルド・ジャズ

クリス・ピッツイオコス・トリオのベーシストでもある25歳のマックス・ジョンソンをリーダーとするトリオの3rdアルバム。コルネット奏者のカーク・ナフクは2005年からNYで活動をはじめ、ブッチ・モリスやラズウェル・ラッド、ウィリアム・パーカーなどとサイドメンとして60作以上のアルバムに参加し、リーダー/コ・リーダー作は15作を数える、NYCで最も忙しいミュージシャンの一人(New York Times)。イスラエル生まれのドラマー、ジヴ・ラヴィッツは2000年からNYに住み、リー・コニッツ、ジョー・ロヴァーノ、トーマス・スタンコなどと共演し、エンヤ・レコードとレコーディング・アーティストとして契約する実力派で、NYで最も求められるドラマーの一人である。

NYで最もオファーの多いベース奏者と呼ばれるマックス・ジョンソンが、同じく多忙なふたりと一緒にレギュラー・バンドとして4年間も活動を続けてきた理由は、三人のコンビネーションの深さを知れば明白である。適切にも『身近なもの(サムシング・ファミリアー)』とタイトルされた本作で、トリオの親密さと共に、長続きする秘訣が明らかにされる。

最初にベース音がさざ波を起こすと、エコーのようにコルネットが浮かび上がる。暫し語り合ううちに、ベースが一定のフレーズを奏で始める。それを合図にコルネットが声高に歌いはじめ、ドラムが細かいリズムで後を追う。三者が軽やかにステップを踏み、追いかけっこのはじまりだ。時に立ち止まって口論したり、ひとりだけ先に駆けて行ったりするが、鬼ごっこのように、立場が入れ替わり、追いつ追われつのスリルが続く。極めて自由度の高い演奏だが、フリーキーになり過ぎることなく、マックスの優れた作曲能力を最大限に活かしたプレイを繰り広げる。子供の遊びと違うのは、三人とも真剣そのものであること。食うか食われるかの真剣勝負。捕まりそうになると、いきなり別の方向に逃げて煙に巻く。そうかと思えば、もう降参と許しを乞うように切々とバラードを歌って追っ手を懐柔する。

通低するのはクールな空気感である。丁々発止の激しいインタープレイも、甘ったるいロマンティシズムもなく、過剰性を省いて淡々と繰り広げられるサウンドの疾走感は、ハードコアというよりハードボイルド・ジャズと呼びたい。ハードボイルド小説の主人公のように、冷酷なまでの精神的強靭さを持った三人は、いくら親密になろうとも決して馴れ合うことはなく、常に適度な緊張感を保つことで、バンドとしての一体性を保っているのである。

どこかの探偵の言葉ではないが、「タフでなければバンドはやって行けない」のである。そして「優しくなれなければバンドをやる資格がない」のは勿論だ。(2015年8月16日記 剛田武)



マックス・ジョンソン Max Johnson (b)
アメリカ、ニュー・ジャージー州ホボーケン生まれ。ドラム奏者/作曲家の父のもとで幼い頃から音楽を学び、10代半ばでジョン・アンダーソンやジョン・ウェットンなど有名ロック・アーティストのツアーにベーシストとして参加。2008年にジャズを志し、ヘンリー・グライムスやレジー・ワークマンなどに師事する傍ら、プロとして演奏活動、NY即興ジャズ・シーンでベーシスト/バンドリーダーとして名をなし、ブルーグラス・シーンでも引っ張りだことなる。
25歳の若さにして、数多くの有名ミュージシャンと共演し、世界的音楽フェスティバルや芸術センターに出演、サイドマンとして25作を超えるアルバムに参加。「ニューヨーク・タイムズ」「ジャズタイムス」などプレスでも高く評価され、El Intruso Internationalの評論家投票では、2012年度最優秀新人、2014年度ベーシスト部門2位、年間最優秀ミュージシャン部門4位に選出された。

主な共演ミュージシャン:John Zorn, Anthony Braxton, Muhal Richard Abrams, Candido Camero, Henry Grimes, William Parker, Butch Morris, Karl Berger, Bobby Sanabria, Sylvie Courvoisier, Erik Friedlander, Mary Halvorson, Joseph Jarman, Kenny Wollesen, Elliott Sharp, Angelica Sanchez


最新インタビュー(2015年8月15日メールにて)

Q1. アルバム・タイトルについて
MJ:アルバム・タイトルの『サムシング・ファミリアー(身近なもの)』は収録曲のひとつから取りました。私はタイトルを余り考えないようにしていますが、この曲は作曲してすぐにタイトルが頭に浮かんだのです。他の曲名を引用しようとも考えていましたが、上手く行きませんでした。このタイトルが私に身近だということでしょう。

Q2. ジャケットのアートワークについて
MJ:私のアルバムのアートワークは(『The Prisoner』を除いて)すべて、ヴィクトリア・サルヴァドールが手がけています。彼女は明確で力強いスタイルを持った素晴らしいアーティストで、いつもファンタスティックな仕事をしてくれます。どんなに複雑だろうとシンプルだろうと、彼女のアートワークを見るといつも微笑ましい気持ちになります。彼女とコラボレーション出来て幸運です。是非彼女の他のアートもチェックして下さい。見る価値有りですよ!
Victoria Salvador Official Website

Q3. トリオのメンバーとの出会いについて。
MJ:カーク・ナフクとはフェデリコ・アージのバンドで出会って、すぐに彼のサウンドとスタイルに惚れ込みました。ジヴ・ラヴィッツと会ったのは、彼がスティーヴ・スウェルとヨアヒム・バーデンホーストと一緒にインターナショナル・トリオにいた時です。素晴らしいバンドでした。私は、フリーでもグルーヴィーでも、メロディックでも破調でも、本当にダイナミックに演奏できるバンドの結成を目指していました。そのとき真っ先に頭に浮かんだのがこのふたりだったのです。それから4年余り一緒に演奏して、ずいぶん成長しました。彼らとプレイするのはいつも最高の気分です。

Q4. バンドの楽器編成について
MJ:即興演奏家に関しては、私は楽器が何かはまったく気にしません。どの演奏家も自分自身のユニークなサウンドを持っているので、誰のサウンドが他の誰のサウンドと調和して、どんな美しいものを産み出せるのか、想像しようとしています。

Q5. NY即興シーンを構成する世代について
MJ:クリス・ピッツイオコスや私よりも若い世代の演奏家もいて、18,9歳でとても旨くやっています。その一方で、80代、更に90代で未だに刺激的なプレイをする音楽家もいるのです。演奏家の共同体がどんどん大きくなって、ひとつの大家族のようになってきた現在は、即興音楽にとってとても面白い時です。クリスと一緒にプレイするのと、カール・バーガーやウォーレン・スミスと共演するのとは、学ぶものは大きく異なります。でも、そんなにも多くの驚くべき生の音楽に触れられることは、この上ない歓びです。

Q6. 今後の予定
MJ:今のところ、昨年録音した2,3のレコードのリリースに向けて作業を進めています。また、最近は室内楽用の作曲をしています。さらに、サイドマンでのいろいろな演奏活動に加えて、大編成のアンサンブルの音楽にも従事しています。忙しいけど文句はありません!


Max Johnson Official Site

Jazz Right Now - Report from New York 今ここにあるリアル・ジャズ - ニューヨークからのレポート
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