西澤保彦著"夏の夜会"を読みました。
主題は人の記憶は不思議なものだというものです。
よく最近のことは思い出せないのに子供のころのことは
鮮明に覚えているといいますね。
あれ聞いて本当なのかと疑問に思っていました。
だって私は子供のころの記憶だってはっきりとは
しません。
鮮明に覚えているという人のほうがめずらしいのでは
ないかという気がします。
不安定な気分にさせられる話です。
この本は小学生の時に起こったことを同級生の結婚式に
集まった5人が二次会、三次会で話し合うというものです。
小学4年の夏休みの出来事の話が出ます。
彼らの担任教師の井口はエキセントリックな人物です。
なんの落ち度もないのに生徒達に怒鳴り散らし定規で
殴りつけます。
生徒たちは萎縮して自分達が悪いのだと思わせられています。
学校は建て替え工事中でそのクラスだけが旧校舎を
使っています。
夏休みのプール開放日に彼らの古い教室で女性が
亡くなりました。
担任は2学期から変わりました。
彼らは井口が殺されたのだと思い込んでいました。
この教室で井口が男性と会っていた、女性と会っていた
のを見たという話が出てきます。
2人が帰り3人となります。
そのうちの一人が井口の娘と結婚していると打ち明けます。
そして井口が生きていていっしょに里帰りしていてホテルの
部屋にいるといいます。
殺されたのは井口ではありませんでした。
早紀が持ってきた卒業アルバムに挟まれていた男女の
写真を井口に見せたら枷場雪江という教師で亡くなった
といいます。
では殺されたのは枷場だったのかということになります。
最後まで残って会話を続けたのは早紀と見元です。
二人には深いつながりがあります。
鬼無という男の子を1年からいじめてきました。
鬼無が自殺をはかろうとするほど追い詰めてしまいますが
彼らはすっかり忘れています。
早紀がリーダーシップをとり見元は彼女に同調することに
喜びを見出していました。
二人は夜を徹して昔のことを思い出そうとします。
やがて枷場という教師も亡くなっていなくて今は校長
になっていることを知ります。
枷場は井口とは反対に他の教師からかわいがられ
大事にされていました。
井口は枷場に憎悪を抱いていました。
実際に亡くなったのは同級生の母親だとわかります。
二人はやがて女性を死なせたのは自分たちでは
なかったのかと思い始めます。
二人はやっとこうだったのに違いないという結論に
思い至ります。
読み初めのころはいくらなんでもこれほど覚えていない
ということはないでしょうと思いました。
語られているすべてのことは彼らの妄想ではないのかと
いう感じがしてきました。
すべてが夢だった、と終了するのではないかと想像して
しまいました。
実際に人は亡くなっており、そこまでの妄想では
ありませんでした。
別の記憶に置き換えてしまったり、すっかり忘れ去ったりと
人の記憶とはあいまいなものですね。
二人とも過去のことを忘れていたのに掘り起こして
しまいました。
思い出しても彼らはまた忘却の中に過去を埋めるのでは
ないかと思います。
こんどは意識して。
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