60315062 \2080
カルク=エーレルト:無伴奏サクソフォンのための25のカプリースとソナタ
無伴奏サクソフォンのための25のカプリース
無伴奏アルト・サクソフォンのための無調のソナタ
クリスティアン・ペータース(Sax)
録音:2007年11月&2008年1月 マリエンミュンスター修道院
ジークフリート・カルク=エーレルト(1877-1933)は、生涯も作品も多くが謎に包ま
れています。父親は書籍商兼ジャーナリストで、ジークフリートはその12番目の子と
して生まれましたが、家は貧しく、兄弟のうち4人は1歳にならずして世を去りまし
た。ジークフリートが生まれ時に父親は54歳で、その12年後に亡くなりました。
ジークフリートは作曲家兼オルガニストとして少しずつ知名度を上げ、特に彼のオ
ルガン曲はアメリカ、イギリス、フランスで人気を博しました。第一次大戦中の1915
年夏に志願して従軍。冬には軍楽隊に配属替えになり、ここでドレスデン・シュタ
ーツカペレの楽団員数人に出会い、刺激を受けたジークフリートは室内楽作品を相
次いで作曲しました。ここに収められた作品は、そうした「室内楽の時代」の最後
にあたる1929年の作品。しかし、一体誰のために書いたのか、生前に演奏されたの
かどうかもわかっていません。当CDの演奏者クリスティアン・ペータース(1964年生
まれ)は自筆のライナーで作曲家自身が演奏するために書いたのではないかと言って
います。
「カプリース」は、曲に応じてソプラノ、アルト、テナー、バリトンという4種類の
サックスを使い分け、サックスのあらゆる音域と技法に習熟するために書かれてい
ます。「テクニックと表現法の新境地を開くための高度な練習を主な目的として」
という作曲家自身の巻頭言があるため、練習用の作品と誤解されて来ましたが、ペ
ータースは多彩で豊かな音楽表現の可能性を見出して録音に取り組みました。
25曲それぞれには、バロック風のプレリュードやクーラントにシャコンヌ、より古
い時代のフリギア旋法やミクソリディア旋法、当時の新しい音楽であるラグやクバ
ーナ(キューバ風)、タンゲット(小さなタンゴ)、またコンメディア・デラルテを思
わせるアルレッキーノ、タランテラとシチリアーノといったタイトルが付いていま
す。カプリースと対になったソナタは「無調で」と書かれていますが、「調を壊し
た」という攻撃的・前衛的な趣はなく、「調性をはみ出してしまった」という感じ。
新しい流れであったモダニズムと自分自身のロマンティックなメンタリティとの相
克に苦慮した作曲家ならではの真摯で聴きごたえある作品です。
94615146(SACD-Hybrid) \2950
トゥルヌミール:オルガン作品集(即興演奏集)
5つの即興(テ・デウム、即興風の小さなラプソディ、めでだし海の星、
即興的なカンティレーヌ、過ぎ越しの生贄を讃えて)
自由な様式による10の小品
交響的な小品 作品16*
アダージョ 作品19の1*
*=世界初録音
アンドレアス・ジーリング(ベルリン大聖堂の座ザウアー・オルガン)
トビアス・ブロマン指揮、ベルリン大聖堂聖歌隊スコラ(グレゴリオ聖歌)
シャルル・トゥルヌミール(1870-1939)はヴィドールとフランクに師事し、1898年か
ら1939年に亡くなるまで、パリのサント・クロティルド教会のオルガニストを務め
ました。オルガン曲はもとより、室内楽、歌曲、更には大管弦楽のための交響曲が
8曲も残されています。フランクに影響を受けたトゥルヌミールの初期作品はいかに
もロマンティックなものですが、後には神秘主義への傾斜を強めます。トゥルヌミ
ールにとって音楽とは神の栄光をたたえ、教会の活動に奉仕すべきものとなり、そ
れ以外の音楽は堕落に他ならず、彼の考えに与しない世の中の作曲家たちは敵であ
ると公言し、攻撃したようです。1939年秋の諸聖人の日に行き先を告げずに外出し
たトゥルヌミールは、その三日後に海辺で遺体となって発見されました。
トゥルヌミール自身は優れた即興演奏家であり、彼の後期作品には、グレゴリオ聖
歌をモチーフにしつつ、従来の和声や展開の規則を超越した即興的な高揚によって
神への讃美を高らかに奏で、聴く者を(おそらくそれ以上に弾く者を)恍惚と法悦の
境地に導こうとするものが多く見られます。このためトゥルヌミールを19世紀ロマ
ン主義から20世紀音楽への、フランクからメシアンへの過渡期的な存在と見なされ
てきましたが、今日ではその独自性が認められつつあります。
このCDの核心である「5つの即興」は、1930年から31年にかけてトゥルヌミールが行
なった即興演奏のレコード録音をデュリュフレが採譜し、1958年に出版したもので
す。「テ・デウム」「めでたし海の星」「過ぎ越しの生贄を讃えて」では、グレゴ
リオ聖歌の定旋律を聖歌隊が歌った後で「即興」を演奏しています。これによって
定旋律の目もくらむような変容がより強く印象づけられることでしょう。他の小品
