ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『ヴェラ・ドレイク』

2005-03-24 22:54:22 | 新作映画
-----この映画、みんな「重い、重い」って言うよね。
「タイトルロールのヴェラ・ドレイクは、
人助けと信じて堕胎を行っている女性。
これでは映画が明るくなるはずはない。
でも、監督のマイク・リーはその問題の是非を問うよりより
“家族”の絆、信頼にスポットを当てている気がしたな」

-----マイク・リーって、即興的演出で知られる監督だよね。
「うん。この映画はその効果が実によく出ている。
そのことを分りやすく説明するために、
まずはいつものように物語をかいつまんで話そう。
1950年ロンドン。労働者階級の人たちが住む界隈で
ヴェラ・ドレイクは、体の悪い隣人たちを訪ねて身の回りの世話をしている。
彼女のほがらかな笑顔は、
夫スタンや息子シド、娘エセルを幸福感に浸らせる。
ところが、そんなヴェラにはある<秘密>があった。
そう、彼女は望まない妊娠をしてしまった女性たちに
堕胎の手助けをしていたのだった…」

-----それって、人間の世界では罪なことにゃの?
「免許がないんだもの、もちろんだよ」
-----じゃあ、お医者さんにかかればいいじゃない?
「いや。当時のイギリスの法律では
妊娠が母胎の命を危険にさらすという医師の判断がない限り、
中絶は認められていなかったんだ。
しかも、その費用はばか高く、庶民にはとても支払えなかったんだ」

-----ということは、これによって
ヴェラ・ドレイクが得る報酬は少ないってこと?
「いやいや。少ないどころか彼女は全く報酬を貰っていない。
なのに、手術の仲介をしていたヴェラの幼なじみの女性が
勝手に斡旋料を貰ってたりするんだけどね。
.....と、このエピソードに代表されるように、
この映画は、ほかにもいろいろなエピソードを見せてくれる。
高額な費用を正規に支払う裕福な家の娘の話もそのひとつ。
それぞれの生活環境の違いが見事に描きわけられ、
“階級”と言う言葉を思い起こさずにはいられなかったね」

-----で、このお話はその後どうなっていくの?
「クライマックスとなるのは
ヴェラの娘と、彼女にプロポーズしたレジーのお祝いの席。
その日は、夫の弟フランク夫婦も自分たちに子供ができたことを発表。
一家は二重の喜びに包まれる。
しかし、そこへヴェラ・ドレイクを逮捕するべく警察が…」

-----うわあキツイにゃあ。
「マイク・リーは事前にキャストに脚本を渡さず、
本人が演じる役柄だけを知らせるという演出法を取る作家。
ここでは、ヴェラ・ドレイクを演じるイメルダ・スタウントンは、
警察がやって来ることを知らず、
また、家族を演じるほかの俳優たちは、
彼女が堕胎の“手助け”をしていたことを知らなかったわけだ。
リハーサルで各自が受けたショックは想像にあまりあるよね。
でもこれにより、俳優としての感情が役の上の人物の感情と重なり
これ以上望めないリアルな演技が引き出されてゆく」

------ううむ。即興にはそういう意味があったのか。
フォーンが思ってた一発勝負の即興とは意味が違ってた。
「だって、それじゃカメラ位置も決められないだろ。
俳優はプロ。役になりきった自分が受けた衝撃を、
また役に反映させてていくわけだ。
このシーンのイメルダ・スタウントンの表情の変化は
従来の演技の範疇を超えている」

-----ふうむ、と言うほかないにゃ。
「以後、映画は『間違われた男』を思い起こさせるサスペンス・タッチも加わり、
エンターテイメントとしても見せてくれる。
まさに、これぞ名画。
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、最優秀女優賞のW受賞も納得だ」

      (byえいwithフォーン)

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