書く仕事

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「プリズム」百田尚樹

2014年05月05日 18時28分50秒 | 読書
「プリズム」百田尚樹


書評をする時、その内容は、過去に読んだその作者の小説の評価が高かったか否かに大きく影響される。
過去に読んだ小説に感動したなら、これから読もうとする小説にも、それと同じかそれ以上の感動を期待してしまう。
百田さんの場合、今までに私が読んだ小説は、、、
「永遠の0」
「モンスター」
「錨を上げよ」
「幸福な生活」
「風の中のマリア」
「影法師」
いずれも深い愛情や、人間の業、並外れた知性等を、綿密な取材をもとに、独自の視点で鋭く切り込んだものであった。
ただし、そこには、読者が主人公等の登場人物に深い共感を覚えることができるという共通点があった。
しかし、このプリズムは...
読んでて感じたことは、ものすごい「違和感」であった。

夫を持ち、32歳になる梅田聡子は、専業主婦の息苦しさから逃れるために家庭教師を始める。
教え子の家には離れがあり、そこにはちょっと変わった青年、広志が住んでいた。
広志は多重人格(解離性同一性障害)を病んでいた。
教え子宅の庭で時々広志と話をすると、複数の人格がランダムに現れる。
紳士的な卓也、明るい純也、乱暴者のタケシなど5人の人格が存在している。
彼(ら)と話をするうちに、聡子は多重人格の一人、卓也に恋をしてしまう。
卓也以外が広志に現れているときは、顔を合わせないようにする聡子だった。
しかし、卓也への想いが募るにつれ、教え子やその家族、広志の主治医との関係も複雑に捻じれてしまうのであったが...

というようなお話であるが。
コメントしづらい。

小説の帯には次のような広告が印刷されている。
「どうしてもこのラストシーンが書きたかった-百田尚樹、いま最も泣かせる作家が放つ衝撃の恋愛サスペンス」

という広告は、はっきり言って詐欺だろう。
嘘というより、全くの的外れである。
ラストシーンは当然予想される内容だし、このラストシーンで泣く人なんているのかな?
それより、卓也にのめりこんでいく聡子がとっても気持ち悪い。

病んでいる広志の方が正常に見え、聡子のほうが病んでいるように感じてしまうことが違和感の原因のようだ。

ただ、この小説の価値は、解離性同一性障害という病気がどのようにして起こり、治癒するかということを、歴史的な経緯や現代精神医学の知識を交えてわかりやすく解説してくれる点にはあるような気がする。
この病気の苦しさもさることながら、この病気にならざるを得なかった患者の環境のつらさには涙と怒りを禁じ得ない。
せっかくこれだけ綿密な調査と取材をしたのなら、もっと別の演出の仕方があっただろうと、百田さんに突っ込みたくなるのは私だけだろうか?