学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

岸田首相とキリスト教の無関係

2022-01-11 | 斎藤幸平『人新世の「資本論」』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2022年 1月11日(火)13時30分57秒

>筆綾丸さん
>つまらぬ大河ドラマになるんじゃないか

『真田丸』も最初はあまり評判が良くなかったそうですから、もう少し展開を見たいと思っています。
ところで、週刊ポストの記事で、正確性には保証はありませんが、

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 実は、日本の首相には意外にクリスチャンが多い。判明しているだけでも、戦前では原敬、戦後では吉田茂、片山哲、鳩山一郎、大平正芳、細川護熙、麻生太郎、鳩山由紀夫。戦前、戦後を通して首相の数は計62人。約13%の割合であり、日本全体の対人口比1%弱に比べるとかなり高い。


とのことで、確かに比率は高いですね。
ただ、大平正芳氏の例のように、宗教に対する姿勢を個別に検討してみたら相当に濃淡のバリエーションがありそうです。
また、岸田首相がキリスト教と何か関係があるのかと思って検索してみたら、『日刊キリスト新聞』の2020年9月9日付「【自民党総裁選】菅氏、岸田氏、石破氏3人のキリスト教との関わり」という記事が出てきました。
それによると、

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岸田氏は広島1区選出の、祖父から続く世襲議員。本籍地は広島だが、生まれは東京だ。血液型はAB型。
広島には、毛利氏家臣で三入高松城(広島市)城主だった熊谷元直(くまがい・もとなお)が1687年、黒田官兵衛の勧めで洗礼を受け、洗礼名メルキオルと名乗り、近年、福者となった。安芸広島藩主の福島正則もキリシタンを優遇したが、後に禁令が厳しくなると、キリシタンは衰滅していく。
岸田氏自身とキリスト教との関わりは特に認められないが、7歳下の裕子夫人が広島女学院高校の出身。2016年に創立130周年を迎えた、中国地方では最も歴史の長いミッションスクールだ。創立者は砂本貞吉(すなもと・ていきち)牧師。米国でキリスト教に触れ、1886年、米国南メソヂスト監督教会の宣教師W・R・ランバス(関西学院の創立者)らの協力を得て女学校を創立した。学院聖句は「我らは神と共に働く者なり」(1コリント3:9、文語訳)。


とのことで、夫人がキリスト教徒ならともかく、単にミッションスクールを卒業しただけでは、結局のところ何の関係もないという結論になりそうですね。
日本の「ミッションスクール」は、信者の拡大という「ミッション」は全然果たしておらず、せいぜい死亡する信者と同程度の信者を新たに供給するミニマム・ミッション機関ですからね。
ちなみに、記事の時点では既に総裁候補を降りていた菅義偉氏の場合、

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出身地は、宮城県や山形県の県境に近い秋田県南部の湯沢市で、イチゴ農家の長男として生まれた。最寄り駅は奥羽本線の院内駅だが、線路の反対側の西に、「東洋一の大銀山」とうたわれた院内銀山がある。江戸時代初期には多くのキリシタンが各地から逃れて鉱夫として働き、宣教師たちも伝道のために訪れたところだ。その後、迫害が強まり、殉教者が多数出た。
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とありますが、これまた菅氏の信仰・宗教観とは全く関係なくて、よくまあここまでこじつけたものだと感心します。

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5歳下の真理子夫人との間に3人の息子がおり、長男は明治学院大学を卒業している。米国長老教会のヘボン宣教師が1863年に創設した日本最古のキリスト教主義学校だ。教育理念は「Do for Others(他者への貢献)」。新約聖書マタイによる福音書にあるイエスの言葉「Do for others what you want them to do for you(人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい)」(7:12)から引用されたもので、ヘボンの信念をよく表す言葉とされている。
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これも「明治学院大学を卒業」という経歴がキリスト教信仰と特に関係ないのが日本の「ミッションスクール」の実態ですからね。
また、総裁選には結局立候補しなかった石破茂氏の場合、

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母方の曾祖父が、新島襄の愛弟子である金森通倫(かなもり・みちとも)。熊本バンドの一人として熊本洋学校から同志社へと進み、卒業後は日本組合基督教会・岡山教会の牧師を務めた。金森の妻、旧姓・西山小寿(こひさ)は神戸英和女学校(現在の神戸女学院)の第1期生で、岡山の山陽英和女学校(現在の山陽学園)の創立者の一人。二人の間にできた長男、太郎が石破氏の祖父で、その長女の和子が石破氏の母親となる。
石破氏は、母親が通っていた日本基督教団・鳥取教会(現在は橋原正彦牧師)において18歳で洗礼を受けた(現在も現住陪餐会員)。同教会の宣教師によって始められた愛真幼稚園に通い、鳥取大学教育学部付属中学を卒業後、慶應義塾高等学校に進学。日本キリスト教会・世田谷伝道所(現在の世田谷千歳教会)に出席し、教会学校の教師も務めた。近年は国家晩餐祈祷会(日本CBMC主催)、キリスト教関係の講演会でゲストとしてスピーチに立つことも多い。
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ということで、こちらは本物の信者ですが、ただ、金森通倫(1857-1945)は極めて特異な宗教遍歴を経た人です。
同志社を出た後、自由キリスト教運動の影響を受けて「基督教の新解釈を公表して世を驚かし」、更に1898年には棄教を宣言しますが、大正期になって再入信して救世軍に加わり、次いで昭和に入ると今度はホーリネス教会に入会。
しかし、ここも暫くして脱会するなど信仰面で激烈な変遷を重ねた人ですね。
ま、変わり者という点では石破氏は金森通倫の直系といえそうです。

