書く仕事

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「不知火海」内田康夫

2012年12月12日 11時25分44秒 | 読書
「不知火海」内田康夫



久しぶりの内田ミステリー.

不知火海とは九州の西側にある八代海の別名ですが,不知火という現象が見られることから付いた名前のようです.

物語は戦後の高度成長を支えた炭鉱が,多くの人の犠牲のもとに成り立っていたこと,そしてエネルギーが石油,原子力へと移行していくにつれ炭鉱の衰退とそこを縁に暮らしていた人々の苦悩を中心に進みます.

ストーリーは推理小説の形を取っていますが,謎解きというより戦後の炭鉱哀史とそこを食い物にしようとする組織の悪行が骨組みになっています.

炭鉱の悲劇は,九州に住む私でも良く知らなかったことでした.
戦後炭鉱史の啓蒙書としても価値がありそうです.

巻末に豊富な文献が記してあり,参考になります.

主人公の,おなじみ浅見光彦は,探偵としてはちょっと頼りない存在として描かれてます.

快刀乱麻の推理の後に「君が犯人だ」なんてことは言わない.

いつも犯人の後手後手になり,人の助けばかりあてにしている.

しかし,それでも調査能力はあり,細かいことを積み重ねて真相を明らかにする点では「実務型探偵」といえるかな.

人間味というか,人を羨んだり,家族とうまくいかないことを悩んだりするようなところもあり,極めて人間的な存在として描かれているのも特徴です.