学問空間

【お知らせ】teacup掲示板の閉鎖に伴い、リンク切れが大量に生じていますが、順次修正中です。

「高等遊民」の大幅な拡大を国家目標とすべきである。

2022-01-14 | 斎藤幸平『人新世の「資本論」』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2022年 1月14日(金)12時47分2秒

私くらい『人新世の「資本論」』を熟読している読者は珍しいはずですが、ツイッターでは、私は何故か斎藤幸平氏にブロックされています。
私が何か斉藤氏の気に障るようなことを書いているのでしょうか。
「脱成長コミュニズム」のような大胆な「革命」を起こそうとする偉大な「経済思想家」ならば、もっと鷹揚な態度で読者に接していただきたいものですね。

https://twitter.com/koheisaito0131

さて、「脱成長コミュニズム」に対抗して、私は「資本主義のひょうきん化」を提唱したいと考えますが、「資本主義のひょうきん化」とは何かというと、資本主義のスピード感と柔軟性を維持しつつ、人々に過度の精神的負担を与えない、「遊び」のある資本主義ですね。
この「遊び」のある資本主義社会に正面から反するのが安倍元首相の唱えた「一億総活躍社会」で、本当に国民全員がみんな活躍してしまったら、国家の危機に際して予備兵力が足りず、社会が一挙に崩壊してしまいます。
平時には、社会にはあまり活躍しない人々、「遊び」に従事している人々が潤沢に存在することが必要です。

「一億総活躍社会の実現」(首相官邸サイト内)
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/index.html

ただ、私が想定する「遊び」に従事する人々とは、もちろん昼日中から酒を飲んだりパチンコをしたりしている人ではなく、高度な教育を受け、いざという時には社会の重要な戦力となり得る能力を持った「高等遊民」です。
かつて「高等遊民」は、

-------
日本で明治時代から昭和初期の近代戦前期にかけて多く使われた言葉であり、大学等の高等教育機関で教育を受け卒業しながらも、経済的に不自由がないため、官吏や会社員などになって労働に従事することなく、読書などをして過ごしている人のこと。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E9%81%8A%E6%B0%91

などと定義されていましたが、私は「高等遊民」という言葉にもう少し肯定的なニュアンスを感じていて、職業の有無も別にメルクマールにする必要はないように思います。
1980年代後半からの莫迦げた「大学改革」が行なわれる前は、人文系の大学教員などずいぶん余裕のある生活を送れていた訳で、こうした人々も、というか、こうした人々こそ「高等遊民」の代表と考えるべきです。
そして私は「高等遊民」の大幅な拡大を国家目標とすべきだと考える訳ですが、そのためには多くの「高等遊民」候補に、あくせく働く必要はなくとも、それなりに余裕のある長期的かつ安定的な生活を保障する仕組みが必要となります。
もちろん、その前提として、日本全体が経済的に豊かな社会でなければなりません。
また、ウィキペディアによれば、町田祐一氏の『近代日本と「高等遊民」』(吉川弘文館、2009)には、かつての高等遊民が「最終的に昭和初期満州事変・日中戦争へと続く対外戦争の中で起きた軍需景気により、就職難が解消し、国家総動員体制の元で何らかの形で戦争へ動員され、高等遊民問題は解消に向かっていった」といったことが書いてあるようですが、こうした歴史に鑑みても、戦争を起こさないことも大前提となります。
この点、岸田政権の唱える「新しい資本主義」に、戦争の回避のために我が国は何をなすべきか、という観点が乏しいことを以前少し書きました。

私も「新しい資本主義」について考えてみた。
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/afa650289cf2a6a6e6377a31a4350d95

さて、こうした前提・大前提を勘案すると、仮に「高等遊民」候補に、ブラブラ働きつつも結果的に世界平和に貢献することができるような職場を提供することができれば、「資本主義のひょうきん化」への道筋も見えてくるような感じがします。

-------
町田祐一『近代日本と「高等遊民」─社会問題化する知識青年層』

明治末~昭和初期、高等教育を受けながら一定の職にない「高等遊民」が社会問題化した。「危険思想」への傾斜が懸念された彼らに、政府や世論はどう対応したのか。高等遊民の実像と政治社会へ与えた影響、各種政策や自助努力による解決策をメディア史料などから解明。現代のニート・フリーター問題にも通ずる社会矛盾を考え、近代日本社会を問い直す。

http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b75791.html
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする