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斎藤幸平氏とコロナ禍(その8)

2021-12-31 | 『鈴木ズッキーニ師かく語りき』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2021年12月31日(金)12時24分50秒

予防接種禍訴訟の弁護団は、自分たちが正義の戦いをしているとの揺るぎない自信を持って国を相手に戦ったのでしょうが、結果的に反ワクチンの風潮を生み出したことを現時点でどのように評価すべきなのか。
具体的には、HPVワクチンの接種が激減して、ワクチンを接種していたならば死ななくて済んだ多数の犠牲者を出してしまったことをどう考えるのか。
ま、これは専門知識のない私には判断が難しい問題ですが、羹に懲りて膾を吹いてしまったのではないか、という疑いはぬぐえないですね。

『子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識と正しい理解のために』(公益社団法人 日本産科婦人科学会サイト内)
https://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
「積極的勧奨再開について」(同)
https://www.jsog.or.jp/modules/news_m/index.php?content_id=1104

さて、山際淳一郎氏が日本のワクチン開発の遅れの原因として挙げる二番目は国防・安全保障の観点の欠如です。(p38以下)
このような指摘が「日本唯一のクオリティマガジン」(但し自称)である『世界』に登場するのは非常に珍しい感じがします。

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安全保障の一環としてのワクチン開発

 現在、コロナワクチンを製造しているのは米、英、独、中、ロ、印の六カ国だ。これらの国々と日本の間には開発動機に決定的な違いがある。それはワクチンを、国防や安全保障の一環ととらえるか否かだ。遺伝子研究の世界的権威で、がんプレシジョン医療研究センター所長の中村祐輔氏は、一一年間の滞米生活の実感をもとに、こう指摘する。
「アメリカは常にバイオテロにさらされるリスクを考えながら、ワクチン、治療薬を開発しています。新しい生物兵器で攻撃されたときにどれだけ早く対応できるかに国の命運がかかっています。コロナのパンデミックは一種の戦争状態ですから、国防の視点で軍産官学が団結してワクチン開発を進める。日本にはそういう意識がまったくありませんから、比較にならないくらい開発基盤が弱い。バックグラウンドが全然違います」
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中村祐輔氏は今年、文化功労者に選出されましたね。
その経歴はあまりに華麗で、

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 1952年大阪府生まれ、68歳。1977年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部第2外科(神前五郎教授)および分子遺伝学教室(松原謙一教授)から、1984年米ユタ大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員(レイ・ホワイト教授)を経て、1987年ユタ大学人類遺伝学助教授に就任。1989年に帰国後、癌研究会癌研究所生化学部長として、ユタ大学留学中に発見した遺伝子の反復配列VNTRを遺伝子多型マーカーとして活用し、家族性大腸腺腫症(FAP)の原因遺伝子として、がん抑制遺伝子APC遺伝子の単離・同定に世界で初めて成功した。
【中略】
 2011年から内閣官房参与・内閣官房医療イノベーション室長を務めた後、2012年からシカゴ大学医学部腫瘍内科教授、兼、個別化医療センター・副センター長を務め、がん個別化医療の実現に貢献し、2018年より現職(公益財団法人がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長)に就任。現在も、個々の患者のがんゲノム情報に基づいたがん免疫療法の実用化を目指した研究を牽引している。
 また、2018年より内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」のプログラムディレクターに就任している。
東京大学名誉教授、シカゴ大学名誉教授。1996年武田医学賞、2000年慶應医学賞、2003年紫綬褒章、2020年クライベイト引用栄誉賞などを受賞。

https://www.jfcr.or.jp/genome/news/8932.html

といった具合です。
ここには記されていませんが、中村氏は東証マザーズに上場している創薬ベンチャー、オンコセラピー・サイエンス株式会社の創業者の一人で、中村氏がノーベル生理学・医学賞を受賞するのではないか、という噂で株価が変動するような立場の人ですね。

「<JQ>OTSが急落 ノーベル賞の期待剥落で」(日本経済新聞2020年10月6日)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL06HBG_W0A001C2000000/
オンコセラピー・サイエンス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9

ま、こういう経歴の人ですから、中村氏はアメリカのワクチン開発の背景を熟知されており、その証言は信頼できますね。
さて、続きです。(p39)

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 バイオテロの危険性は東西冷戦の終結後に高まった。旧ソビエト連邦の生物兵器製造組織の人や情報が流出したからだ。ソ連崩壊後に米国に亡命した、生物兵器開発のリーダーで医学者のケン・アリベックは、自著『バイオハザード』で赤裸々に告白している。
「一九九〇年一二月、われわれはエアロゾルにした新型の天然痘兵器の実験を、ベクター(現・ロシア国立ウイルス学・生物工学研究センター)の爆発実験室のなかで行った。実験は成功した。コンツォヴォ(ベクター所在地)に新しく建てた第一五ビルの生産ラインで、一年に八〇トンから一〇〇トンの天然痘ウイルスを製造できることが、計算で明らかになったのだ。これと並行して、野心に燃えたベクターの若い科学者たちは、遺伝情報を改造した天然痘ウイルスを開発しており、われわれはその分野でもこの生産ラインを利用できないかと考えていた。
 WHOが種痘の普及で天然痘を根絶したと宣言したのは一九八〇年だった。その一〇年後に自然界にはない天然痘ウイルスの開発が行なわれ、兵器に転用されていたことに驚きを禁じ得ない。一九九〇年代半ばには北朝鮮、イラク、イスラエル、イラン、中国、ロシア、インドなど一七ヵ国が生物兵器を所有している、と米国議会技術評価局(OTA)は上院の聴聞会で発表した。その後、このリストにはさらに多くの国が加わっている。
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ケン・アリベックの『バイオハザード』は1999年にアメリカで出版され、邦訳もあるそうですが(山本光伸訳、二見書房、1999)、私は未読です。

ケン・アリベック(1950生)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%99%E3%83%83%E3%82%AF

少し検索してみたところ、山内一也氏(1930生、東京大学名誉教授)が同書について検討されていますね。

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霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第79回)6/25/99

 本講座(第69回)でソ連の生物兵器計画の実質的責任者で、1992年に米国 に 亡命したケン・アリベックKen Alibekの話としてソ連における生物兵器開発の状況 や マールブルグウイルスの実験室感染による死亡事故などをご紹介しました。今回、 彼 の書いた本「バイオハザード」が出版されました。かなり派手に宣伝されているの で 、お読みになった方もいると思います。
 彼の周辺での権力闘争、それにまつわるエピソードなどが多く紹介されておりソ 連 の軍事研究の実態は驚かされます。しかし実際に生物兵器に関する技術的な部分は あ まり多くありません。生物兵器の実態に関するレポートという観点では贅肉が多す ぎ ます。そこで私なりにソ連の生物兵器の実態に関する部分を拾い出して、その要約 を 試みてみます。

https://www.jsvetsci.jp/05_byouki/prion/pf79.html

ソ連からの亡命者が書いた本であるため、若干の誇張はあるのでしょうが、旧ソ連が生物兵器開発に熱心だったことは間違いないですね。
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