は、初期のフランク的でロマンティックな作風ですが、それでもトゥルヌミールら
しい響きが時折顔を出します。
録音が行なわれたベルリン大聖堂(ドーム)は観光名所として名高い場所。1905年に
建設された最高部114mの天蓋は第二次世界大戦末期の爆撃で焼け落ち、現在の姿に
再建されたのは実に1993年のことでしたが、裏手の運河側の壁には今も弾痕が残っ
ています。大聖堂の建設に合わせて1905年にヴィルヘルム・ザウアーが作ったオル
ガンは4段の手鍵盤を持つ壮大なもので、ドイツで最大のオルガンです。演奏者のジ
ーリングは2005年からベルリン大聖堂のオルガニストを務めており、広壮な空間ゆ
えの非常に長い残響にうまく対処しながら、トゥルヌミールの色彩と躍動感を伝え
ています。
MD+Gの2+2+2は、左右の広がり、前後方向の広がり(奥行き)に加えて高さ方向の広が
りも捉えようとするアプローチ。この録音の異様なほどの空間の広さはステレオ再
生でも感じられますが、その真価はできればSACDマルチ・チャンネルで味わって頂
きたいところ。そんな訳でか、通常2ヴァージョンでの発売のところ、今回はSACD
ハイブリッドのみの発売です。
3123442 \2080
ロイプケ:
ピアノ・ソナタ 変ロ短調
オルガン・ソナタ ハ短調 「詩篇第94番」
再発売
クラウディウス・タンスキ(Pf)
マーティン・ザンダー(アルテンベルグ大聖堂のクライス・オルガン)
録音:1988年4月、ブラウンシュヴァイク・シュタートハレ、アルテンベルク大聖堂
夭折したリストの愛弟子、その真価を明かした名盤復活。
ユリウス・ロイプケ(1834-1858)の没後150周年を記念した再発売。オリジナルは
1988年にNDRが制作したロイプケのドキュメンタリー番組のために録音されたもの。
当時はほとんど知る人の無かったロイプケの代表作2曲を収め、「真価を明かした」
「リファレンスとなる演奏」と世界中で賞賛されました。もちろん、その価値は今
も変わりません。
ロイプケはオルガン製作家の父を持ち、早くから才能を発揮。名指揮者ハンス・フォ
ン・ビューローの推薦でリストに弟子入りしましたが、24歳の若さで急逝しました。
リストがロイプケに父に宛てて哀惜の念に満ちた手紙を送ったことが知られていま
す。ここに収められた2曲は、死の前年である1857年に作曲されたもの。ロイプケ
23歳の年の作です。いずれもリストの影響が顕著で、特にピアノ・ソナタはリスト
のピアノ・ソナタ ロ短調を即座に連想させます。オルガン・ソナタは詩篇第94番に
基づいたものですが、ヴィルトゥオーゾ風のパッセージの激しさは類を見ません。
後者は、オルガン・コンクールの課題曲の定番ですが、この録音によって、プロの
コンサート・オルガニストが堂々と取り組むべきものであることが明らかになった
のでした。
ゴールドカラー・ディスク仕様。
<Arion>
ARN 68785 \2180
CODEX CAIONI(カイオーニ写本)
作曲者不詳: Lepus Intra Sata Quiescit N°233-78-336
ミヒャエル・プレトリウス(1571-1621):Kovacs Nota Schmidt Curranta, N°146
ジャコモ・カリッシミ(1605-1674):Audite Sancti, N°308
作曲者不詳:
Otodik Tancs Hatodon, Apor Lazar Tancza, Paikos Tancs, N°255-266-251
作曲者不詳: Judea et Jerusalem, N°183
ヨハンネス・カイオーニ: O Anima mea Suspira, N°311
作曲者不詳: Misericordias, Duo Vioneli, N°352
作曲者不詳: Salve Regina, N°64
作曲者不詳: Czardas, Tradition de Mezosegi
作曲者不詳: Iratus Sum, N°317
ガスパロ・カサティ:Dialogus, N°290
作曲者不詳: Czardas, Tradition de Satu Mare - Szattiari
ヨハンネス・カイオーニ: O Quales Flores, N°313
作曲者不詳: Sarabanda Gesneri, N°343
作曲者不詳: Sarabanda 2 Violinis, N°346
作曲者不詳: Lupul Vaidane Eneke, N°264
作曲者不詳:
Ricercare del secondo tuono, Luzzasco Luzzaschi in ""Il Transilvano""
作曲者不詳: Pargamasca, Codex Vietoris / M. Ucellini
シリル・ゲルステンハーバー(S)、アドリアーナ・エプスタイン(Ms)、
