ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『やさしくキスをして』

2005-04-18 20:38:31 | 新作映画
「危険や不確かさの感覚というのはすぐれて創造的になりうる」
------いきなり難しいこと言うニャア。これ受け売りでしょ?
「うん、こんなこと僕が言うはずはないね(笑)。
これはこの映画の監督ケン・ローチの言葉なんだ。
映画を観ている間からとにかく感情を激しく揺り動かされる。
その理由って何なんだろうと考えたら、
一見、自分の身には起こりそうにないこと、
でももしかしたら明日にも起こるかもしれないことを
素人、あるいは無名に近い俳優を使うことで
自然体で描いているという点にあるんではないかと....」

-----具体的に喋ってよ。
「じゃあ、いつもの通りに、まずは物語を。
主人公はカソリックの高校で音楽を教えているロシーン、
そしてパキスタン移民でクラブのDJをやっているカシム。
カシムの妹タハラがイスラムの多様性をクラスで語り、
白人の男子生徒にからかわれたことがきっかけで
ふたりは出会い、ほどなく愛が芽生える。
ところがカシムの両親は敬虔なイスラム教徒。
子供たちの結婚相手にも当然イスラム教徒をと決めている。
そんなこととはつゆ知らないロシーンはカシムをスペイン旅行に誘う。
そこでふたりが情熱的な愛を交わした後、
カシムは自分に婚約者がいることを初めて告げる」

-----ひどい話だニャア。婚約者がいるなんてのはその前に言わなきゃ。
「そうなんだよね。ロシーンもそれを冗談としか思わない。
まさか、いまごろになって....というわけだ。
そのときのセリフが『なぜ、もっと早く言わなかったの』。
ケン・ローチの言う“ 危険”と言うのは、
つまりこういうことなんじゃないかと思う。
ある人(カシム)にとってはリアルなことも
他の人(ロシーン)にとっては非リアルである....と。
この映画では、なにも特別なことが起こっているわけじゃない。
でも、それぞれが属する社会特有の価値観に基づいた行動が、
一つの事件を生み、相手を傷つけてゆく。
この“不確かさの感覚”が観る者の感情を揺り動かしてる、
そういう気がするんだ」

-----分かったような、分からないような???
「ケン・ローチは、時系列に添って撮影。
撮影中もお互い顔をあわせないようにさせられていたらしい」

-----ちょっと前に話に出たマイク・リーみたいだ。
「よく覚えているね。
しかし、この映画の方がテーマは多岐にわたっている。
そのひとつに宗教の壁、そして偏見がもたらす悲劇があるわけだけど、
これにしてもイスラムの方だけが閉鎖的という風には描いてはいない。
たとえばロシーンがカシムとつきあっていることを、
地区教会の神父に恫喝されるシーンは凄まじい。
ほとんど、狂気としか見えない」

-----恫喝?
「そう。ラシーンは一度結婚に失敗しているわけだけど、
カソリックはまず、この<離婚>というヤツを認めない。
夫婦は神によって結ばれている。
離婚は神との誓いを断つと言うわけだね。
ましてや異教徒と一緒に暮らすなんて...。
だったら無宗派の学校へ行ってくださいというわけだ。
カソリックの学校で仕事を続けるには、
この神父の資格証明書がいるらしい。
いやあ、驚いたね」

-----イスラムの方はどうなの?
「こちらも息子が異教徒と結婚することで、
周囲から後ろ指さされて、家族が辛い目にあってしまう。
それがきっかけでカシムの姉ルクサナの結婚も危機に陥る。
そこで家族がある強硬手段に。
ここが後半最大のクライマックスだね」

-----でも、さっき、だれにでも起こりうる
と言ってたけど、こんなこと普通ないよ。
「いや、そうじゃないだろう。
人間である限り、だれがだれと恋に落ちるか、一寸先は分からない。
それがこの映画の場合、たまたま宗教が違ったと言うこと。
あっ、フォーンは猫だから分からないか?」

-----mmmmmm
   (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「タイトルのイメージと違うニャ」ぱっちり

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