灰野さんの最新アルバム。原題は「Un autre chemin vers l'Ultime」フランス原盤である。
2010年6月15日から20日、フランス・ノルマンディー地方 ラ・エ・ド・ルト村の教会およびルカルパンティエの洞窟にて4,6チャンネルでの録音。一切の楽器、アンプリファイアを使用せず、生の"声”(クレジットは"エーテル"となっている)だけを収録した作品。
今まで灰野さんはヴォイス・パフォーマンスをライヴやアルバムの一部で披露して来たが、一作まるまる声だけのアルバムは初めてである。しかもライヴで展開されるサンプラーを使い幾重にも重ねられたヴォイスではなく、一発録音の生声のレコーディングは、ひとつの"作品"というよりは"記録/フィールド・レコーディング"といった意味合いの強いものである。
そしてここに収められた声ときたら!囁き声、意味不明の叫び、獰猛な動物の鳴き声、古代の原始人の発する祈りのわめき声......。完全に非音楽的な"生(せい)"の揺らめきが収録された71分。かなりの灰野ファンでも聴き通すには相当の覚悟がいるだろう。ここまで赤裸々に自らの生身の魂を露にしたのは初めてではなかろうか。
声だけによる作品としてはイタリアのロック・グループ、アレアのヴォーカリスト、ディメトリオ・ストラトスのソロ作品が記憶に蘇るが、灰野さんのこの作品はその精神性においてストラトスの作品とは位相を異にするものである。まさに唯一無二の灰野ワールドの展開といえるであろう。
タイトル通り「もう一つの」神への道。神に至る道は一つだけでは無いのである。この人の声には異界の精霊が宿っている。
声の持つ
力に心
奪われて
復刊した雑誌「elle-king」に灰野さんの最新インタビューが掲載されているので一読をお勧めしたい。灰野イズム炸裂の壮絶な内容である。