「教祖を神とせずとも基督教の信仰は維持されると云ふのが其の主たる主張」
金森通倫の「不穏な精神」
三谷太一郎『ウォールストリートと極東─政治における国際金融資本』
鈴木範久『日本キリスト教史─年表で読む』

※筆綾丸さんの下記二つの投稿へのレスです。

娼婦ソーニャ 2022/01/10(月) 14:34:40
小太郎さん
大平正芳の『田園都市国家構想』を継承する岸田首相が、愛読書として、ドストエフスキーの『罪と罰』を挙げていたときは、えっ、とまず驚き、ついで、かりにそうだとしても、還暦過ぎの爺さんなら、そんなこと、恥ずかしくて言えないんじゃないの、と二度驚きましたが、あの小説の登場人物のなかでは、娼婦のソーニャだけがキリスト教的で、もし岸田首相がソーニャのファンだとすれば、岸田は大平のキリスト教的な精神の正統な継承者だ、と言えるのかもしれませんね。

昨日、『鎌倉殿の13人』を見て、つまらぬ大河ドラマになるんじゃないか、というような、いやーな予感がしました。
追記
こういう真面目な見解もありますが。

虚実皮膜と青い卵 2022/01/11(火) 12:11:25
ザゲィムプレィアさん
最近、小田原は村上春樹『騎士団長殺し』の舞台で有名になりましたが、しばらく前、曽我の梅林に行き、曽我兄弟所縁の宗我神社と越前寺を訪ねたことがあります。中世であれば、あのくらいの仇討ちはむしろ普通の事件で、歌舞伎の影響があるとは言え、なぜかくも人気があるのか、実はよくわからないのです。わからないと言えば、なぜ兄が十郎で弟が五郎なのか、というのもわかりません。
梅と言えば、藤原定家に、
梅の花にほひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ
という名歌があって、考えようによっては、仇討ちの幻のようにも読めます。その場合、袖とは虎御前のものになりますね。
呉座氏のレビューに、頼朝の肖像画が掲載されていますが、現在では、あれを足利直義とする説が有力で、なぜ堂々と頼朝像としているのか、これもよくわかりません。せめて、伝源頼朝くらいがいいのでは、と思います。
初回放送では、女装の頼朝が馬に乗って逃げるシーンがありましたが、頼朝は、相模川の橋供養の帰路、落馬して、それが原因で死んだとされているので、逃げるとき、いちど落馬させて、あれえ、とかなんとか、女言葉で言わせておけば、面白い伏線になったはずで、かえすがえすも残念です。
次回以降では、平清盛(松平健)がマツケンサンバのステップで福原に遷都するとか、歌唱力のある西田敏行(後白河院)が朗々と今様を唸るとか、そんなシーンがあれば、重厚な喜劇になるのではないか、と思っています。

小太郎さん
マルクスの青い鳥と言えば、昨日の王将戦で、挑戦者が昼食に青い卵(アローカナの卵)のオムライスを食べて話題になっていましたね。
コメント
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斎藤幸平『人新世の「資本論」』についてのまとめ

2022-01-11 | 斎藤幸平『人新世の「資本論」』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2022年 1月11日(火)11時20分31秒

そろそろ資本主義は「宗教」なのか、というコンニャク問答は終わりにしたいと思いますが、仮に資本主義が「宗教」であるとしたら、その神はヤヌスのように、少なくとも二つの顔を持っていますね。
ひとつは豊穣を約束する顔であり、もうひとつは生贄を求める残酷な顔です。
ただ、生贄を求めるのはコミュニズムも同じであり、資本主義が求めた生贄の人数とコミュニズムが求めた生贄の人数を比べたら、まあ、スターリンの大粛清や毛沢東の文化大革命、更にポルポト率いるクメール・ルージュの大虐殺等々の輝かしい歴史を誇るコミュニズムの方が優勢でしょうね。
さて、去年、というか先月の13日に「私も「新しい資本主義」について考えてみた。」という投稿をして以降、主として自称・経済思想家、客観的にはマルクス考古学者の斎藤幸平氏の著書『人新世の「資本論」』を検討してきました。

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【「新書大賞2021」受賞作!】
人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」=環境危機の時代。
気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろう。
それを阻止するには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないが、資本主義を捨てた文明に繁栄などありうるのか。
いや、危機の解決策はある。
ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた。
世界的に注目を浴びる俊英が、豊かな未来社会への道筋を具体的に描きだす!

