書く仕事

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「パーフェクトプラン」柳原慧

2008年01月15日 21時48分26秒 | 読書

著者名は「やなぎはら けい」と読むそうです.
第2回このミス大賞受賞作です.

賞をとった時の作品の題名は「夜の河にすべてを流せ」でしたが,それに加筆した作品がこれ.
面白いですよこれは.
新しいです.今どきのノンストップ小説というのか.

ひとことでいうと「誘拐ミステリー」なんですが...

まず,確かに子供が誘拐されるのですが,身代金の要求は無し.
犯人は,子供の父親に,身代金の代わりに,あるメールを送りつける.
実に親しげに,好意的に...
そして,誰も傷つけることなく,5億円をせしめてしまうのです.
ある方法でね.

最近,世間を騒がす事象が,これでもかという感じで登場します.

ネットトレーディング,代理母,コンピュータウイルス,ES細胞

なんじゃ,これはって感じです.

しかし,これらが巧みに,有機的に繋がっている.

ふむふむ,そういう手があったか!って思わされます.

実は,狂言回しというか,真の黒幕と言うか,悪いやつが隠れているのですが,これがまた,いまどきのやつなのですよ.詳しくは言えませんがね.

いまどきの仕事をしている人は,自分の得意分野が出てくれば,くっくっと笑いながら読めるかも.

そうそう,最近のニュースを見ていて思ったのです.
「事実は小説より奇なり」と.
というのは,京都大学の山中教授のチームが皮膚の細胞から万能細胞を作り出すことに成功したというニュースで持ちきりですよね.
実はこの事実が先にあれば,この「パーフェクトプラン」は書かれることはなかったのです.

なぜかという詳しい理由は読んでからのお楽しみですが,かいつまんで言うと,万能細胞は,今までの常識では受精卵からしか作れないと思われていたわけです.
受精卵はこれから,人間の体のあらゆる部位になっていくわけですから,そう思うのも自然ですよね.
しかし,同時に受精卵を必要とするために,本来,これから人間になるはずの細胞を一部の内臓や組織を取り出すためだけに使うということで,倫理的な問題を内部にはらんでしまうわけです.
移植を想定すると,他人の受精卵からできた組織を使えば,拒絶反応だっておきるし,問題はいろいろある.
しかし,人間の皮膚という一組織から万能細胞を作れれば,自分専用のものが作れるから倫理上も拒否反応も一気にクリアできるわけです.
つまり,山中教授らの成果が如何に素晴らしいものかと言うことですね.

これが事実は小説より奇なりという理由です.

しかし,それはそれで置いておきましょう.

この小説の面白さは,他にもいろいろありますから.
例えば,意識してか否かはわかりませんが,場面転換が劇画的なんです.
その場の主役や語り部が,一瞬でガラリと変わる.

ノンストップ小説と評される理由もここにありそうです.

この方の他の小説も読んでみたいですね.