
大学時代にやっていたバンドのカセットを久々に聴いたのだが、曲調やギターがこのバンドにあまりに酷似していて驚いた。And Also The Trees(そして木々もまた/以下AATT)というバンド名の由来については何処かに書いてあったかもしれないが、今では忘却の彼方。80年代初頭に当時最先端のレコードショップWAVEのレーベルからデビュー・アルバム『沈黙の宴(And Also The Trees)』がリリースされた。ペイズリー・アンダーグラウンド(グリーン・オン・レッド、レイン・パレード)やジャーマン・ニューウェイヴ(デア・プラン、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン)、さらにレジデンツまで、先鋭的なロックをリリースしていたこのレーベルは、大手のセゾングループ/PARCOの財力を後ろ盾に様々な雑誌に広告を出していた。そのラインナップの中ではAATTは異色だったし、レビューではキュアーのローレンス・トルハーストのプロデュースということばかり取り上げられ、「もろキュア」などという不名誉な呼び方をされていた。



当時キュアーやエコー&ザ・バニーメンなどのネオサイケに痺れていた筆者にとって、WAVEでも宝島でもフールズ・メイトでもアウェーなAATTこそ、マイナー志向の自分にピッタリのバンドだと感じられたのかもしれない。最初に聴いたのは2nd EP『The Secret Sea』(1984)だった。映画の一場面のようなジャケットが素晴らしかったし、「秘密の海」というタイトルが、小学校の時好きだったアーサー・ランサムのツバメ号シリーズの小説名を思わせる(小説の原題は「Secret Water」)のも良かった。特にB面のライヴで聴けるガラスのように繊細なギターに惹かれた。感情表現過多なヴォーカルは正直言って鬱陶しかったが、それを差し引いてもこのギターは魅力的だった。
ゴーゴーズやスージー&ザ・バンシーズのコピーでスタートした自分のバンドは、徐々にパワーポップやニューウェイヴ風のオリジナル曲を作り始めた。3年目からポジティヴパンク色を強めたが、メイクをしたりゴス系衣装を着るほど凝ってはなかったので、普段着のAATTは理想のバンドに思えたのである。とはいっても他のメンバーにAATTのことを話した覚えはない。秘密の海のように、自分だけの秘密にしておきたかったのだろうか。



恋仲だったヴォーカルとベースが破局してバンドが解散した頃には、ガレージロックや60年代サイケに夢中になった所為もあり、エフェクターはワウファズ中心になり、AATT的なガラスのギターを弾くことは減っており、いつしかAATTの新譜を追うこともなくなった。

それから20数年経った今年の春、アメリカの灰野敬二非公式サイトの管理人からのメールで、AATTがまだ活動していることを知った。彼は歌詞の素晴らしさを力説していた。デビュー時からオスカー・ワイルドに喩えられ、英米で高く評価されてきた歌詞に加え、サウンドも、派手さはないが、かつてのイノセントでナーヴァスな感性に年輪を重ねて涅槃の域に達している。
⇒And Also The Trees Official Site
1979年にイングランドの西ミッドランドの田舎町で結成されて以来35年の長きにわたってひっそりと沈黙するように活動を続けてきたAATTこそ、英国ロマンティシズムの極北に位置するバンドと言えよう。少数で構わないが、この孤高の魂に共感する人が地上に存在することが、生きる為の大切な宝石のように思われるのである。
木々もまた
それでも世界が
続くなら