https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1035-a/

ただ、これはもちろん同書が素晴らしい著作だからではありません。

斎藤幸平氏は「環境スターリン」?(その1)~(その7)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a4c58d1fc98183db7e5fa73dbcea8237
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/523b1955e38c41d8c25648dfe43baf24
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/4b59cd9fd8deab7f5ecf991e6f726fc1
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/1e191c9b0b8147e060f16b1043387247
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/59f0e77a8582704c5292a1c4d65044fa
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a3cbcc935bd33a63de22e15036fc061d
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/267ba48217dc75589e4b74151783c65e

斉藤氏がアメリカ出羽守でもドイツ出羽守でもなく、実は日本出羽守であったというのは私にとっても意外な発見でした。
斎藤氏は「Deutscher Memorial Prize(ドイッチャー記念賞)」を受賞したのが自慢のようですが、別にノーベル賞のように賞金がもらえる訳でもなさそうで、数少ないマルクス主義の研究者が仲間内で褒め合い、マルクス主義文献の売り上げに貢献するために作った賞のようです。
要は「マルクス互助会」の宣伝戦略ですね。

マルクスの青い鳥(その1)(その2)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/0538ac45b7dc4a14628bb3f552a56496
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/528e2c3ee75efff95a402193dc3f04b6

さて、そんな斉藤氏がマルクスの正統的な後継者かというと、私は疑問を感じます。
1818年にプロイセンで生まれたマルクスは、1883年にロンドンで客死するまで、自然科学を含め、諸学問の最新の動向に関心を持ち、自身の理論を、その時代において最新の水準に保とうと終生努力した人ですが、斎藤氏にそのような姿勢があるのか。
マルクスが死んでから104年後、1987年に生まれた斎藤氏は、「環境危機」の「解決策」が「晩期マルクスの思想の中に眠っていた」ことを「発掘」したのだそうで、マルクス考古学者としての斎藤氏の努力に対して、私も「ご苦労様」程度の言葉をかけるのにやぶさかではありません。
しかし、二十代という学者として本当に大切な時期を単調な「発掘」作業に従事していた斉藤氏は、その間、様々な学問分野の動向を学ぶ時間はなかったようで、「資本主義の際限なき利潤追求を止め」ると息巻きながら、およそ現代資本主義を理解しているとはいえず、その労働関係についての理解は未だにテーラーシステム段階に留まっているようです。

斎藤幸平氏とテーラーシステム
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/0a1a01e1a421733b0eb0c4ec97d4d944

また、斎藤氏は東大理Ⅱに合格する程度の理系の素養はあったものの、「発掘」作業に従事している間にすっかり時代から取り残され、コロナ禍への製薬業界の対応に窺われる現代資本主義の最先端の動向についてもあまりに鈍感なようです。

斎藤幸平氏とコロナ禍(その1)~(その9)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/f1283ba9fc4698ea8e7de2e3dade9847
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/cb273a064dc23ec48b9984f54b74ab39
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/706107a4e358513ad5187fd3fa8777cc
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/c46bede94acc3da8a4ada4b6dd0c27bb
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/e0c2cf27e30bb37d0ba9de9a5cbb8dd2
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/6fee6795ec9eaa49eb9a7d8c93f5687e
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/9142a5606e0cf2908c8836211c989511
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a049ac48d21a09b363291210f3226d0f
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/be09ed44f8008b0be44031029df8f65b

投稿の順番は前後しますが、私は筆綾丸さんに紹介された池上彰・佐藤優『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972』(講談社現代新書、2021)を読んでみて、佐藤氏の、

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佐藤 だから共産主義なる理論がどういう理論であって、それはどういう回路で自己絶対化を遂げるのか、そして自己絶対化を克服する原理は共産主義自身の中にはないのだということは、今のリベラルも絶対に知っておかなければいけないことなんです。
 そして私の考えでは、その核心部分は左翼が理性で世の中を組み立てられると思っているところにあります。理想だけでは世の中は動かないし、理屈だけで割り切ることもできない。人間には理屈では割り切れないドロドロした部分が絶対にあるのに、それらをすべて捨象しても社会は構築しうると考えてしまうこと、そしてその不完全さを自覚できないことが左翼の弱さの根本部分だと思うのです。

https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/e7083a71252c81209aa11af3fef15ac3

という見解には感心しました。
核心部分云々は、まさに私が『人新世の「資本論」』を読んでみた感想そのものですね。
斎藤氏は日本どころか世界全体を理性で組み立てようとしていますが、そんなことは全く無理です。
中国もロシアも、イスラム原理主義も存在せず、全人類が地球環境危機に一丸となって立ち向かって行く仮想世界ならば斎藤氏の思考実験も多少の価値はあるでしょうが、その前提が存在しないので、斎藤氏のようにファンタジーを語っても無意味ですね。
斎藤氏は自身が素晴らしい知性だと思っていて、既に「自己絶対化を遂げ」ていることが明らかですが、日本の左翼の歴史をざっと振り返っただけでも、斎藤氏程度の知性は掃いて捨てるほどいます。
斎藤氏レベルの頭の持ち主がそれなりに一生懸命考えた程度のことは、環境危機という要素を除けば、日本の左翼史の中で全てが出尽くしていますね。
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