セバスティエン・オブレヒト(T)、イアン・ディミエール(Br)
XVIII-21 ル・バロック・ノマドゥ
指揮:ジャン・クリストフ・フリッシュ
2006年、中世にアジアを旅した作曲家ヴァッレの作品を集めた‘Pellegrino’
(ARN68716)でArionデビューした、フリッシュ&XVIII-21による第2弾。今回も、学
究的な意味でも非常に価値あるこだわりのリリースです。
カイオーニ写本とは、ルーマニア(トランシルヴァニア)のバロック期の音楽家、ヨ
ハンネス・カイオーニ[Johannes Caioni; Ioan Caianu; Kajoni Janos]が所有して
いた中世音楽の古い手稿のことです。そもそもカイオーニは、音楽家というよりも、
神学者として宗教音楽を研究したり、オルガンの製造に携わったり、楽譜の出版や
印刷までも手がけた人です。1687年、死を迎えた時には、ラザレアのフランシスコ
派修道院の院長でした。日本での知名度はいまひとつですが、キリスト教国では音
楽家ということと別に、大変良く知られた人物です。
それでも、カイオーニの存在によって、初めてヨーロッパがトランシルヴァニアの
音楽に注目することとなり、その後各地の作曲家に多大な影響を与えたことも事実。
この人の出現は、西欧音楽のひとつの大きな分岐点とだったといっても過言であり
ません。
因みに、ジャケットのうさぎの絵は、修道士でもあったカイオーニのフィールド・
ワークに基づいた功績を讃え「野うさぎのような芸術家」と評されていたことに起
因していると思われます。
今回、このアルバムは、フリッシュが写本の中から特に「ルーマニアの結婚式」を
イメージさせる作品を選び編纂されています。
このリリースに併せフリッシュ&XVIII-21は「カイオーニ写本」でヨーロッパ・ツ
アーを行います。この写本の故郷、ルーマニアをはじめ、ヨーロッパ各地で行われ
るコンサートは、さながらカイオーニの功績を辿る旅のようです。
●French Esprit Collection
次々に興味深いアルバムの復刻がリリースになる注目シリーズ。今回もとびきりの
2タイトルのご紹介です。
ARN 63758 \2180
ジョゼフ・ボダン・ド・ボワモルティエ:
(通奏低音無しの)2本のフルートのための作品集
5つの組曲 ト長調 Pb 382 作品27
ソナタ 第5番 ロ短調 Pb 263 作品8
第二ソナタ ニ長調 Pb 367 作品25
第五ソナタ ホ短調 Pb 398 作品29
組曲 第2番 ト長調 Pb 314 作品17
ソナタ 第2番 ホ短調 Pb 260 作品8
第三ソナタ ト長調 Pb 489 作品47
ステファン・ペロー&ベンジャミン・ガスポン(Fl)
ボワモルティエはラモーと並び立つフランス・バロック全盛期の作曲家。驚くべき
多作家で、その点を揶揄する評論家もあったとのことですが、「お陰で儲けさせて
頂いております。」と切り替えしたとのエピソードまで残っています。その言葉は
嘘ではなく、当時としては珍しくパトロン無しに作曲活動を行い、作品の出版だけ
で生計が成り立っていた完全フリーランスの作曲家でもありました。
この録音は、オリジナルはピエール・ヴェラニー(PV700023)のもので、録音当時は
全編世界初録音(なんせ超多作家だったので、未だに世界唯一の録音である作品も相
当数あると思われます。)、発売年には多数の賞を総なめにした名盤です。
ARN 63755 \2180
ドビュッシー:ピアノ作品集 Vol.4
バレエ音楽「カンマ」
練習曲(初稿版) 「アルペジオのための」
カンタータ「放蕩息子」からプレリュード
ボヘミア舞曲
スケッチブックから
ハイドンへのオマージュ
練習曲「六度のための」「八本の指のための」
前奏曲集 第1巻
伊藤隆之(Pf)
数あるドビュッシー:ピアノ曲集の中でも非常にレアな選曲!伊藤隆之こだわりの
ドビュッシー曲集第4巻。
復刻が待望視されていた伊藤隆之のドビュッシー:ピアノ作品集第4巻。少々ややこ
しいですが、第1巻と第2巻はいまだピエール・ヴェラニーの現役盤(PV797113と
PV730112)で、第3巻はすでにArion名義、同じ「フレンチ・エスプリ・コレクション」
(ARN63613)として発売されています。
この第4巻は、ピアノ譜のみが残されたバレエ音楽「カンマ」(オケ版はケクランに
よる)やローマ対象受賞作「放蕩息子」のピアノ・ヴァージョンといった、通常のド
ビュッシー・ピアノ曲集には入らない舞台作品が収められたアルバムで、新録発売
当初は世界初録音として注目を浴びたものです。そんなことからかArionはこのアル
バムに「作曲家とピアニストの共犯」などという(まことにフランス的な)キャッチ
コピーをつけたりしていました。また、‘アルペジオのための練習曲’はジルメー
ヌ・ムニエ女史によって改訂された初稿版が収められています。